向かうはフィーアトの街
季節は移ろう。
年が明け1つ歳を重ねたアレク達は、傷も癒えたことで改めて冒険へと出発した。
しかしその陣容は、以前とは大きく変わり何よりも……人数が大幅に増えていたのだった。
季節は冬の色を深めて、気付けば年が明けて俺達は1つ歳を取っていた。
神那倭国出身の、色々と事情のある戦士「カミーラ=真宮寺」を追って海を渡ってきた魔神との死闘から随分と経った。その時に受けた傷も完治し、俺達は行動を開始する事にした。
そして俺達は今、ジャスティアの街を発ち次の目的地である「フィーアトの街」を目指していたんだ。メンバーは勿論。
「ねぇ、アレク! 次のフィーアトの街って、どんなところかな?」
元気いっぱいの切り込み隊長、Lv18の戦士マリーシェ=オルトランゼと。
「ウチはヤサール村出身なんやけど、フィーアトの街に行った記憶も無いしなぁ」
そんなマリーシェの言葉に反応した、Lv20の攻撃系魔法使いサリシュ=ノスタルジア。
「私はこの大陸では、行く所全てが目新しい。実に楽しみだな」
神那倭国から来た現在Lv22の女流侍、カミーラ=真宮寺。
「……こんなに早くフィーアトの街へ行けるなんて……ね」
そして、感慨を感じさせる風情で言葉少なく呟いたのが、バーベライト=ペプチカート、通称バーバラ。現在は槍を好む戦士Lv14だ。
「ああ、本当にな! どんなところなのか、本当に楽しみだぜ!」
バーバラの台詞に応じたのは、一見すると美少年の斧使い戦士セリル=アステンバード。確かレベルは12だったか。
「どんな食べ物があるのか、楽しみですぅ」
そんなマリーシェ達とは全く違う想像をしているのは、このパーティで最年少であり既に上級職にあるディオラ=デイバラ。愛称はディディで、回復系のエキスパートであるLv5の聖女だ。
俺を含めた合計7人で、色んな冒険をして様々な敵と戦ってきた。それでも今のところ、1人も欠ける事なくこうして次の街へ歩を進められるんだから、みんなの協力があっての結果なのか運が良かったのか。それともその両方なんだろうか。
強くなったし経験も積んだし、より先へと進むのは当然の話だよな。
レベルもそれなりに上がれば、ジャスティアの街近辺で受けられるクエストじゃあ物足りなくなる。レベルの上りもいまいちなら、報酬もそこそこなのだから。だからこの「フィーアトの街」を目指す旅も、必然であり予定通りと言って良かった。
……いや、少し早いくらいかも知れない。なんせ俺の前世では、フィーアトの街へ向かったのはこの1年後だったんだからな。それを考えれば、随分と効率よくレベルアップが出来たもんだ。
それもこれも、前世での記憶が役に立ったお陰だな。散々な目に合わせてくれた、とても仲間とは言えない存在の「シラヌス=パノルゴス」には、これだけは感謝だなぁ。
奴は兎に角効率重視の守銭奴で、いつも如何に能率よくレベル上げと金稼ぎが出来るのかを考え、それを俺達に実践させてきたんだ。
実際、当時の俺達が死に掛けたのは一度や二度じゃない。それでも何とか生き長らえたって事を楯に取り、それを経験として更に面倒で厄介で報酬の良いクエストを、更に手際よくやらせようとするんだから手に負えなかったな。いやぁ、ほんと……良い思い出だよなぁ。
「それで、アレクよ。フィーアトの街では、何をする予定なのだ?」
なんて考えていた俺に話しかけてきたのは、その当人である攻撃系魔法使いLv22のシラヌスだった。前世ではあれほど俺の事を虚仮にして、挙句見殺しに近い対応をしてくれたってやつが、現世ではこんなにフレンドリーに話しかけてくるんだから……人生をやり直してるってのを実感するなぁ。
やり直しを実感って言えば。
「あたいは、面白ければ何でも良いけどよぉ」
「まぁ、そうだわな。力試しが出来ればってなら、なお良いけどな」
「うっふっふぅ。私も、面白い事があるなら何でも良いわぁ。……ねぇ、アレクゥ?」
LV22の巨斧使いであるグローイヤ=アヴェリエントと、武闘家のヨウ=ムージはLv17、そしてオリビエラ=スークァヌは回復系魔法使いLv19だけど、彼女は邪教を崇めてるからなぁ。レベル以上の実力を備えているに違いない。
この4人が俺のパーティに参加してるってのが、人生をやり直してるって実感できる事実だったんだ。
グローイヤ、シラヌス、ヨウ、スークァヌとは、前世でもパーティを組んでいた。と言ってもその結びつきはあくまでも利害関係で、とても仲間と言う関係では無かったけどな。
俺はシラヌスに言われるまま、獲得できるようになった「勇者」の職業に転職した。その条件はグローイヤも備えてたんだけど、彼女の「一時的にでも弱くなるなんて御免だね」の一言で俺にお鉢が回って来たんだ。
挙句、折角勇者になったってのに、特に強力な能力を備えておらずレベルが低いってだけで、本当なら申請してくれていた筈の「保存の奇跡」をして貰えず、そのお陰で魔王との戦闘に敗れた後も直前からやり直すことが出来ず、奇跡的にセーブされていた15歳でレベル5からやり直す羽目に陥ったんだ。
最初の出会いから幾度かは明らかな敵対行動を取られてたんだけど、何がどうなったのか妙に気に入られ、なんやかんやで今に至る。これは、前世ではなかった明らかな違いだな。
違いって言えば、スークァヌなんて性別から違うからな。もう、何がどう変わっているのか予測不能だ。
しかも、それだけじゃない。
「でもでも、人が多い街なんですよね!? なら、また最高のライブが出来るかも知れないね!」
「……まぁ、その可能性は低くないかもね」
「あ……あの。私も、がんば……」
「それじゃあ、気合入れて頑張らなきゃね!」
「……あう」
「みんな、張り切るのは結構ですけど、ちゃんと私の指示に従って下さいね」
元気いっぱいのミハル=ヴェスナー、寡黙で冷たいイメージのあるトウカ=ヒエムス、夏色爆発って感じのカレン=アエスタースと、そんな彼女にいつも台詞を被せられて戸惑う引っ込み思案なシュナ=ヘルブスト、そして彼女達を纏め統括している敏腕マネージャーのセルヴィエンテ=ディーナー。
彼女達4人の四季娘と、そのマネージャーの出会いと同行も前世には無かった事だ。
彼女達は街から街へと渡り歩き歌を披露しているアイドル、全員Lv16の歌人だ。結構売れているグループらしく、本当なら俺達みたいなまだまだ駆け出しって言える冒険者パーティと同行するなんて考えられない話なんだけど、やっぱり何がどうなって旅路を供にしているのか……。
「フィーアトの街は、多く騎士を輩出しているからな。冒険者でなくても、屈強な者がゴロゴロいるって話だ。それだけに、そこで受けるクエストは難易度の高いものが多くて、経験を積むにも資金を稼ぐにも打って付けって言えるな」
そして俺は、マリーシェの質問に答える形で、フィーアトの街につい差し障りのない情報を与えてやったんだ。それを聞いて、再び彼女達が各々喋り出す。
ジャスティアの街の「エリン療養所」にて俺の事に付いて語った後、グローイヤが口にした提案ってのが俺達とパーティを組むって話だったんだ。
通常で考えれば、俺達だけのパーティでも既に人数は多い部類に入る。多分、7人パーティってのは1パーティ編成で考えればギリギリの人数かも知れないな。
メンバーが多くなれば、それだけそのパーティを維持するのに多く金が必要になる。クエストを受けるにしても、そのランクでかなり高額な依頼を選ぶ必要があるし、そうなれば自然と難易度が上がる。
パーティメンバーってのは、出来れば少ない方が理想的だけど、それだと戦闘力や応用力に問題が生じる。それらを考えて、大体メンバー構成数の通常は4~6人ってところだ。
それにも拘らず、グローイヤは俺達との同行を申し出たんだ。理屈が分からないって訳じゃないだろうけど、彼女なりに思う処があるんだろうな。
驚きなのは、シラヌスやヨウ、スークァヌがこの申し出に反対しなかったって事だろう。……まぁ、多分金を稼ぐよりも利になる部分を俺達に見出したんだろうが。
「それなら、私たちも途中まで同行してもよろしいか?」
そんなグローイヤ達の申し出に乗っかる形で、セルヴィエンテ……セルヴィが提案して来たんだ。これも、俺には驚きの話だった。彼女は四季娘の交渉管理人。レベルは7だが上級職で、その職の特性上担当歌人の管理運営に長けている。きっと、ミハルたちが成長し四季娘の理に適う事だと判断したんだろうな。
もっとも、俺達にこれを拒む理由は無い。……と言うか、出来なかった。グローイヤ達の勢いは相当なものだったし、断ればどんな騒動が起こるか分からない。
何より、マリーシェ達が快諾しちまったんだからしょうがない。彼女達が良いなら、俺に異論は無いんだからな。
こうして俺達総勢16人のパーティは、のんびりとフィーアトの街へ向かっていたんだ。
様々な考えの元、アレク達と同行を決めたグローイヤ達とエスタシオン一行。
これ以上ない顔ぶれだが、人数が多ければそれでいいという話ばかりでは無かったのだった。