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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
1.プロローグ 旅は道連れ
3/8

集団戦

骸骨集団と遭遇し、そのまま戦闘となったアレク達。

思わぬ苦戦となったのだが、アレクの指揮と各個の能力で、体勢を立て直してゆく。

 コースチは、一見しただけでは単なる骸骨、アンデッドの魔物にしか見えない。……まぁ実際にはその通りなんだけど、同じ不死魔物のゾンビとは致命的に違うところがある。

 それはこのコースチが、自然発生したとは考えられない存在だと言う事だ。

 ゾンビの場合は、墓場や古戦場と言った負のエネルギーが充満した場所にて、そこに横たわる死体に悪霊が取り付き出現する。これは魔法的に行われるケースもあるけど、多くの場合は自然に発生する事が確認されていた。

 でも、彷徨う骸骨(コースチ)は違う。コースチは呪術で人為的に生み出された人造魔物とも言うべき存在なんだ。だからその性質も、ゾンビなんかとは根本的に(・・・・)違っている(・・・・・)

 その身体を構成する骨には、隈なく魔力が巡らされていて強度が格段に上がっている。仮に人を一刀両断にする技量があっても、コースチの骨を切断するには至らないだろう。


「グローイヤッ、ヨウッ、カミーラッ、セリルッ! 一旦下がれっ! 魔法攻撃を行うっ!」


 劣勢も深刻と見たんだろう、シラヌスが前衛に後退を指示した。この判断は間違っていないな。このままグダグダな前線を維持しても、いずれ深刻な損害を出してしまうだろう。

 人相手なら作戦を声に出して伝えるなんて下策も良いところだけど、相手が人語を解さない知能の低い魔物ならこれが最も効果的だな。


「……分かってるやろうけど、火属性は使ったらあかんでぇ」


「……ふん。分かっているよ」


 そんなシラヌスにサリシュが横から注意を促すと、彼も短く応じていた。骸骨が相手で開けた場所だったなら火属性の魔法が有効なんだけど、残念ながらここは森の中で街道も広いとは言えない。

 火属性の魔法を使った場合、もしも加減を間違えれば周囲に燃え広がり、下手をすれば俺たちも巻き添えを食っちまうだろう。……いや、森林大火災ともなれば、どんな刑罰が与えられる事か考えるだに恐ろしい。

 それに、街道沿いに設置されている「女神の像」を破壊でもしようものなら、罰則は勿論の事、この街道を利用している冒険者たちや行商人たちから恨まれちまう。一定間隔で設置されている女神の像が強力な魔物の街道への侵入を防いでくれているから、俺達でも安全に旅が出来るってもんだもんな。


「我が腕に纏いし風よ、狙い定めし敵を打ち据えよ! ……風塊(フルトゥーナ)!」


 グローイヤ達が大きく後退するのに合わせて、まずはサリシュが魔法を唱えた。使用する魔法は風魔法の「風塊」だな。

 この魔法は、攻撃力としては低くレベル13から使用できる初歩的な魔法と言って良いだろうか。現在レベルが22のサリシュなら、もう少し強力な魔法が使えるはずだが、あえてこの魔法を選んだのにはもちろん訳がある。


 集団戦において、必ずしも強力な魔法が効果的かと言えばそんな事はない。威力が大きくなるほど制御が難しく、効果範囲によっては味方をも巻き込みかねなくなる。

 高位者が低位の魔法を使えばそれだけ扱いやすいし、威力や範囲も制御しやすいのは当然だよな。

 サリシュが呪文を唱えると、彼女の掲げた腕に纏わりつくような風が出現した。そして魔法名を発すると同時に、その風塊は前方へと打ち出されたんだ。

 彼女の作り出した風の塊はやや効果範囲を広げて、カミーラたちの相手取っていた集団に直撃し、最前列の数体をバラバラにし、その後続を大きく押し返す事に成功したんだ。


「集え、飛礫よ! 我が意に従い、我が敵を掃射せよ! ……岩弾雨(バラ・サクル)!」


 そして今度はシラヌスが呪文を唱えると、彼の眼前に大きな岩塊が出現した。そして魔法名を告げると同時に砕け、そのままグローイヤ達が食い止めていた集団へと飛翔し、直近の数体を粉々に撃ち砕くと同時に、その後方に迫っていた集団にも被害を与えたんだ。


「よしっ、今がチャンスだっ! 俺とマリーシェは前に出て、コースチを攻撃するぞっ! 重点的に足を狙うんだっ! バーバラは、俺たちが倒したコースチの止めを頼むっ! グローイヤ達は回復して体勢を立て直して、次の攻撃に備えてくれっ!」


「……分かったよ」「あ……ああ」「……分かった」「……すまない」


「ミハルたちは〝呪歌〟で俺たちを援護してくれっ! 使う歌の内容は任せるっ!」


「わ……分かったっ!」


「それなら、ミハルは戦意高揚、シュナは防御力強化、カレンで攻撃力強化、私は敵の弱体化でどうかしら?」


「そ……それで……」


「それで良いよっ!」


「あう……」


 俺は前に出ながら、それぞれに指示を与えていった。今まで後方で指示もなく待機していたミハルたちにも助力を頼んだんだ。

 強力な魔法を広範囲で使えないなら、結局は各個の能力で対処するしかない。身体強化が必要になるんだけど、こういった場合にミハルたちの「呪歌」は非常に効果的なんだ。

 四季娘(エスタシオン)の4人が歌を唄いだす。ミハルの澄んだ声、トウカの落ち着いた声音、カレンの元気な声、そしてシュナの深みある声。4人のハーモニーが1つの歌を形作り、それぞれに込められた魔法が効果を発揮してゆく。

 何より、彼女たちの弾むような歌は、戦闘のリズムを良くしてくれている。テンポが良くなれば攻撃も防御も、何よりも回避に効果を発揮してくれるんだ。


 敵の後退によって出来た空間を、今度は俺たちが躍り出る事で占有する。俺たちが少し押し返した状況だ。

 それと入れ替わりに、グローイヤ達は後方で治療と回復、そして態勢の立て直しに当たった。あの好戦的なグローイヤやヨウ、口の減らないセリルや実力者のカミーラが反論しなかったのはまぁ……言い返す事も出来ない失態を認めたからだろうな。


「それじゃあ、いっくよぉっ!」


 ミハルたちも歌を唄い出し、それぞれに強化と弱体が付与されたんだ。これで、こちらがさっきよりも圧倒的に有利となったはずだ。


「白き御手は聖なる輝き。……治癒の奇跡(サレーナ)


 後退してきたカミーラとセリルに、ディディがすかさず回復魔法を唱えた。カミーラはかすり傷程度だったけど、セリルは割と深い傷を幾つか負っているようだった。まぁ、自分の実力を見誤って前に出過ぎた結果ってやつだな。

 ディディの使用した魔法は、回復系でも最もレベルの低い魔法「治癒の奇跡」だ。「聖女」であるディディがこれを使うと、中級魔法クラスの回復能力を見せる。実際、彼女が1度唱えた魔法によって、カミーラとセリルの傷は完全に回復されたんだ。


「あらあらぁ……。骸骨に苦戦するなんて、らしくないわねぇ」


「はん……うるさいよ、スークァヌ。とっとと回復しとくれ」


 そして、グローイヤ達の回復はスークァヌが引き受けるようだ。付き合いの長いだろうスークァヌとグローイヤは互いに憎まれ口を叩き合い。


癒せ(ロズ)戦いで負った(バタイユ)戦士の傷を(ミーレス)癒したまえ(ヴンデ)。……治療(サルワ)


 そしてスークァヌは、彼女の信じる神(・・・・・・・)に治療の奇跡を願ったんだ。そう、彼女はディディの様に女神フェスティスを崇めるゴッデウス教会の信徒じゃあなく、そのゴッデウス教会が邪教と否定する暗黒神ニゲルを崇拝するハエレシス教団の司祭なんだ。……前世でのスークァヌはゴッデウス教団の守銭奴司祭で良い歳したおっさんだった事を考えれば、この変わりようは瞠目に値するんだけどな。

 邪教って言ってもそれは一神教であるゴッデウス教団が勝手に謳ってるだけで、今の時代(・・・・)ではゴッデウス教団もそれほど広まっていない。教団がこのアイフェス大陸で覇権を握るのは、前世でのスークァヌのような手段を選ばない信徒たちが無数の土着信仰を駆逐してからだ。

 それを考えれば、現世ではもしかするとそんな悲惨で救いのない歴史とはならないのかもな。


 聞いた事のない言葉で不思議な韻を踏んで、スークァヌが魔法を唱えた。司祭級の力を持つ彼女の回復魔法は、グローイヤ達の傷を跡形もなく消し去ったんだ。


「よっしゃぁっ! アレクゥッ、いつでも交代出来るよぉっ!」


「そうだぜぇ、アレクッ! さっさと代わってくれよっ!」


 元気になったグローイヤたちは、さっきまでの意気消沈した気持など感じさせない、勢いのある声で俺に向かって叫びかけてきた。まったく、放っておくと前線に割り込んできそうな勢いだな。


「おい、マリーシェ。タイミングを見て、あいつらと入れ替わるぞ?」


「了解よ! いつでも言ってね!」


 片手棍を巧みに操り、マリーシェは上手い具合にコースチたちを行動不能にしている。戦士として、着実に腕を上げてる証拠だな。敵に対して、武器の相性も申し分ないみたいだ。


 体勢を立て直し連携を確立した俺たちは、エスタシオンの歌をバックにして、その後迫りくるコースチの群れを一掃し、再びフィーアトの街へ向かって旅を続けたんだ。


全員の連携で、無事にこの戦闘には勝利を収めた。

そしてアレク達は、目的地であるフィーアトの街を目指したのだった。

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