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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
1.プロローグ 旅は道連れ
2/8

森を彷徨う骸骨

ジャスティアの街を発たアレク達は、恐らくは最初の難関ともいえる「タルバの森」に差し掛かろうとしていた。

森の中は暗く陰気であり、魔物の巣窟と言っても良い。

果たしてアレク達は、無事に森を抜ける事が出来るのだろうか。

 総勢16人からなるパーティが、フィーアトの街へと向かう街道を進んでいる。いや、これはもう冒険者パーティというより、商隊の一団と言った方が良いかもなぁ。


「これからタルバの森へと足を踏み入れるわ。みんな、隊形を意識して周囲の警戒を怠らないでね!」


「「「「はいっ!」」」」


 なんせ、パーティの移動に馬車まで用意してるんだからな。

 隊が大きくなれば、必要な食料も物資も飛躍的に多くなる。各個人が準備して持ち歩くよりも纏めた方が良いし、そんな大量の荷物を人力で運ぶとなれば、荷物持ちは戦力に数えられなくなるだろうから、馬車を使うのは効率面でとても有効だ。……費用を考えなければな。

 その馬車を操っているのは、四季娘(エスタシオン)交渉管理人(マネージャー)を務めているセルヴィエンテ=ディーナーだ。

 彼女の職業は上級職で、今の俺たちよりも遥かに強い。本来ならば、先頭に立って進んでもらった方が良いんだろうけどね。

 でも彼女たっての願いという事、そして荷物を守る者は強い方が良いと言う判断で、彼女には非戦闘を主とする御者をやって貰ってるんだ。


 セルヴィの言った通り、俺たちはこれからキント村の北西からフィーアトの街の南に広がるタルバの森に入ろうとしていた。

 フィーアトの街への街道を進めばキント村から1日の位置から森となり、フィーアトの街に到着するまでの4日間はこのタルバの森の中で野宿する事になる。ジャスティアの街で冒険者を始めた者たちにとっては、最初の難関と言って良い本格的な森の中の行軍となるな。

 なんせ森の中ってのは薄暗く周囲が見通しにくく、常に死角から野党や魔物に襲われる恐怖が纏わりつく。そんな中で、昼夜を問わずに4日間も過ごすんだ。気の休まる時間なんて取れないし、精神的な疲労はこれまで体験した事の無いほどになるだろう。


 ……本来ならな。


「アレクからは森の中の行軍って大変だって聞いてたけど」


「……あんまり、普段と変わらんなぁ」


 マリーシェとサリシュが、そんな呑気な会話を和やかに交わしていた。それを聞いて、カミーラやバーバラ、セリルやディディだけじゃなく、グローイヤ達も頷いて同意を示していた。

 そりゃあ、これだけの大人数で森を進めば、警戒も野営も楽だろうな。……それだけじゃなく。


「……むっ! 前方から怪物の気配だ!」


 後方にいながらも、前方から魔物の気配を感じ取ったシラヌスが警戒の声を上げ、それに応じて全員が戦闘態勢をとる。奴の言った通り、俺たちの眼前に広がる薄暗がりから、得体のしれない気配が感じ取れたんだ。

 これだけ人数がいれば周囲の警戒も楽だし、各個人の能力を活かして隠れ潜む存在を察するのも容易って話だ。そして、その対処もな。

 もっとも、俺たちの前に現れたのは、何も隠れ潜んでいた魔物って訳じゃあなかったんだけどな。


「……コースチ(がいこつ)か」


 俺たちの進行方向、それを逆行してくる集団はその足取りは重く緩慢で、歩いているというよりも彷徨っていると表現した方が的確か。しかしその風貌から、単にゾンビの一団とは思えなかった。遠目に見てそいつらは、全体的に細く白い体躯が確認出来る。経験的にこれは彷徨う骸骨、コースチの集団であるケースが多いんだ。


「コースチ……か。初めて戦うのだが、注意点とかはあるのだろうか?」


 コースチたちは、確実にこっちの方へと歩いてきている。森の中の道幅と馬車を考えれば、道を引き返してやり過ごすって選択肢はなさそうだ。遭遇は必至ってやつだな。

 戦闘を見越してなんだろう、カミーラが俺に助言を求めてきた。この場合は上級職を取得しているセルヴィに判断を仰ぐのが正しいんだろうけど、彼女は……少なくとも俺のパーティメンバーはいつも通り(・・・・・)俺に問いかけてきたんだ。


「グローイヤとヨウが前面に出て、足止めを頼む。セリルはその援護だ。サリシュとヴィヴィ、スークァヌは魔法で援護を。ミハルたちは歌で強化を頼む。その間に俺たちは、打撃武器に装備を変更するぞ」


「はんっ! 骸骨どもなんざ、あたい等で蹴散らしてやるよ!」


「ああっ、その通りだぜっ!」


「俺だって、やってやるさっ!」


 俺の指示を聞いて、グローイヤとヨウが自信満々で前方へと踊り出し、鼻息を荒くしたセリルがそれに続く。見るからに貧弱そうな骸骨を目撃すれば、そう判断するのも分からないではないけどな。


「油断するなっ! あいつらは強さでいえば、間違いなくゴブリンよりも高いぞっ!」


 後方の馬車へと下がりながら俺は、グローイヤ達に油断しないように注意を促した。今の俺たちはゴブリン単体よりも遥かに強い。それよりも強いくらいのコースチ程度なら、1匹なら問題なく一蹴出来る。でも、それが油断を呼びかねない。


 ざっと見ただけで、コースチは大体20匹くらいの一団だ。1匹だけなら、多分グローイヤやヨウだけでも勝てるだろうが、集団となると手に余る。相手は骸骨……アンデッドなだけに、多少傷つけても怯まないし体の一部を欠損しても動きが鈍る事はない。完全に動けなくする以外に対処方法はないからな。時間を掛けると押し寄せてくる圧力で、予期せぬ苦戦を強いられる可能性だってあるんだ。


「……どうしたんだ、カミーラ?」


 俺たちと共に武器交換へと動いていたカミーラが、立ち止まって俺の方へと目を向けていた。察するに、何かを言いたそうなのは明らかだ。


「うむ……。アレクよ、出来れば私は、これで戦ってみたいのだが」


 問い掛けた俺へ、カミーラは腰に差した刀に手をやって提案してきた。神那倭国出身で侍である彼女にしてみれば、刀に対しての拘りがあるんだろう。本来ならば、戦闘においてそんな事に拘泥していては命の危機に繋がりかねないんだが。


「……ああ、良いぞ。やってみろ。……ただし」


 カミーラのレベルは22と、俺たちの中では最も高い。技術や攻撃力は申し分ないし、コースチ程度ならば余裕で倒せると考えてもおかしくないよな。


「相手はただの人骨じゃない(・・・・・・・・・)って事だけは肝に銘じておけよ」


「……心得た」


 俺の指摘した注意点を咀嚼するようにしっかりと噛みしめたカミーラは、短く答えるとそのまま前線へと戻っていった。まぁ果たして、俺の言った事がどれだけ理解出来ていることやらだがな。

 ともかく俺も、武器を交換する為にセルヴィの控えている馬車へと戻ったんだ。




 マリーシェは片手棍、バーバラは両手棍、そして俺は片手斧に持ち替えて前衛の方を見やった。


「くっそぉっ! 数が多いぜっ!」


「はぁっ! ギャアギャア五月蠅いねっ! 舌を噛むよっ!」


「こ……こんのぉっ!」


 そしてそちらでは、グローイヤとヨウ、セリルが思わぬ苦戦に愚痴を零しながら……いや、喚きながら武器を振るっていたんだ。まぁ……これは予想通りなんだけどな。

 攻撃力ではこちらが上回り、防御力が低い相手だからと言って、敵が弱いと断じる事が出来るかと言えば……必ずしもそうじゃない。

 以前襲われたワーウルフの群れやヘルハウンド、ゴブリンの集団から見ても分かる通り、個体の強さが集団の強さとイコールになる訳じゃないんだ。それは、ギルドが明示している魔物の強さから見ても当然だろう。

 ちなみに、コースチの集団はゴブリンの集団よりも上位に位置付けられているし、だからこそその事を注意喚起したんだけどな。


「……くっ!」


 そして刀を選択して戦いへと戻ったカミーラも、骸骨たちの数の圧力に辟易しているのが伺えた。敵が集団で襲ってくる時の怖さは、この押し寄せる重圧にある。

 ワーウルフやゴブリンの群れなら、敵の倒し方や立ち振る舞いで相手を翻弄し隙を作る事が出来る。これは攻撃にも、そして防御にも役立つ動きだ。

 だけど相手が不死の者なら、流石にこうはいかない。なんせ相手は、痛みや死に恐れを感じる事はないんだからな。

 それでも、ゾンビが相手なら上手く攻撃すればそれと同じ効果を得る事が出来るかも知れない。怯ませる事は難しくても、足を切断すれば動きを封じる事が出来るし、腕を落とせば攻撃力を激減させる事が出来るんだからな。

 ……だが。


 カミーラも相手の動きを止めようと考えたんだろう、低く鋭い斬撃で片足の切断を狙う一撃を放った。これがこれまでの相手なら、相手は体勢を崩して倒れ込み、後続の接近を防ぐ事も出来ただろうな。

 しかし残念ながら、その試みは成功しなかった。Lv22のカミーラの攻撃を受けても、コースチの足の骨に切り込みが入っただけで切断までには至らなかったんだ。

 攻撃の失敗はそのまま隙に繋がっちまう。カミーラは寸でのところでコースチの大振りパンチを躱して大きく後退した。そしてその開いた空間を、詰め寄せた骸骨の群れに奪われてしまったんだ。つまり、それだけ押されたって事だな。


 それはグローイヤやヨウ、セリルも同様で、全体的にコースチの群れに押されている構図となっていた。俺たちは、思わぬ苦戦の中にいたんだ。


コースチの群れとの遭遇に、思わぬ苦戦を強いられることになったアレク達。

見た目の強さに関係なく、数で押してくる敵に防戦一方であったが、体勢を立て直したアレク達の反撃が始まる。

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