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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
2.美食への誘い
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晴れやかな出立

四季娘たちは俺たちと別れて、独自の道を行くことになった。

その事に誰も反対なく、出発の準備に慌ただしくしている。

そんな中、俺はセルヴィを呼びだして話を持ち掛けたんだ。

 依頼された荷物が街を発するには、それなりの量の集荷を終えてからだ。そうでないと、とても金額が見合わないからな。

 速達で……と考える者もいるだろうけど、冒険者に手紙の運搬なんて頼もうものなら、かなりの高額な依頼料が必要になる。知り合いの伝手でついでにって事も可能だろうけど、その場合はその〝ついで〟が都合よく起こらなければならない。

 街道は比較的安全とは言え、それでも魔物に襲われないとは言い切れない。それ以前にも、山賊盗賊に襲われる可能性は高い。だから殆どの者たちは、余程の事でもない限りは町間を移動しようとは考えないんだ。

 そんな理由から、離れた相手との連絡手段は限られているし、時間が掛かるのが現状だった。そしてそれが、一度別れた者たちが疎遠となる理由でもあったんだ。


「確かに、従来の連絡手段頼りならいずれは疎遠になるだろうな。仮にエスタシオンの噂を耳にしてその町へと手紙を送っても、到着した頃にまだいるとは言い切れないし」


 冒険でも行商でも、一所に留まる期間はそれほど長くはない。それを考えれば、手紙を送っても行き違いになる可能性が高いんだ。

 俺の言葉を、セルヴィは黙って聞いている。続きを促しているように見えるのは、今俺の言った事は聞くまでもなく当然の話だからだろう。


「でも四季娘が望むなら、遠く離れた相手でも即時会話を可能とする事も出来るんだが……どうする?」


「そ……そんな事は……!」


 俺の口にした提案を受けて、セルヴィは瞬時に反論しようとして言葉を失っていた。

 普通に考えれば、今の技術ではどのような方法を使っても、遠方の相手と即座に会話するのは不可能だ。魔法を使おうとも、最新技術を駆使しようともそれは同じ事だろうな。

 だから本来なら、俺の言った事は戯言でしかないって考えるのが普通の反応だろう。実際、セルヴィも最初は即座に否定しようと考えたはずだ。

 だけど、全てを言い切らずに口籠ったのは、相手が俺だから(・・・・・・・)……だろうな。

 これまで俺は、今の俺たちでは手に出来ないようなアイテムを少なからず提供してきたし、年齢に見合わない知識を披露してきたりもした。

 その記憶があるから、俺の話に頭ごなしの否定が出来なかったんだ。


「ここから先の話は、誰にもして欲しくない。もしも俺たちとの繋がりに未練がないなら、この話は無しだ。このままこの街を発ってくれ」


 こちらから話を振っておいて、条件を飲めないなら無かった事にしてくれってのも都合の良い物言いだけど、それだけこれから俺の話す内容は他言無用なんだ。


「……聞かせてもらえるかしら」


 わずかに逡巡して、セルヴィは俺たちとの縁を継続する方を選んだんだ。……いや、違うか。これから俺の話す内容に興味が抑えられなかったってのが本当だろうな。

 セルヴィの返事を聞いて、俺はポケットから2つのサークレットを取り出して見せた。細く金で編み込まれた頭部の飾り輪で、額の部分には地味な灰色の石が付けられている。各部の細工は精緻で高級感を漂わせているんだけど、その灰色の石がどうにも均整を損なっていて台無しにしていた。一見すると、大した価値のない装飾品に見える。


「……それは?」


「これは、『念波のサークレット』というアイテムだ。元は1つの宝石だったのを2つ以上に割り加工した宝石が埋め込まれている」


「念波の……サークレット?」


 俺の手にしたサークレットをまじまじと見つめて、彼女はこのアイテムの名を呟いた。それがどこか探るような言い方になったのも仕方がないよな。なんせ、今のこの時代に「念波のサークレット」はその存在を知られていないんだから。つまり、これはセルヴィが初めて目にし、初めて耳にする名前だったはずだ。


「この宝石には、それぞれを引き合う性質があるんだ。しかもそれは互いの物質ではなく、念波と呼ばれる信号を引き合うという特異性を持っている」


 俺の説明に、セルヴィは何も答えない。ただ「念波のサークレット」を黙って見続けているだけだ。だから俺はそんな彼女の反応など気にせず、そのまま話を続ける事にした。


「つまりこの2つをそれぞれが持っていれば、どれだけ遠く離れた場所にいても会話が可能だという事なんだ」


「そんな事が……。しかし、このサークレットにはただの石がはめ込まれているだけに見えますが……? 宝石は、また別に用意しているのですか?」


 食い入るようにサークレットを見つめていたセルヴィだけど、ちゃんと俺の話を聞いていたみたいだ。確かにパッと見ただけじゃあ、飾り輪は金製だと分かるけど、肝心の宝石は見当たらないよな。付いている石は、その辺に落ちてる物と大差ないように見えるし。


「この額部分となる飾りの石は、普段はこのようにただの石にしか見えないけれど、使用する際には深紅の宝玉に変わるんだ。……試してみるか?」


 百聞は一見にしかずって言葉もある。どれだけ言葉を尽くすよりも、たった1度見ただけで納得出来るってのは道理だよな。


「え……ええ。頼みます」


 半信半疑、そして恐る恐るといった態で、セルヴィがサークレットを手にする。そんな彼女を安心させるように、俺は何の躊躇いもなくサークレットを頭に装着し少し離れた。それを見て彼女も、俺と同じような行動を取った。

 俺たちが装着した途端に、それまで粗朴だった灰色の石が僅かに輝きだしその姿を変えた。見事な紅玉に変質したそれは、純金の装飾品と相まって、まるで王冠を頭にしているように見える。

 その余りな変わりように、セルヴィは俺の頭のサークレットを凝視していた。


『……聞こえるか?』


 そんな彼女へ向けて、俺は呟くように問いかけた。距離としてはそれほど離れていない。多分20歩程度だろうか。それでもセルヴィが耳にした……いや頭の中で理解した言葉は、間違いなく俺の口からのものでは無いと理解したはずだ。


「え……ええ。良く聞こえるわ」


 当然、彼女の返答も俺の頭の中で鮮明に言葉となって理解される。このやり取りだけで十分だろうから、俺は笑顔でサークレットを外してセルヴィの元へと歩み寄った。手にしたサークレットの宝石も、元の灰色の石に戻ってしまった。


「今後、もしもお互いに困った事や共有したい情報があれば、これを使おう。ただし、出来るだけ人目のつかない所で使用を頼みたい」


 このサークレットの存在が公となるのは、前の人生ではこれより10年以上先の話となる。今の時点では、まだ知られてはいけない代物だ。特に……王族や貴族にはな。

 もしかすると、別に他者にばれたところで問題はないかも知れない。だけど、出来ればその危険は避けた方が良いような気がするんだ。


「そ……そうね。余計な注目は集めない方が良いでしょうね。了解しました」


 察しの良い彼女は、いちいち説明しなくても理解してくれたようだ。これなら、安心してこのアイテムを預ける事が出来る。


「それじゃあ、皆の所へ戻ろうか。多分、準備でてんやわんやだろうからね」


 簡単に使い方を説明し終えて、笑いながら提案した俺へ笑みを返してくれたセルヴィだけど、最後までその顔はどこか強張っていた。




「アレク、また会いましょうね!」


「色々と……お世話になりました」


「あの……その……元気で……」


「お互い、体には気を付けて、元気で頑張ろうね!」


「あう……」


 ミハル達との別れは、湿っぽいものとはならなかった。お互いに笑顔で、晴れ晴れとした顔で挨拶を交わす。


「ああ、みんなも元気で」


 今生の別れじゃないんだ。明るくさっぱりと見送るのが相応しいと思った。マリーシェ達も同じ気持ちなのか、すでに別れは済ませているのだろう、この期に及んで何かを話そうという雰囲気ではなかった。


「ううぅ……。ミハルちゃあぁん……トウカちゃあぁん……カレンちゃあぁん……シュナちゃあぁん……」


 でもたった1人、セリルだけはメソメソと本気の涙を流して未練タラタラだ。まぁ、望むなら彼女たちと同行しても良いんだけどな。

 さっきその話をしたけど、どうやらセリルはこちらへ残るらしい。その決断は尊重するけど、決まったんならせめてウジウジとするなよな……。


「それじゃあみんな! また……どこかで!」


 そしてエスタシオンの面々は、俺たちの見送りを受けてフィーアトの街を発って行ったんだ。


エスタシオン達は、笑顔でこの街を去っていった。

でもそれは、今生の別れじゃない。

それが分かっているから、誰からも悲しい表情は見られなかったんだ。

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