トロン領の不思議
マケンロー公爵領に着いた。いや、今は違う。何という名前になったのか。
僕達はまず,サウスの冒険者ギルドに顔出しをした。
見知った顔が全く居ない。トム兄も誰か居ないかと見回していたが、受付嬢でさえもすべて,入れ替えられたのか、知らない顔ばかりだった。しかし、受付に、僕の名を言うと、「チョット待っててください。」と言って席を外した。
現れたのは、此処のギルド長で、矢張り知らない顔だ。
「此は、ククルス魔導師どの。この度此方に拠点を移されるのですか?」と言ってきた。
ぼくは、旅の途中で立ち寄っただけだというと、彼は、
「そうですか。ああ、お預かりしている物があります。」と言って、権利書を、渡してきた。此は国外退去の時に、取り上げられた、僕の家の権利書だった。
「酷い扱いを受けて、お腹立ちだったでしょう。此は貴男の物です。どうか受取っていただけませんか?」
僕は素直に受取った。余り、使う事は無いだろうが、僕の金で買った物だ。正々堂々と受取る。
3人で、昔の家に行ってみることにした。ヨウゼフにとっても思い出の家だ。
着いてみると、家は様変わりしていた。まるで、貴族の別荘のようになっていた。土地だけは広い僕の家だったが、今は広く感じないほど立派に建て替えられていた。
トム兄も、ヨウゼフも口をあんぐり開けて、ぼーとっと見ている。僕も同じだ。
僕達は取り敢えず、此処に3,4日留まることにした。べつに,急ぐ旅ではないのだ。
門には兵士の恰好をした、門番がいて、僕達に誰何してきた。名を名乗ると敬礼をして、慌てて家令を呼びに行った。僕達は為す術もなくそこで只立っていた。
家政婦は夫婦で常住していて、ここを、監理していた。国から言われて此処に居ると言う。
早速僕達は部屋に案内して貰い、3人同じ部屋で、固まって話をした。
「なんか、落ち着かないっす。」
「・・だな。」
「どうするよ。これ。」
僕は,マケンロー公爵領、いや元マケンロー公爵領の土地の調査をしてみることにした。
☆
元マケンロー公爵領は素晴らしく変わっていた。北のダンジョンがあったところはまだ、荒涼としていたが、他は農地が広がり、農民が多く此方に移住してきている。ダンジョンの周りだけ荒野だが、以前の此処を知っている僕らは、まるで違う土地に居るような感覚だった。
森も空気が違う。険峻な山にも行ってみたが、其処には、山羊のような動物や、タカのような鳥や兎に角色々な動物たちが生きていた。魔物も居たが、其れは普通の光景だ。僕達は、魔物を狩って、狩って狩りまくった。楽しかった。
ギルドに獲物を卸しに行くと受付嬢は、ビックリしていた。
「これでお前が、祭り上げられている理由が判明したな。」
トム兄が僕の今の状況は此処の激変だと断定した。僕も、いずれはこういう風に変わるだろうとはは思っていたがこの短期間に、激変するとは。土地の力強さ生命力に最敬礼したくなった。
土地の調査を終えた僕達は、一路トロン領を目指した。
☆
トロン領は相変わらず、のんびりしていた。空気が澄み、植生が豊かで、動物が肥え、魔物がいない。スライムはいるが、あれらは、益獣認定だ。
方々の土地を見て回ったが、今なら此処の特異性は異常だと分かる。あまりにも普通すぎる。在るべき姿、当たり前の姿。其れはこの小さい世界では、異常にに感じる。
僕らは、まずトロン領主に挨拶をしにいった。領主は代替わりしていて、今はヨウゼフの兄が領主をしていた。僕は、クルス州の者で此処の植物の調査をして、クルスの街の参考にしたいと申し述べた。
領主は快く受け、何でも持って行って良いと許可を出してくれた。
だが、彼はヨウゼフを覚えていなかった。5男坊が居たことすら知らなかった。ヨウゼフは
「まあ、そんなもんすよ。俺も、初めて会ったっす。」と、あっけらかんと言っていた。
僕は改めて、彼がこのように、貴族に似つかわしくない育ち方をした原因に納得したのだった。
僕の村には、もう両親も祖父も亡くなっていた。長男が、家主になっていて、今は彼の家族が大勢居た。子供が7人もいた。彼は喜んで迎え入れてくれたが、泊まるところは無い。
僕はチイのお墓にお参りし、僕らは森に入った。
森の深いところに綺麗な泉がありその辺に、僕は家を建てた。土魔法で造った簡易の納屋の様なものだ。
ヨウゼフは此に大層喜んだ。
「兄貴のあのお屋敷より,よっぽど良い」其れは僕もトム兄も同じだった。
暫く、此処が僕らの拠点になる。
ここで、僕は彼等に僕のスキルの事を話した。
彼等は黙って聞いてくれた。最後に、トム兄が、「まあ、そんなところだと思ってたよ。」と言った。
チイの事は流石に言えなかったが、それでも僕は、心が軽くなった。あまりにもすんなりと受け入れられたことに、僕は拍子抜けしたが、ヨウゼフが、
「あ、兄貴!凄すぎます。お、俺は凄い師匠に出会えたことに、神の采配を感じました!」
と、らしくも無いことをい事を言ってのけた。トム兄と僕は顔を見合わせて、笑った。
暫く僕らは、森の中を、探索して色々な植物を採取した。
「兄貴、チョット来てください!」また、何かみつけたのだろうか?デジャブを感じる。
其処にあったのは、とても大きな一本の木だった。