表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
2.美食への誘い
4/8

城壁都市フィーアト

初めての森林行軍に苦戦したアレク達だったが、人員の多さも手伝ってか無事に森を抜ける事が出来た。

そしてそこで見たものは、フィーアトの街の威容だった。

 タルバの森に入って4日後。俺たちは全員、誰1人欠ける事無くフィーアトの街へと辿り着く事が出来た。まぁ、この人数と戦力を考えれば当然の結果だな。

 そして今、目の前にはフィーアトの街を取り囲む立派な防壁が視界一杯に広がっていたんだ。


「うっわあぁっ! 大きな街なんだねぇっ!」


「……王城の城下町って言われてるジャスティアの街より大きいんちゃうかぁ?」


 その威容を目の当たりにしてマリーシェが喜びながら驚きの声を上げ、サリシュが感嘆の声を上げていた。恐らくは、全員が同じ心持だろう。

 もしもこの壁の向こう側が城だったなら、この防壁もそれほど珍しいとは思わなかっただろうな。規模は兎も角として、強固な障壁を使っている城は珍しくもないんだから。

 だけどこの向こうにあるのが街だと考えれば、この見るからに頑強な造りは驚きに値する。だから、全員が絶句する気持ちは良く分かる。

 ……なんて思っていたけど。


「そう言えば、みんなフィーアトの街が初めてだって言ってたわよね?」


「それなら、その反応も当然ね」


「で……でも、街中を見ると……」


「だけど、街中を見たらもぉっと驚くかもねぇ!」


「……あう」


 どうやら四季娘(エスタシオン)たちは来た事があるようだった。まぁ考えてみれば、色んな場所を巡ってるんだ。ジャスティアの街にほど近い大きな街であるこのフィーアトの街に来た事があるってのも、当然だと思うし頷ける話だな。


「じゃあさ、早速入ってみようぜ!」


「良いねぇ。何か面白いものもあるかも知れないしねぇ」


「……興味は……ある。……人は……多そうだけど」


「うむ……。色々と見て回るべき場所は多そうではあるな」


「まぁ確かに、人の多さ同様に店舗の数もその品揃えも期待できるわね」


「ああ、確かにな。武闘家に向いた武器ってあれば良いんだけどな」


「うっふふ……。期待は持てるんじゃないかしらぁ?」


「お腹……空いたですぅ……」


 といった具合に、殆どの者はここに来るのが初めてみたいだな。セリル、グローイヤ、バーバラ、シラヌス、カミーラ、ヨウ、スークァヌ、ディディはそれぞれの言葉で、期待を膨らませているって事が分かるってもんだ。


「それじゃあ、早速中に入るわよ」


 御者席に座って手綱を取っているセルヴィが、ワイワイと取り留めのない会話を続けるマリーシェ達に注意喚起し。


「「「「「はあぁい」」」」」


 まるで子供のように、彼女たちは声を揃えて応じたんだ。ほんと、こういう所は全員幼さを感じさせるよなぁ。

 ともかく、街の外で騒いでいても始まらないからな。俺たちは、街の中へ移動を開始したんだ。




 まるで要塞を思わせる街の外観とは裏腹に、壁内の町並みは見事と言うより他になかった。


「うわあぁ……」


 それは、絶句して周囲を見回しているマリーシェ達を見れば分かる話だ。……まぁ、俺は前世で何度も来ているし、その時と街の雰囲気や造りに違いはないから驚くに値しないんだけどな。


「ここは、フィーアト城と同様に、周囲の守りに重点を置いた造りになっています。その安心感から様々な大店の拠点となっていて、純粋に商家の賑わいはジャスティアの街以上でしょうね」


 とは、セルヴィの談だ。確かに、多くの人で賑わう大通りを見ても、庶民のと言うよりも商業的な喧騒と言った方がしっくりくる。心を躍らせるよりも、圧倒される雰囲気と言った方が分かりやすいだろうか。


「でも、だからこそ様々な問題が起こり、その度にギルドへ依頼が持ち込まれるのよ」


 セルヴィの続きを聞いて改めて周囲を見渡せば、多くの商人に交じって明らかに冒険者と分かる者、唯者ではない空気を纏った者も少なくない頻度で見つけられた。それだけで、この街でのクエストの難易度が伺えようと言うものだ。

 まぁこの街のギルドに行けばすぐに分かるんだけど、このフィーアトの街ではランク「深緑石級(アレキサンドライト)」くらいまでの冒険者が活動している。俺たち「真珠石級(パール)」の2つ上のランクだな。

 冒険者のレベルでいえば、初期クラスならLv30以上、それ以外なら恐らくは転職(ジョブチェンジ)済みの猛者がゴロゴロしてるって訳だ。


「へっへへ……。腕が鳴るわね」


 そんな周囲の状況を見て何かを感じたのか、グローイヤがペロリと舌なめずりして呟いた。それと同時に、マリーシェ達からは息を呑む音が聞こえたんだ。

 冒険者と確認できる者を見ただけでも、その佇まいから間違いなく手練れだと分かる。それを察する事が出来るだけの修羅場は潜ってきているからな。そんな冒険者を見て、緊張しない方がおかしいんだ。


「おっ!? あっちの方が何か賑やかだぜ?」


 そんな緊迫した空気を知ってか、それとも一切関知していないからか、セリルが今の場にそぐわない声で発言した。まぁ、良い意味でいうならナイスタイミングで思考の切り替えが出来る台詞だったんだけど、多分そこまで考えての言葉じゃあないよなぁ。

 でも張り詰めた緊張感をどうにかしたいって考えた者にしてみれば、ある意味で渡りに船だ。


「あれ、本当だ? 向こうから音楽が聞こえる……?」


「どこかのグループが、ライブでもしているのかしら?」


「す……少し、気になり……」


「なんだか、気になるね! 行ってみない?」


「……あう」


 特にミハルたちは、マリーシェたち冒険者の出す雰囲気に耐え切れなかったみたいだな。セリルの言葉に、真っ先に飛びついたんだ。

 まぁ彼女たちは町から町へアイドル活動を行って旅をしているだけで、冒険はそのついでみたいなもんだろうからなぁ。俺たちと同行しているのも、フィーアトの街へ行きたかったからって理由が第一だろうし。


「まずは、見に行ってみるか」


 街に来て早々に緊張感を漂わせ続けても仕方がない。それじゃあ、何もしなくても疲れるだけだからな。

 だから俺は、全員に提案を試みた。今のところ急ぎの用は無いし、宿を取るにしてもまだ時間はあるからな。


「そうね! 行ってみようよ!」


「……興味は……ある」


 マリーシェとバーバラが真っ先に賛同し誰からも異論がなかった事で、俺たちは歌の聞こえる方へ足を向けたんだ。




 大きく開けたその場所は、まるでステージの様にすり鉢状となった広場だった。広場の中央、一番底の部分には大きな噴水があって、その前は僅かにステージの様な高座となっている。中心部より外周へ向けて、腰掛の様に段々となっているところから、恐らくはちょっとした催しも行われる為に作られた場所なんだろう。


「うわあぁっ! すごい熱気ねっ!」


「うむ。マールの町のコンテストのようだな」


 マリーシェとカミーラの会話通り、会場はすでに熱気の坩堝と化していた。中央のステージを見下ろすように設置されている客席だけど、誰も腰掛けている人がいないんだからな。全員立ち上がり、両手を上げたり振り回したりして歓声を送っている。


「……『期待の新人(ニューカマー)歌謡祭(ミュージックフェス)』ってあるでぇ」


「へぇ……。あいつらも、新人歌人って訳か」


 サリシュが看板を見つけて呟き、それにグローイヤが答えた。その言葉通り、今ステージで歌っている人の姿や名前は初めて聞くものだった。前世でも、俺は聞いた事がないな。

 もっとも、歌人なんて余程有名にでもならないと続けられるものでもないから、今出場しているメンバーの内、数年後にも何人が残っているのかって話なんだけど。


「……すごく気持ちが籠ってる」


「……うん。熱意が凄いね」


「……か……観客を巻き込むのが……」


「観客を巻き込んで一体化してるって感じがするよね」


「……うう」


 そして、同じ歌人であり上を目指すエスタシオンのメンバーには、また別の思う所があるようだった。彼女たちも、まだまだ駆け出しの歌人(アイドル)だ。他の歌人から受ける影響や得るべき情報ってのがあるんだろうな。

 そのまま俺たちは、全てのステージが終わるまでその場を動かなかったんだ。


 ……そのおかげで、空き部屋のある宿を見つけるのが大変で、ようやく落ち着けたのは日も完全に暮れちまってからになったんだけどな。


新人歌人たちの競演を十分に楽しんだアレク達だったのだが、四季娘たちの様子がおかしい。

どうやら、先ほどの歌謡祭に感化されているようだ。

そして彼女たちは、行動を開始する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ