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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
2.美食への誘い
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諮りと企図

コロシネが去り、その場に残った俺たち。

俺たちが席を立たなかったのは、まだここでやるべき事がある訳なんだが……。

 どこへ向かい、何を獲りに行くのか? どれくらい困難で、どの程度の期間が必要なのか? 費用は? 食料や水の用意はどのくらい? 馬車は必要なのか?

 少し考えれば、これだけの疑問が浮かんでくる。少しでも冒険を経験していれば……いや、真剣に食材の入手難易度を想像すれば、実際に冒険をしていなくともそれくらいの疑問が浮かんできて当然だ。

 でも、今回の俺たちの依頼人であるコロシネには、そんな発想は微塵も浮かばなかったみたいだった。

 そしてその事が、マリーシェ達の不安を大きくしていたのは確かだった。


 コロシネが去った冒険者ギルドのテーブルを囲んで、俺は彼女たちから鋭い視線を向けられていた。……ディディだけは、黙々と食が進んでいて何よりだけどな。


「……どういうつもりなのだ?」


 静かに、それでいて迫力の籠った声でカミーラが問い掛けてくる。心なしか、俺に向けるその視線も鋭く冷たい。……いや、気のせいなんかじゃないけどな。

 カミーラの質問は、そのままその場の全員が抱いている疑問だった。もっとも、その内容は個々に違うのだろうけど。だからカミーラは、全てを包括した様な問い掛けをしたんだろうな。

 つまり……全てを説明しろって言われているんだ。


「さっきの話の通りだよ。依頼主が同行して手助けするってんなら、依頼額も減額しても良いだろう?」


「……何をとぼけてるん?」


 俺が軽い口調でカミーラに返答すると、サリシュが底冷えする声で質問してきた。普段は俺の事を心底信用してくれている彼女が、ここまで冷たい目で見つめてくるのは本当に珍しいな。


「……分かったよ。本当の狙いは奴に……コロシネに、冒険者の実情って奴を理解させる為に来てもらうのさ」


「……何で、そんな事の為にアタイたちが手を貸さなきゃならねぇんだよ?」


 俺の答えを聞いて、グローイヤが面倒くさそうに問い返してきた。その言葉には、面倒以外の何物でもないと言う彼女の心情がこれでもかってほど込められている。


「まぁ……それはついでだからな(・・・・・・・・・・)。お前たち、俺たちがなんでここに来たのか、目的は覚えてるよな?」


「そ……そりゃあ、まぁ……なぁ?」


 俺の質問を聞いて、セリルは自信無げに呟いて……周囲に目をやると、マリーシェやヨウなんかはサッと目を逸らしていた。……おい、本来の趣旨を忘れてどうするんだよ。


「俺たちはここに、依頼を探しに来たんだよな? でも、丁度良さそうなのが無かった訳だが……それをコロシネが提供してくれたと思わないか?」


 意味ありげな視線を周囲に向ければ、俺の意を察した何人かはニンマリと笑みを浮かべている。それでも、まだ理解していない者が何人かいる訳だが。


「そりゃあつまり……どういうこった?」


 その筆頭ともいえるヨウが、同じ空気を纏っているマリーシェとセリルに顔を向けて呟いた。無論、彼女たちから返答は無い。


「……ふむ。今回の依頼内容は、我らで決められるという事だな」


 このままでは埒が明かないと感じたのか、早々にシラヌスが声を出した。


「……そやなぁ。対象もそうやし、目的地かて選べるわなぁ」


「……でもそれだけに……全員の意見を組んだものを完成させるのは……至難ね」


 それに追随したサリシュの意見は真っ当なんだけど、バーバラの言う通りあれもこれもと採用しては、きっといつまでたっても決まらないだろうな。


「何よぅ。結局、中々決められないって事じゃない」


 そんな状況に、マリーシェが早々に匙を投げる様な意見を述べるんだけど。


「それでもぉ、漠然と依頼書を探すよりもぉ、有意義だと思わないぃ?」


 そんな彼女を、スークァヌがいつもの口調で窘めた。正しく、俺の狙いとしてはその通りなんだけどな。


「……確かに。それでは、周辺の地図と、食材となりそうな分布を照らし合わせ、我らで攻略可能な地域を絞ってみよう」


 そんなスークァヌに賛同したカミーラが、前向きな発言をする。このまま愚痴っていても始まらないって事は全員が理解していたのか、その後の行動は早かった。もっとも、必要な資料はこの場で揃うってのも織り込み済みなんだけどな。……有料だけどな。





 結構真剣に検討し、様々な意見を出し合ったんだけど、中々これだ! ってものには仕上がらなかった。まぁ、そりゃあ当然だよな。

 好みやら目的なんかの違いがあるんだけど、何よりも大きいのはレベル差だ。こちらを立てればあちらが立たず……って訳でもないんだけど、どうしてもそこがネックになるみたいだな。


「ダメェ……。全員が納得出来るものとなると……」


「……さすがに、無理やわなぁ」


 数刻をここで過ごし、それでもこれと言った纏まりを見せる事が出来なかったんだ。まぁ、それも当然だろう。

 マリーシェやサリシュ、カミーラやバーバラにセリルとディディは、難易度を落としても質の良い食材を重視しようと取り組んでいた。特にこちらのパーティは、レベル差のある者が多すぎるんだ。だから、自然と難易度は下がってしまう。

 対してグローイヤ達は、兎に角刺激が多い場所を求めていた。そこに、食材の質は考えられていない。

 多少のレベル差があっても、それは個々の力量で何とかしようってのが方針だ。どうしても難しいなら、今回は不参加を呑ませる事も厭わない内容だった。

 まぁこれじゃあ、纏まる訳はないよなぁ……。


「……ってゆぅか、アレク。……あんたには、何か考えがあるんとちゃうん?」


 それまで殆ど議論に加わらず、どの意見にも積極的に賛成しなかった俺を見て、サリシュがジトっとした目を向けてきた。こういった視線を彼女が俺に向けるのは珍しいんだけど、それだけ煮詰まっていて疲れている証拠だな。


「うぅん……まぁ……ない訳じゃあない」


 そんなサリシュに向けて、俺はどうにも曖昧な返答をした。それが疲れている一同の気に触れたのか、途端に俺は集中砲火を浴びる事になっちまった。


「あるなら、早く言ってよぉ」


「それは少し、意地の悪いやり様ではないのか?」


「……是非……聞かせてもらいたいわね」


「んだよぉ……。俺たちの労力って一体……」


「んぐんぐ……」


 マリーシェたちは、俺の台詞を聞いて不満爆発だ。もっともディディは、食事に夢中であまり気にしていないみたいだけどな。


「……ふん。まぁ、アレクらしいっちゃあ、らしいわね」


「うむ……。何やら考えがあるみたいだな」


「でもよぉ、それにしちゃあ、引っ張り過ぎじゃないか?」


「うっふふぅ……。それも、考えの内じゃないかしら……ねぇ?」


 それに対してグローイヤたちは、どこか達観したような意見を口にしていた。まぁ、そこまで俺の事を信用されても困るんだけどなぁ……。


「そこまで意地悪く考えていた訳じゃあない。みんなが意見を出し合って、それで決まるならその方が良いって考えていただけだからな」


 まぁ、それほど深い考えがあった訳じゃあないからな。ここは勿体ぶらずに、俺の考えを告げる事にしたんだ。


「お前たち、この辺りにある『レストスの遺跡』って知ってるか?」


 フィーアトの街の南方に広がる「タルバの森」。その西方に位置する巨大な山脈は「スィスィア竜山」と呼ばれて恐れられている。

 畏怖されているのはその山脈名の通り、龍が住み着いているからだ。しかも四大聖龍と呼ばれる古代種である「護龍ロゥロゥ」が生息してるって噂があるんだから、そりゃあ誰からも怖がられるよなぁ……。神聖視している村さえあるんだから。

「レストスの遺跡」は、その山脈の麓にある古びた神殿跡だった。


「ふぅん……。聞いた事あるねぇ」


「確か、遥か昔にあった宗教施設ではなかったか?」


「えぇ……そうねぇ。当時は、邪教と恐れられていたって聞いた事があるわぁ」


 マリーシェたちが思い当たらない様子だったのに対して、グローイヤたちはどうやら知っているようだった。この辺りは、やはり情報収集能力の差なのかも知れないな。

 そこまで聞いて、サリシュがスッと立ち上がるとギルドのカウンターへ向かった。職員と僅かな会話を交わし、何か書面を受け取るとそのまま戻ってきたんだ。流石はサリシュだな。


「……ギルド情報によれば……今は廃墟で、アンデッドモンスターが徘徊してるって事やなぁ。……特に目ぼしいもんも無いみたいやけど?」


 資料を見つつ、サリシュが内容を口に出して読み上げた。古代の遺跡であっても放置されている理由の1つが、サリシュの言葉通り、危険だけが伴うただの廃墟って事なんだけど。


「俺はそこで、貴重な珍味を獲得しようって考えてるんだ」


 俺の提案を聞いて、その場の全員が声を無くしていたんだ。


俺の提案したレストスの遺跡探索に、一同は声を無くして俺に視線を向けてくる。

意図が読めないと語っているその視線を受けて、俺はその理由を語るのだった。

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