廊下
グレーの廊下を列になって歩く。みんな黙っている。前の子の髪が、歩く度サラサラと靡く。
美術で制作したのだろうか。微細なデッサンや、賞状、ポスターが所狭しと壁に並ぶ。
「私の作品もいつか飾られるかな」
まだ受かってすらいない高校の生活に、思いを巡らせた。
先まで進むと、小さなガラスケースが置かれていた。
International Olympiad
蛍光灯の光がきらりと反射していたのは、盾やメダルだった。那琉はすれ違いざま、それらに刻まれた文字に眼を凝らす。
「国際的な」
遥か昔に覚えた単語を見つけ、私はその文字群に惹きつけられた。ただ純粋に、綺麗だと思った。
何の大会なのだろう。
文字が読み切れずにもう一度目を凝らすと、正面から衝撃が走った。ぶつかったのか、すみません、と頭を下げる。
前の子が眼を丸くしてこちらの顔を覗き、こくりと頷く。
綺麗な子だ、また那琉は思ったその時、脇に挟んでいた書類が抜け落ちて舞った。
「げ…」
何人かの男の子の、くすくすと笑う声を背後に感じる。前の彼女は、慌てる私を前に、拾うのを手伝ってくれた。
これまた受験当日に何をしているのだろうか、この子と受かって、一緒に入学したら、改めて感謝を伝えなければ。
再び空想に頭を侵されそうになるかたわら、プリントを拾い、感謝を伝える。
三〇一号室はすぐそこにあった。
気を取り直そうと、まだ肩に着くか着かないかくらいの髪をきっちりと結い上げ、那琉は試験会場へ踏み入った。