未知への対策
対象の魔物「石化鳥ペードラ・ラバス」対策には、聖女ディディの能力が不可欠だ。
でもその話を振られて、いかにも不意を突かれましたとばかりにむせ込むディディ。
……不安だな。
カミーラに話を振られて驚くディディは、喉に食べ物を詰まらせてむせ返っている。
「……んくっ! ……んくっ! ……ふぅう」
そして近くにあった飲み物を口に含んで、何とか命を取り留める事に成功したみたいだった。
だがカミーラの言う通り、兎に角石化対策としてはディディの存在は不可欠だな。偶然だけど、修道女の上位職である聖女が俺たちのパーティにいる事はとても心強い。
「でも、空を飛べるんだよね? 逃げられたら、厄介じゃない?」
ここでマリーシェが、もう1つの問題点を口にした。石化鳥ペードラ・ラバスの厄介な点は、正しくこれにあった。だがそれも、事前に知っていればどうにでもなる。
「本当なら、先に逃げ道を塞ぐのが効果的なんだけどな。今回は、それも現実的じゃあない」
「えっ⁉ なんで⁉」
俺が対抗策を口にするも、それが意味をなさないと告げるとセリルが質してきた。まぁそれも、少し考えれば分かる話なんだけどな。
「……レストスの遺跡はスィスィア竜山の麓にあるんやでぇ。……ペードラ・ラバスの出てきそうな場所を探してうろついとったら、伝説の護竜に襲われるかもしれんやろ」
目的地の遺跡は、4大聖龍が住まうと言う山脈の麓にある。よもやその古代龍に出会うとは思わないけど、それ以外にも非常に強力な魔物が跋扈している山脈で、女神の石像の加護も受けられない。そんな場所で、どこかも分からない石化鳥の巣への入り口を探すなんて現実的じゃあないよなぁ。
「確かに、そんな場所で探索なんか出来ないわな。じゃあ、どうするんだ?」
サリシュの台詞を聞いて、ヨウが再び疑問を呈した。結局のところ、ペードラ・ラバスに逃げられない手段を確立しないといけないからな。
「……俺が何とかする」
「ちょっ……それはっ!」
「……なんぼアレクでも、それは難しいんとちゃう?」
俺の提案を聞いて、マリーシェとサリシュが即座に反論めいた事を言ってきた。そこには、俺の事を心配する成分が含まれていてうれしい限りだ。
「でもぉ、アレクには何か策があるんじゃないかしらぁ?」
「……ふむ。……アイテムか」
そんな2人に対して、スークァヌとシラヌスが的確に俺の真意を突いてきたんだ。特にシラヌスは、流石にすぐに気づいたみたいだな。
「そうだ。親父に行って『束縛の魔網』を送ってもらう。これを使えば、少なくとも魔獣が飛んで逃げるのを防ぐ事が出来るからな」
アイテム「束縛の魔網」は、特に捕獲に特化した、魔法の縄で作られた特別な網だ。魔力の込められた魔縄が使われており、小さく持ち運べて伸縮自在、かなり大型の魔物も捕縛可能であり、余程の事が無い限り切れる事も無い優れ物だ。だがしかし、重大な欠点もある。
「そ……束縛の魔網?」
「そ……束縛の魔網やてっ⁉」
「束縛の魔網とはまた……高価な代物を用意するものだな」
セリルの疑問通り、マリーシェやカミーラ、バーバラにヨウはその存在を始めて聞いたみたいだ。それに対して、サリシュとシラヌスはその価値……特にその価格に驚いていたのは対照的だよな。
束縛の魔網は効果絶大な代物だ。魔物討伐に際して、相手の行動を制限できるのは、こちらとしてはかなり有利だからな。損害も減るし。
でもその反面、非常に効果であり、おいそれと使おうって気にはさせてくれない。俺たちレベルの冒険者なら、まず使わないだろうアイテムだ。
「これを使えば、上手くいけば石化鳥の逃避を防げるからな。多少高価でも、どうせ実家では使っていないんだし、今回はその伝手を最大限に利用させてもらうよ」
本当は、余りこのような策は取りたくはない。特に、俺の実家と言う設定の、俺の持つアイテムを使う事は避けたいほどだ。余り多用すれば、無意識にそれに頼るようになっちまうからな。
でもまぁ、今回は仕方がない。依頼を受けたのは俺の独断でもあるし、目的の物を得るのに困難な討伐が必要なのも、俺の発案の結果だしな。
「でもよぅ、網を掛けるにしても素早さが必要なんだろ? それなら、俺の方が適任じゃないか?」
直接ペードラ・ラバスの動きを目の当たりにした訳では無いので、ヨウのこの提案ももっともだ。この面子で、一番素早さに期待できるヨウに任せるのが最適かも知れないんだが。
まぁ、実際戦った事のある俺の感想を言わせて貰えば、石化鳥の動きはそこまで警戒するほどじゃあない。確かに動きは厄介だけど、今の俺でも十分に対応可能なんだ。
「ヨウには、俺が成功するようにペードラ・ラバスの注意を引いてもらいたいんだ。網に捕らえるまでは厄介な相手だからな。万全を期して、お前にはカミーラと共に正面で相手してもらえれば助かる」
それでも、出来るだけ安全に事を成すなら、この2人に石化鳥の相手をしてもらうのが最適だ。俺の話を聞いて、2人が同時に、深く頷いて了承してくれた。
「これなら、石化鳥対策は問題なさそうだね」
このやり取りを見て、マリーシェが満面の笑みを浮かべてこの話を締めようとしていた。大きな問題点と言えば石化鳥ペードラ・ラバスの対策だから、これも当然と言えば当然だろう。
「そうだな。とりあえず今日はこれで終わりにして、宿に戻って休むとしようか」
本当は、これで終わりなんて出来ない。装備も一式見直して挑まないとダメだろうな。なんせ、本格的な地下迷宮探索なんて俺たちは初めてだし、石化鳥もブレスだけを注意していれば良いって訳じゃあないしな。
その辺は明日にするとして、とりあえずこの場はこのギルドから退出する事にしたんだ。
翌日夕方。俺たちは、宿屋の一室に集まっていた。ちなみに部屋の割り振りは、男は4人部屋、女性は5人部屋と2人部屋としている。
女性陣を2部屋に振り分けたのは、7人部屋を備えている宿屋が少ないって事と、マリーシェ達とグローイヤ達を分けた方は都合が良かったからだ。特にマリーシェとグローイヤを一緒にすると、じゃれ合いが激しくなることは請け合いだからな。
「明日からのレストスの遺跡攻略に際して、新しい武具を用意したから渡しておくよ」
今日一日かけて、各々がそれぞれ準備を行ったはずだ。主に、自分たちが必要だと思うアイテムを、それぞれ購入して常備しているだろう。
でも、武器防具を新たに買い揃えた奴はいない。まぁ、そろそろ俺たちのレベルの武具は高額になって来てるからな。簡単には買おうって考えないだろう。
「ええっ⁉ 新しい武具っ⁉」
「……そんなん、貰ってもええのん?」
「アレクが準備してくれるのだ。かなり高額なのではないか?」
「……しかも……私たち全員となると」
「俺……払えるかな?」
それが分かっているからだろう、マリーシェやサリシュ、カミーラにバーバラやセリルは、不安な表情を浮かべている。
これまでに俺が用意した武具は、大抵がそのレベル帯でも最高の物が多い。安いもので済ませても良いだろうけど、命を預ける武器防具だからな。どれだけ備えても万全とは言えないだろう。
「へぇ……。アタイらにも用意してくれているのかい」
「ふむ……。非常に興味深いな」
「うっはぁっ! 新しい武器ってのは、気持ちが昂るなっ!」
「うっふふぅ……。私に見合った獲物を用意してくれているのかしらぁ?」
対してグローイヤ達は、金額や価値よりも興味が勝っているようだ。これもまた、冒険者なら当然かもしれない。
自分の命を預ける事になる武具だからな。金額や価値に拘っている場合ではない事を良く心得ているんだろう。
彼女たちと行動を共にしてきたけど、それまでの経歴は俺も詳しくは知らない。グローイヤ達が積極的に話さなかったし、俺も聞かなかったからな。それでもこういったところで、俺たちとの違いがにじみ出るってもんだ。
「それじゃあ、順番に渡していくからな。何か疑問があれば、あとで聞いてくれ」
俺は余計な前置きを省いて、まずは各自に武具を手渡す事にしたんだ。
俺の実家から取り寄せた……という設定の、昔使っていた、売る事も無く「魔法袋」の肥やしとなっていた武具を、今回のクエストに際してみんなに渡す事にした。
まぁ、持っていても使わなければ意味が無いんだけど、問題はどれも今の俺たちにとって高価だって事だなぁ……。




