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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
2.美食への誘い
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過保護な種明かし

詐欺師のナハブを撃退した俺は、マリーシェ達の疑問に答えていた。

今後の事もあるからな。可能な限り答えるつもりだったんだが。

 マリーシェの疑問を解消させる為に、俺は彼女の質問に答える事にした。これはそのまま、マリーシェやサリシュ、バーバラにセリル、ついでにディディの為でもあるんだ。


「あの2人組を撃退した後に、話を持ち掛けて来ただろう? あそこで確信したかな?」


「あんな早い段階でなん? 何か変なとこ、あったかなぁ……?」


 サリシュも、どこか恥ずかし気な態度で質問してきた。見抜けなかった事を恥じているんだろうけど、俺たちの年代や経験では、それが普通かも知れないな。……ニヤニヤと俺の方を見ているグローイヤ達は、どちらかと言えば特殊だろう。


「チンピラたちを退けたのは、殆ど俺たちだけの力だったから、ナハブに恩を感じる必要はなかった。とはいえ、形式的には助けに入ってくれたんだから感謝を示すのは当然だし、礼をするのはこちらだろう。それでも奴はそんなものを求めず、逆に話を持ち掛けてきた。話の展開が拙速すぎるし脈絡もない。冷静に考えれば、どう考えても怪しい話でしかないんだ」


 俺の話を聞いてサリシュやカミーラ、バーバラは深く考え込んでいる。彼女たちもわずかな間とは言え、ナハブの言葉を信じてしまっていたんだ。その時の状況を振り返って、俺の話と整合性を取っているんだろう。


「でも……あの男は、見た感じ……詐欺師とは思えなかった……」


 次に、バーバラが自分の考えを口にした。常に人目に晒されている彼女は、そういった人を見る目には比較的長けているのかも知れない、もしくは、そんな自負があるんだろう。


「そこは、相手が一枚上手だったという事だろうな。最初に如何にも怪しい輩が登場すれば、次に現れた人物が常識的な対応を取れば中々そういう風には見えないものさ」


 いわゆる印象の隔たりを利用した作戦だな。強弱を付けていると言っても良いだろう。最初に印象の強い者が現れれば、次に現れる者はどうしても柔和な心象を受ける。そこに多少の粗があったって、案外気にならなくなっちまうからな。


「……なるほど。人の感情の間隙を突く、厭らしいやり方なのだな。しかも更に厄介なのは、余程構えていなければ安易にその言を信じてしまいかねないという事か……」


 ここまでの話を聞いて、カミーラが顎に手を当てて納得していた。とりあえず、今回の説明はこれくらいでいいかな? なんて思ってたんだけどな。


「へぇ……。だからあんたは、真っ先に城へ向かったって訳かい?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべて、これまで聞き役に徹していたグローイヤが話しかけて来た。そちらに顔を向ければ、彼女だけじゃなくてシラヌスにヨウ、スークァヌも同じような顔を向けている。……ったく、まだ種明かしをさせるつもりかよ。


「……ああ、そうだよ。この『王家の紋章入りペンダント』……本当はもっと出し惜しみするつもりだったけどな。俺たちみたいな見た目が若輩の場合、どうしたってカモにしようとする奴らが群がって来るからな」


 俺の吐き捨てるようなセリフを聞いて、グローイヤは納得顔でにんまりと笑みを浮かべる。ったく、分かってて聞くんじゃねぇっての。


「んん? それじゃあアレクは、最初からこんな事が起こるって分かってたのか?」


 頭に疑問符を浮かべて、セリルが質問を口にした。どうやら、まだこの話題は終わりそうにないようだ。


「最初からこんな事が起こるなんて考えてなかったし、出来るだけ自分たちで対処するようにした方が良いに決まってるけどな。後々尾を引く厄介ごととか、今の俺たちでは対処できない事の対処に使おうとは思っていたんだ」


 殆どの場合は、最初のチンピラ風情を退けた段階で話は終わっていたんだ。ただ、ここがフィーアトの街ってのが、俺たちにとって運が悪かったって事か。


「でもまぁ、いずれは使うつもりだったんだろ?」


「それも、割と早い段階で……だな」


 俺が口にしたのはセリルへの返答だったんだけど、それにすぐに応じたのはヨウとシラヌスだった。ニヤリと余裕のあるしたり顔で、質問と言うよりも断定だな、こりゃ。


「……ああ、確かに。いずれは使うつもりだったけどな。もっとも、早い段階でってのは誤解で、出来れば使わずにいたかったってのが本当だ。これの使い道は、もっと他にあるからな」


 俺の話し相手は、セリルからシラヌスたちへと変わった。解説を取られた形になったセリルだけど、いつもならギャアギャア喚くところが、今回は口を噤んで成り行きを見守っている。


「……あらぁ。他にどんなぁ、使い道があるのかしらぁ?」


 頬に手をやって、スークァヌが外連味たっぷりな仕草と声音で話の続きを促してくる。……ったく、本当は薄々気づいてるんじゃないのか?


「最も効果があるのは、今回みたいな厄介ごとを事前に避けられるって事かな。この『王家の紋章入りペンダント』は、それを知る者たちにとっては十分にハッタリになるからな」


 それは、正しくさっき実践して見せた事だから分かるだろう。マリーシェ達も、その件に関しては頷いて同意している。


「……で? 他にもあるんだろう?」


 何が楽しいんだか、ニヤニヤ笑いを消そうともしないグローイヤは、俺に話の続きを促してきた。本当は余りネタばらしなんてしたくないんだけど、ここまで開示されちゃあ話さざるを得ないな。


「次に期待しているのは、各地域の領主や有力者に話を通しやすいって点かな。何せ、この大陸を統べる王族の紋章入りだからな。少なくとも、この大陸のどこでも、権力者に協力を仰ぐのに苦労しないだろう」


「それに、そんな権力者どもに利用されないと言う側面もあるな」


 俺の説明を聞いて、シラヌスが追加補足まで付け加えたんだけど……。まったく、全部話しちまう奴がいるかよ。


 本来、こう言った事は自力で気づき身に付けないと、自身の成長にはならない。知らない事を知るのは良い事だけど、教えてもらっただけじゃあ自分のものにはならないんだよなぁ。

 実際俺も、以前の人生では色々と苦労したから今の知識を得ているんだ。誰かに教えて貰っただけだったら、きっと「知っている」程度で終わっちまってただろう。

 そんな考えが顔に出ていたんだろうか。


「まぁ、過保護も良いけどね。少しは、あんたの仲間の事を信じて教えてやっても良いんじゃないかい?」


 グローイヤが俺に話しながら、顎をしゃくって合図してきた。その方向へと目をやると。


「……ふむ。自分の身は自分で守る……とはいえ」


「うん。魔物や暴漢から自衛するだけの話じゃあなかったのね」


「世の中には、気ぃ付けなあかん事が山ほどあるっちゅぅ訳やね」


「しかも……私たちのまだ知らない事が……」


「うぅん……。考えもしなかったぜ」


「あのぉ……。お代わりいる人はいませんか?」


 マリーシェ達が真剣な顔で、さっき俺の話した事を論議していたんだ。口にしている感想は、年相応に未熟なものには違いないんだけど、その雰囲気は決して軽いものじゃあなかったんだ。……まぁ、聞いていなかったんじゃないかって奴も1人いるけど、ディディのこれは平常運転だしな。


 グローイヤの言う通り、過保護すぎるのも考えものなのは分かる。でもこの場合は、どっちが懐子(ふところご)扱いしているのかって話なんだけどな。

 まぁ今後は余り秘密裏に事を運ぶのではなく、出来るだけ彼女たちに話す事にしよう。ただし、話す時と場所、そして相手は慎重に選ぶのは言うまでもないけどな。


「さぁ、飯を食ったら早速依頼(クエスト)でも見に行くか」


 話の熱は冷めそうになくいつまでも続きそうだったので、俺はとりあえず次の行動を提案した。今の俺たちに必要なのは、何も知識だけじゃないからな。


「うんっ! そうだねっ!」


「ええのがあればええねんけどなぁ」


「うむ。その中でも、特に私とアレクに向いているものがあれば……」


「討伐系の……クエスト選ぼうね……アレク」


「何を抜け駆けしてんだい。アレクはあたいと……」「いや、俺とアイテムを……」「俺と修行だって」「私とぉ、お休みぃ……」「それは却下だって」「むぐむぐ……」


 結局最初に戻っちまったけど、とにかくまずは依頼内容の物色からだな。俺たちは昼食を終えると、そのまま冒険者ギルドへと向かったんだ。


グローイヤ達の誘導で、結局言うつもりのない事まで言っちまった訳だが……。

まぁ、それはそれで今後の役に立てば良いか。


兎に角俺たちは、この街での行動を開始したんだ。

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