Ⅵ 僕っ娘の先輩
あまりの話に驚く飛礫。
「だめ?かな」
俺は先輩から投げられた話に驚きすぎて固まってしまっていた。
「あ、そうだ。僕も自己紹介しないとね。柊 悠。よく間違えられるけど、僕、女なんだ」
は?僕っ娘ってことか?それ自体は別にいいんだが…。強くだって?
「えっと、俺じゃ力不足だと思います。それじゃ」
「あ、うん…」
ーーー翌日ーーー
「おーい、おーい!!」
ん?うるっせぇなぁ…。
「聞こえてないんかー起きろー」
「何だってんだよ…。また昼飯か?」
「違う違う。今回はお客様だ」
「あぁ?」
俺の安眠を邪魔するのはいったい誰だ…?
「えっと…あの…」
誰かと思えば、昨日の先輩か。
「あっ、鷹栖君!」
「…なんすか?」
「昨日のお願いなんだけど、」
「少し場所変えていいっすか。ここじゃ目立つ」
「あ、うん」
ーーー階段の踊り場にてーーー
「で、昨日のお願いでしたっけ」
「そうそう。僕を強くしてほしいんだ」
「なんでっすか?」
まぁ、大方理由は想像つくがな。
「僕、同じ2年生にいじめられてるんだ…。性別が女なのに僕なんていうからだってさ。別に一人称も格好も僕は僕なのにね」
こんな学園でもしょうもないことはやっぱりするんだな。
「それでさ、あいつら幹部だから曲がりなりにも僕より強いんだ。僕は能力も覚醒してないから、実技じゃ勝てなくてね…。先生も授業の間はぼこぼこにしても何も言わないんだ…。だから、せめてぼこぼこにならないくらいには強くなりたいんだよね…」
「そっすか。頑張ってください。俺じゃ力不足ですね」
面倒ごとはごめんだ。
「そんなこといわないでさぁ…」
「話はそれだけっすかね。じゃ、俺は寝ますんで」
「うん…」
その日は特にこれ以上は何もなかった。
ーーーこれまた翌日ーーー
「おーい!!」
ううん…またうるさい…
「昨日もうるさいが、今日もうるさいぞ」
「って言ったってなぁ、今日もお客様だし」
蒼汰が指差す方向にはまたもや先輩がいた。
「こりないっすねぇ…3回目っすか?」
「え?あ、うん。今日もお願いに来たんだ」
「俺じゃ力不足ですって」
「そんなことないよ!!君の斬撃すごかったじゃん!あれ、居合かな?それとも居合の要領で踏み切ってるだけなのかな。めっちゃ早かったよね!」
は?俺の斬撃が見えたってのか?
「僕、実技に関してはいまいちなんだけど、勉強はしてきたから知識はあるんだ。ま、実技だと役に立たないんだけどね…。とにかく!君の剣技に僕は惚れたんだ!」
惚れた。なんて言葉を聞いて、クラス中の視線が注がれる。先輩の目には周りは映っていないようである。
「はぁ…。場所変えましょ。ここじゃ目立ってしょうがない」
「え?あ、そっか。そうだね」
理解は早いようである。
ーーー屋上にてーーー
世間一般のは解放されていないであろう屋上。普通の学校では危険だからという理由で閉鎖されているらしいが、この学園では生徒のほうがよっぽど危険である。
「俺の剣が見えたってほんとっすか?」
「ほんとだよ!一瞬で峰打ちしてたよね!しかも剣もほとんど出してなかった!1回1回閉まってるのまで見えたよ」
まじか…人間には見えない速度でやったつもりなんだがな…。
「なんで見えたんすか?」
俺はそれとなく聞くことにした。こいつも、外界の住人かもしれん。
「僕はね、”見たものを忘れない能力”なんだ。コマ送りにして脳内再生もできる。でも、その場で見切れるわけじゃないし、見切れても体がついてかないから意味ないんだけどね…」
見たものを忘れない…か。見たところ、能力の強さには気づいていないらしい。
「だからお願い!僕を強くしてください!」
「はぁ…。じゃあ、俺に勝てたらいいっすよ」
「えー、それじゃ勝てないから無理じゃーん」
「そうやって、全部諦めてきたから今なんじゃないっすか?」
「うぐっ…そうかもしれないけどさぁ…」
「どうします?やるんすか?」
「やるっ!」
んじゃ、少しひねりますかね。
ぱちん…
「この前と同じ技だね。じゃ、僕からいくよ!」
先輩はかかってくるがやはり普通生徒。別に強くもない。なんかかわいそうになってきたな…。
「この程度っすか。終わりっすね」
そういった瞬間俺は剣を抜き、居合を浴びせた。峰打ちだから死にはしな…い?
「あぶなーい!」
どういうわけか、先輩は剣をよけきっていた。それどころか、刃の部分が触れて、服が少し切れている。
「先輩、よけました?」
「あーうん。君本気で当てる気はなかったでしょ?それで、前回見たやつと同じなら、よけられるかなって思って」
それで俺の剣がよけられたってのか。にわかには信じがたいが、刃の部分が服を切っているのがその証拠だろう。
「でもまぁ、次は多分よけられないから降参かなぁ。1発も当たってないし」
俺の剣が人間相手によけられたのはいつ振りか。
「でも、あきらめないよ!君がうなずいてくれるまではまた来るからね!」
少し血が湧いたかな。
「いいっすよ。先輩、強くなるの手助けしますよ」
「待っててね!って、え?いいの?」
「いいって言ってるじゃないっすか。俺の気が変わらないうちに」
「やったぁー!これからよろしくね!師匠!」
「師匠って…」
なぜか俺に教え子が増えた日だった。
「今日は僕かな。僕の名前は、柊 悠。好きなものは辛いものかな。能力は”見たものを忘れない”能力だね。僕のこと女って聞いても、鷹栖君は驚かなかったなぁ~」
作者:「さぁなぜでしょうね。自己紹介お疲れ様です」