命令
俺達はプランシーに連れられて団舎の中へと入っていく。入り口から豪華な装丁がされている様々な者が目に入ってくる。団舎というよりも何処かの貴族の屋敷のようだった。
プランシーは迷いのない足取りで団舎の中を進んでいく。広い建物の中で迷ってしまえば面倒なことになるため、俺達は無言でプランシーの後ろを付いていく。長い廊下の先にある重厚な扉の前で立ち止まると深呼吸をしてからプランシーは扉を叩いた。
「団長。プランシーです。お時間よろしいでしょうか」
――プランシー?今日は非番のはずでは?入っていいですよ。
「失礼します」
プランシーがしたノックに応えるように扉の向こうからはグランドの声がした。
ゆっくりと扉を開け、俺たちには待つよう指示してから部屋の中に入っていく。
「団長。お忙しい所申し訳ありません」
「大丈夫ですよ」
「団長への客人です」
「本日はそのような予定はなかったはずですが」
「私の一存で連れてきました。都合が悪いようならば後日に回します」
「ふむ。いいでしょう。入ってもらってください」
プランシーからの合図を受け、俺達は団長室に入った。ソロンを思い出すほどの書類に囲まれたグランドが椅子に鎮座していた。プランシーが先に説明をしてくれていたおかげか、既に話を聞く態勢を取っている。
「ロージスくんじゃないですか」
「いきなり訪ねてきてすみません」
「後ろに知らない顔がありますが、そちらがヘイルさんで間違いありませんか?」
「はい。連れてきました」
ヘイルは何も言わずとも俺の前へ出た。長い髪を靡かせながら前に出る様はこのような場面に慣れているようにも感じてしまう。俺がグランドの前に立った時は緊張から強張っていたように思う。その点、ヘイルは緊張している様子は一切見せていない。
ヘイルの後ろ姿を眺めていると、ヘイルは恭しく一礼をした。
「招集に預かりました。名をヘイル・リズレット。この度はお忙しい所、お時間を作っていただきありがとうございます」
学園の中で生活をしているヘイルの姿しか知らない俺は、相手に対して礼を尽くしている様を見て驚いていた。普段から言動だけは物腰柔らかで丁寧な言葉を使っているが、そこに動作が加わることで貴族のような立ち振舞に見える。
貴族として生まれ育った俺よりも、平民として育ったアーティファクトであるヘイルのほうが相手に尽くせている。プランシーもヘイルの対応に不快感を感じることもなく、一言も口には出さなかった。因みに俺がこの部屋に入ってからグランドさんへ話しかけた時には眉を顰めていた。
「そこまで畏まらなくてもいいですよ」
「配慮していただきありがとうございます」
「さっそく本題ですがロージスくんたちとクリエイトのメンバーを仕留めたときのことをお聞きしたいのですがいいでしょうか」
「私に話せることならばすべてお答えします」
そこから俺達は団長室にある大きな机に座らされた。団長であるグランドは執務用の机から動くことはしなかったが、俺達が座るまで何も作業をせず俺達の行動を観察していた。素性が知られているだけで人となりは分からない俺達のことを完全に信用をしてはいないのだろう。
俺が以前聞かれたことをヘイルも聞かれていた。証言に差異がないかを調べている。以前は別の団員が行っていた初期の役割をプランシーがやっており、ヘイルが話す度に紙にペンを走らせていた。
「シェラタンというクリエイトのメンバーを殺したのは貴方で間違いありませんか?」
会話の流れで何事もない内容のようにグランドはヘイルに聞いた。その言葉で緊張したのは俺とプランシーだった。俺が緊張するのは分かるが、プランシーの体が強張る理由は何なのだろう。
「私です」
「どのように?」
「拘束した状態で首を跳ねました。明らかな犯罪者、何処にクリエイトのスパイが居るかわからない状況で国に引き渡す危険性と処理をすることを天秤にかけた結果、殺すことにしました」
「国を信用していないのですか?」
「不躾を承知で発言しますが、国がしっかりしていたらクリエイトが国内に入ることが無かったと思います。クリエイトのメンバーと相対したからこそ、国への信用が薄れたと言えるでしょう」
その発言にプランシーが激怒すると思った俺はすぐにプランシーの方を向く。意外にもプランシーは書紀としての役割を全うしており、感情を見せることはなかった。自身が言っていた通り、団長であるグランドに対しての無礼以外は気にしないみたいだ。
「それは私たちの落ち度です」
「事は済みましたので」
「それでロージスくんに提案なのですが」
「俺ですか?」
話の主役がヘイルと思っていたため気を抜いていたところに声をかけられてしまった。それも俺達にではなく、俺だけに。
「ええ。君だけです」
再度言い聞かせるようにグランドは真剣な目つきをして伝えてくる。こちらに対して何か要望があるような雰囲気を感じ、俺も姿勢を正して話を聞く態勢に入った。
「なんですか」
「君には守護団の中で訓練を積んでもらいます」
「は?」
今日ここに来た理由はヘイルが証言をするためだったはずだ。どうすれば俺が守護団の中で訓練することになるのだろう。グランドが冗談言っているようにも見えず、プランシーは小さくため息を吐きながら目線を逸らす。
「どういうことですか」
「言葉通りの意味です。クリエイトに関しては私達の尽力が無駄になるほど尻尾を掴めていない組織。その一員をロージスくんは仕留めました。そのような人物を放っておくわけには行かないのです。これはお願いではなく、国からも許可をもらっている命令となります」
グランドは胸元から取り出した紙をプランシーに手渡す。プランシーはその紙をを持って俺に渡してきた。その紙には王国の印が押されており、守護団よりも上の組織からの承認を得られたことが見て分かる。
書かれている内容はグランドが言っていたことと同じで、俺が守護団での訓練を受ける資格を授けるというものだった。書かれているのは俺の名前のみでリーナとヘイルの名前は書かれていなかった。




