エンドアの成り立ち
エンドアは僕の故郷トロンに近い。
トロンは、中ツ国の北に位置している。そしてトロンの北は森と山になっていて、領地自体は大きい方だが人が住む場所は極一部に限られていた。
その山の向こうに内海ロミールを挟んで、エンドアがあった。
エンドアは,海側に人口が集中していて、海岸沿いに細長い国だった。実際の領地は,実は凄く大きいと言うことだ。エンドアの北、砂漠地帯も国の一部なのだとか。
エンドアの成り立ちは、砂漠から逃れてきた人達によって始まる。それ以前の詳しい歴史は、言い伝えとして残っていた。
エンドアの前の国はエンドモアルと言い、以前、師匠が出した意見書の元の本の作者の国だった。
エンドモアルは当時、中つ国周辺の最大の国だった。人口も多くダンジョンをいくつも抱え、経済が良く回っていたようだ。
しかし在るとき一斉にスタンピートを起こし、あっという間に滅亡してしまったと言う。
生き延びた人々は海側に逃げ延び,このような形に収まった。
今は、其処には何も無い砂漠となりマナも少なく、魔物も少ない。
海側は、良く農産物と海産物が採れて豊かだと言う。魔物もいない。此は,トロンに在る世界樹のおかげではないだろうか?
彼女は師匠の意見書を見て、各地を回る事に益々力が入ったという。
師匠の意見書のモデルは自分の国だと直ぐ分かった。
彼女は、もっと魔法士を増やし備えるべきだと考えたのだ。
しかし、国に危機感はない。国には魔物がいないしダンジョンも無い。誰も砂漠には行かない。
聞くところによると砂漠を囲むように魔境があるらしい。態々,行って死にたくは無いだろう。
精霊族に関する物は見付からない。
コロニーにまた行って見るか。三つ子達にも会いたいし。
コロニーに行くとトム兄とリリ義姉さんも来ていた。今、リリ義姉さんはトム兄とミミ、トトでパーティーを組んで冒険者を再開している。三つ子は此処で大きくなるまで預かって貰っている。
そして偶に逢いに来る。三つ子達は家族に対してそんなに思い入れはないようだ。親が来ても、感激はしない。むしろ、他の子と遊びたがって、直ぐにどこかに行ってしまう。
「仕方ないわね。私も、こんなだったわ。」
親と何時も一緒に居ないと有り難みはない、と言うことだろう。
十分に周りから,かわいがられてもいるし。兄達は帰っていった。
僕はまた、語り部の老人のところに来ていた。
「また,お話か聞きたくてきてしまいました。」
「今度は何の話が聞きたいのじゃ?」
「精霊の話はありますか?」
「少しだけだが,在るにはあるが・・。なぜ、精霊?」
「興味がありまして。この間精霊族が来た事を,ご存じですか?」
「ああ、聞いた。わし等は,精霊族は余り好かん。精霊の言い伝えは、こうじゃ」
と言って、話し始めた。
☆
昔むかし、精霊王がいた。
精霊王は世の人々に無理難題を押しつけた。
この王は他の精霊の物を奪って仕舞う。
この王は他の種族の物を奪って仕舞う。
この王は精霊樹の力を奪って仕舞う。
やがて、皆は穢れてしまった。
おしまい
☆
何とも、素っ気ないお話だった。この間の抑揚のある話しぶりとは雲泥の差だ。
あっという間に終わった話を聞いて、僕はもっと無いかとねだった。
仕方なさそうに,渋々話し始めた。
☆
昔むかし、穢れ無き精霊の王がいた。
王は,数多の祝福を授かっていた。
王は、数多の人々を従えていた。
王は、精霊の道を通り精霊樹を行き来した。
王は,逆らう者を生け贄にした。
王は力を奪われた。
おしまい
☆
此もまた。さっきと同じ語り口か。よっぽど、精霊の話が嫌いなのか。
これ以上は辞めておこう。僕はお礼を言って帰った。