中ツ国からの使者
僕の所にアフロスのギルド総括長から連絡があった。
なるべく早くアフロスに来るように、と言う事だ。僕は一人アフロスに出向いた。
ギルド総括長の部屋に入ると其処に、中ツ国の使者という者がいた。
「カムイ・ククルスだな。」「はい」
僕は緊張した。今更また処罰でもするのだろうか。僕はお咎めなしで、国外退去だったはずだ。
もう三年以上立つのに。
「君の国外退去は違法ということで、この度取り消しになった」
「違法とはどういうことですか?」
「まあ、マケンロー公爵がその当時手を回して無罪の君に科した罰ということだ」
「今になって、ですか?」相手は,渋い顔で僕を見て
「マケンロー公爵が失脚したということだ。今、あの領は国の預かりになっている。公爵は取り潰しになった」
「それで、わざわざ僕に伝えに来てくれたのですか。ありがとうございます。」
「いや、本当は、もっと早くにこのように出来れば良かったのだが。ハンニバル伯の御意思に沿うことがなかなか、出来なかった。遅くなってすまなかった。」
聞けば、彼は師匠の意見書を読み、直ぐに国王に進言した派閥だったようだ。しかし、その当時マケンロー公爵の勢力があまりにも強く思うように出来ずにいた。師匠の暗殺も阻止出来ずに,悔し涙を流したと言っていた。僕は、
「では今、国に帰っても危険はないですか?僕の弟子や、師匠の弟子も此方でお世話になっているのですが。」
「大丈夫だ。本当は国に戻ってきて国政の助けになって貰いたいのだが。」
この話には、ギルド総括長から,待ったが掛かった。
「其れは困ります。彼等は,今、クルスの街には無くてはならない存在になっています。どうかその話は無し、と言う事に・・」
「ははは、分かっております。言って見ただけです。了承されるとは思って居りません。」
食えない奴だ。まあ、こうで無ければ,貴族の中で浮き上がってこれないのだろう。
僕はこれから自由に故郷に行くことが出来る。チイのお墓にも行ってみたい。
使者が最後に『君がしたことは,我が国にとって、神からの,贈り物だった。誰も,裁けはしない』といった。僕がコアを潰した事を彼は知っていた、ことを確信した。
丁寧にお辞儀をしてその場を辞した。
後で僕は思い出した。此方では、お辞儀はしないと言うことを。
☆
僕は早速ケビンやヨウゼフにこの話をした。ケビンは、
「帰りたいとは思わないな。もうこっちの方で生活の基盤が出来ている。妻も天涯孤独の身なんだ。遊びには行くかも知れないが。」
ヨウゼフは「兄貴が行くなら俺、着いていくけど,実家には帰りたくないっす」
そうか。僕だけが戻ってみたいと思っていたのか。
僕はトロン領にもう一度だけ行きたかった。チイのお墓参りもしたいし、トロンの植生がクルスにも欲しいと思っていたからだ。
出来れば挿し木が出来るものを何本か持ってきたい。
種籾も、欲しい。お茶の木も持ってきたい。行こうと思えば転移で行けたけど、村人に迷惑掛けるかもと、我慢していたのだ。
トム兄は行く、と言っていた。両親も何時亡くなるか分からない行けるときに行こう。と言う事になった。
☆
船旅は順調に,とはいかなかった。当初僕とトム兄だけだったのに、突然ヨウゼフが船に飛び込んできた。ミミから、逃げてきたらしい。まだやってたのか。
結局3人の旅になった。