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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
2.美食への誘い
8/12

フィーアトの街にて

エスタシオンの一行は、笑顔でフィーアトの街を去っていった。

それを見送った俺たちだが、それで俺たちの旅が終わる訳じゃあ無い。

俺たちは、早速行動を開始したんだ。

 四季娘(エスタシオン)たちと別れた俺たちは、翌日よりさっそく行動を開始した。なんせ俺たちは、働かなくても良い身分って訳じゃあ無いからあ。


 本当の事を言えば、現在俺の保有する資産を考えれば、マリーシェ達とグローイヤ達の面倒を生涯見ても、十分に御釣りが来るほどの財産を持っている。前回の人生から今世に戻る際、女神フェステーナ=マテリアルクローン=プロトタイプ=Mk8……通称フィーナの恩情により、以前に持っていた魔法袋をこちらへ持って来る事が出来たからな。当時の人界最高位パーティの一員だった俺は、それなりに裕福な身分でもあったんだ。もっともそれは、その時のパーティメンバー達からのお零れに近かったけどな。


 ともかく、現在俺には巨万の富がある。それこそ、郊外に小さな城を立てて、今後の余生を過ごせるほどにな。

 でもだからと言って、今後それに頼っちまえば、俺だけでなくマリーシェ達も堕落しちまうだろう。働いて生活費を得るのも面倒になるだろうし、何よりも冒険者なんて危ない仕事を続けていく理由が無くなっちまうからな。誰でも、働かなくて暮らしていけるならそちらを選ぶもんだ。


「しっかし、貴族ってのは変わり者が多いのかねぇ?」


 冒険者ギルドへ寄って仕事を探す前に、俺たちはフィーアトの街の北にある、フィーアト城を訪れた。今は、その帰り道だ。グローイヤの台詞は、そのまま全員の心情を表していると言ってもいいだろうな。


 フィーアト城は、城塞都市フィーアトの街の北方、だいたい四半刻(30分)ほど歩いた場所に居を構えている。フィーアトの街に負けず劣らずな城塞に囲まれた堅固な城で、王城「テルンシア城」と比べると無骨感が否めない。……まぁ、言ってしまえば地味で華やかさがないってところか。でもそれだけに、実を取った造りをしている。

 外敵に対してはこれ以上ないと言う強固さを備えていて、建立して数百年経つというのに、増改築を重ねた結果、古城と言う風情は一切なかったな。


「そうだねぇ。なんだかとても親しみやすいって言うか……」


「うぅん……。あれはどっちかちゅうと、馴れ馴れしいってゆぅんちゃうかぁ?」


「いや、それは余りにも酷い言い様だろう。せめて、豪放磊落(ごうほうらいらく)と言うべきだ」


「ご……ごうほう……? カミーラちゃん、余計に分からないよ」


「……ふん。意味は……大らかな性格……と言ったところね」


「もうすぐお昼ですねぇ。お腹空いたですぅ」


 そのフィーアト城で面会したのは、誰あろうフィーアト城主「ロドリス=デュ=セルマーニ公爵」だったんだ。そしてその人物の印象は、今マリーシェ達が語った通りのものだった。


 俺たちがわざわざフィーアト城へ行ったのは、クレーメンス伯爵に紹介状を貰ったからだ。そうでなければ俺たちみたいな、まだまだ駆け出しの若輩者に領主が会えたりしないもんな。

 セルマーニ公爵は、王位継承権を持つ歴とした王族だ。本当ならば、クレーメンス伯爵が俺たちみたいな素性の知れない者に、紹介状を書いて良い相手じゃあない。それでもそれが可能なのは、偏に公爵の為人(ひととなり)による。


「でもまぁ、何と言うか堅苦しくなくて良かったよな」


「うむ……。あのような貴族もいるという事か。新たな見識を得たな」


「そうねぇ……。私の事も気に(・・・・・・)掛けた様子(・・・・・)は無かったわねぇ……。近習の人たちはピリピリしてたけどねぇ」


 そしてその性格は、ビックリするくらいに豪放で豪胆で、俺たちの方が気を使うくらいだったんだ。

 お陰で俺たちは、余計な精神的疲労を負う事もなかったんだけどな。……まぁ、ある意味で疲れた訳だが。


 滞在している地方の有力者に顔が利けば、ここでの活動がやりやすくなる。余計なトラブルに巻き込まれずに済むし、何かにつけて足元を見られる事も無くなるもんな。

 クレーメンス伯爵も鷹揚な性格だが、セルマーニ公爵も随分と気さくな人物なようで、だからこそ伯爵が俺たちに紹介状をしたためる事が出来たんだろう。

 そして俺たちにしてみれば、有用な事は率先して活用するに限る。それが、冒険者なんて危うい職業を長く続けるコツでもあるんだ。

 そういった理由で俺たちは、公爵の元へ挨拶に向かったって話なんだ。




 フィーアトの街へと戻った俺たちは、早速仕事探しに動く事とした。急ぐ必要もないんだけど、何もせずに日を過ごす事を良しとするのんびり屋は、どうやら俺のパーティにはいないらしい。


「ええぇっ⁉ もうちょっと観光しても良いじゃんかあぁっ!」


 いや……いたよ、1人だけ。


「じゃあ、あんただけ1人でこの街をぶらついてくれば?」


「ウチらは別に、観光目的で旅してるんやないからなぁ」


「うむ。目的を違えては本末転倒も甚だしい」


「うっ……」


 相変わらず、女性陣のセリルへの評価は手厳しいな。ここまでズバズバ言われている様を見ると、流石に可哀そうになって来るんだが。


「この街を……知る方法は……何も観光だけじゃあないわ……」


「まぁ、何か依頼を受けながらこの街を散策すれば、一石二鳥ってのも頷ける話だわね」


「どのみち、全員で掛からねばならぬ依頼も少ないだろう。ここは、それぞれ別行動で動くと言うのはどうだろうか?」


「おっ? そりゃあ、面白いな」


「ふぅん……。確かに、当面はそれでも面白いわねぇ」


 おお? バーバラの発言以降、グローイヤ達はどちらかと言えばセリルの援護寄りな発言となってきたな。セリルの意図したものじゃあないだろうけど、それでも当分は自由行動と言う話に纏まりそうだ。

 確かに、いつでも全員で行動する必要はないし、個々に興味のある案件も違うだろうしな。グローイヤ達の案にも一理ある。


「とりあえずそのぉ……お昼にしませんかぁ?」


「は……ははは」


 と、ここでディディが、全く空気の読めていない言葉を割り込ませてきたんだ。これには、その場に留まっていた暗暗とした空気を霧散させる効力があった。


「……もぅ、ディディは仕方がないわねぇ。じゃあ昼食にしない、アレク?」


 やれやれと言った態の笑みを浮かべて、マリーシェが提案してきた。これには俺も異論はない。


「そうだな。今後はどうするか、飯を食いながら考えるか」


 一旦仕切り直すには、ナイスなタイミングだ。俺たちは、目についた食堂に入り昼食を摂る事にしたんだ。




 長いテーブルを囲んで全員が座り、俺たちは食事をしながらそれぞれの案を出しては話し合っていた。

 基本方針は、数日間はそれぞれ独自に行動する。まぁ、長くても3日ってところか。

 その間、誰がどんな依頼を受けても構わない。勿論、チームを組んで取り組んでも問題ない。要は、それぞれが興味を持つ内容の依頼ならば良いんだ。


「ねぇねぇ、アレクゥ。もし良かったら、私と依頼(クエスト)探さない?」


 各々ひとしきり話し合っている最中、マリーシェが俺に話を振ってきた。俺としては、今後の事を考える為に1人で過ごそうと考えていたんだけど。


「あかんでぇ。アレクはウチと回ってもらおぉ(おも)ててんから」


 そこへ、サリシュが加わってきた。どうやらマリーシェとサリシュは、別行動をとる事になったみたいだな。珍しい話だ。


「いや、アレクは私と……」


「アレク……私と……討伐系の依頼を……」


 すると、カミーラとバーバラもそこへ加わってきたぞ……おいおい。


「おぉっっと、アレクはアタイと依頼に行くのさ。……なぁ?」


 グローイヤまで参戦してきた。しかし、彼女の言い様は提案でもお願いでもなく……脅しだな。


「いや……出来れば俺とアイテムの話を……」


「いやいや、アレクは俺と修行するのさ。どうだ?」


「うっふふぅ……。彼は日ごろ疲れているんだからぁ、私とゆっくりお休みを……どうかしらぁ?」


「それは却下よっ! なんだか、如何わしい言い様だからっ!」


「……あらあら」


 シラヌスにヨウ、スークァヌまで便乗してきたか。まぁ、スークァヌの提案は、マリーシェに速攻で却下されちまっていたけどな。


「あ……あのぉ。わ……私の中の精霊について話を……。あ、すみません、お肉お代わりください」


 ディディもこれに加わろうとして、食欲に負けたみたいだな。こうして考えると、もしかすると彼女の話が一番重要かもしれない。……金銭的に。


 こんなにパーティメンバーに頼られるなんて、以前の人生では考えられなかったなぁ……。あんまり依存されるのも問題だけど、やっぱり嬉しいもんだ。

 ただまぁ、これだけ大きな街で大っぴらに冒険者がするような話をしていれば、多分奴ら(・・)がすり寄って来るんだよなぁ。


「よぉよぉ。お前ら、冒険者だろぉ? おいしい依頼があるんだけど、一枚噛まないか?」


 そんな事を考えていると、予想通り俺たちに話し掛けてきた奴らがいたんだ。


クエストの話をしていれば、それを聞きつけて寄ってくる奴らがいる。

そういう輩はたいてい……。

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