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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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世界に混じる赤

 あの時はケバルライが偶々俺を見つけたから声を掛けてくれただけであり、自分から会おうと思うと案外見つからないものだった。


「くそっ。人と関わって来なかったからケバルライが何処に居るか分からねえ」

「ヘイルに聞こう?」

「あいつは何だかんだ人付き合いをしているだけで人自体には興味ねーよ。多分顔と名前くらいは覚えていても詳細な情報を自分から知ろうとはしない」

「適当に歩いていれば見つけられるんじゃない?」

「それで見つかるなら苦労はしねーよ」


 俺は人通りの少ないベンチに座ってリーナと作戦会議をしていた。ケバルライという共存派というものが酷く気になっていたからだ。ソロンの弁では厄介な組織と言っていたが、俺はそうは思えない。だからこそ自分自身の目で見て経験をしたかった。ケバルライから組織の集まりを見学に来てほしいと言われていたことを思い出し、声をかけようと考えていたのだ。

 しかし連絡をする方法も会いに行く方法もなかった。初対面の時はクリエイトの回し者と考えていたし、自分たちに危害を加えようとしていると思っていた。ソロンからの報告と本人からの言葉により、クリエイトとケバルライの関係性が薄くなったことで自分からコンタクトを取ろうとした時に自分から行動を起こす方法がないことに気付いたのだ。

 元よりリーナと共にいる俺も学園の生徒からは避けられている。入学した当初のような攻撃的な目は少なくなったとは言え、未だに話しかけてくる生徒は殆どいない。人との関わりを持ってこなければ頼りたい時に頼れる人が居なかった。


「歩く必要はないみたい」

「どういうことだよ」

「あれ見て」


 リーナはベンチから見える噴水の辺りを指さしていた。距離が遠くてよく見えなかったが目を凝らして示す先を見る。そこには特徴的な夕焼け色の髪をした生徒が、放課後というのにも関わらず、大口を開けてサンドイッチを頬張っていた。


「俺達が気を揉んでいたのが馬鹿らしくなるくらいアホ面で飯食ってるな」

「それはケバルライを見つけること?クリエイトのこと?」

「どっちもだよ」


 むしゃむしゃと音が鳴りそうなほど、口いっぱいにサンドイッチを詰め込み、人が見ていないと思っているのか幸せそうな顔をしながら食事をしている。寮の場合は夕飯が出てくる時間が近付いているため、ケバルライは寮ではなく何処かから通っているのかもしれない。

 寮で暮らしているとすれば共存派の集会に行くために外出許可を一々取る必要がある。その点から考えてもケバルライが寮ぐらしの可能性は低かった。


「あっ、こっち見た」


 ケバルライはサンドイッチを食べ終わり、片付けをしようと顔を上げる。目線の先には食事の始めから観察をしていた俺達。時が止まったようにケバルライは俺達の方を見つめていた。段々と状況を理解したのか、照れくさそうに素早く片付けを終えて此方へと近付いてきた。


「ロージスさん達、見てたんすか……」

「最初からな」

「それなら声をかけてほしかったす」

「幸せそうにご飯食べてたから」

「尚更声をかけてほしかったすよ」


 あの姿を見せられたら声をかけるのが申し訳なくなる。食事と言えど、そこに幸福を感じているのなら邪魔はしたくない。

 ケバルライは何かに気付いたように俺とリーナをじっと見つめた。


「んー。お二人ともこの間よりも柔らかくなったっす」

「柔らかく?」

「はい。この間はなんか私のことを警戒してトゲトゲしてたんすけど今はその感じがないっすよ」


 それはケバルライの事を以前ほど警戒する必要が無くなったからだ。情報からケバルライが敵である可能性が薄いとなれば必要以上に攻撃的な接し方をする必要はなかった。全幅の信頼を寄せるほど信用しているわけではないが、全てを否定するほど警戒をしなくなっていた。交わした言葉からケバルライは俺たちの雰囲気を感じ取っていたみたいだ。


「心境の変化ってとこだ」

「私からしたらうれしいっす。人に嫌われるのは悲しっすから」


 天真爛漫に笑っていたケバルライの顔に一瞬だけ影が差し込んだ。ケバルライは人からの感情に対して思うところがあるようだ。その表情から突き詰めて話を聞く内容ではないと判断して俺は触れないことにした。


「聞きた事があるんだけどいいか?」

「いいっすよ」


 会話をするにあたってケバルライを立たせ続けるわけにはいかなかった。幸いにもベンチは小さなテーブルを挟んで向かい合うように設置されていた。俺たちの前方のベンチにケバルライを座らせて話を始める。


「リーナの事なんだけど」


 話し始めるとリーナは「私のこと?」と言いたげに俺のほうを見つめてきた。それを無視して会話を続ける。


「その、学園の奴らってリーナのことを遠ざけている節があるんだ。理由はわかってるつもりで俺ももうそれに慣れてきた。そういう奴らが多い中でケバルライはリーナに対して普通に接している。その理由を聞きたい」


 リーナに接してくれる人には二通りいた。自分の仕事や信念を第一にする事で、自分の心情を抑え込み関わってくれる人。リーナ自体に嫌悪感を抱かずに接してくれる人。ケバルライは共存派だからリーナと接しているのか、ケバルライ自身がリーナと接しているのかが気になってしまったのだ。

 その答えによって付き合いが変化する訳では無いが、共存派という組織の印象が変わってしまう可能性もある。


「私って結構バカなんすよ」


 答えになってない回答をケバルライは喋りだした。俺は変に言葉を話さずに、焦らずケバルライの言葉を待つ。


「学力っていうことじゃなくて思考が短絡的というか猪突猛進というか、兎に角沢山考えることが苦手っす。だからアーティファクトがどうとか人間がどうとか考えるよりも同じ世界に生きているなら手を取り合えばそんな事を考えなくて済むと思うんすよ。見た目の問題も同じっす。リーナさんに対して普通に接しているのではなくて、ロージスさんもリーナさんも同じように接しているっす」

「ケバルライ……」

「私たちとリーナさんは鍋に入った水と油じゃない。世界っていう水槽に入って交じり合った絵の具みたいなものっす。一つの世界で交じり合うものなら拒絶する必要なんてないんすよ」


 リーナへの接し方は後者であった。ケバルライ自身が自分の考えを持って、悪魔の子と呼ばれて嫌悪されているリーナを普通の人と同じように接してくれていた。それは奇しくもシルキーと同じような考えを持っており、俺はシルキーの事を思い出してしまった。遠くに去ってしまった彼女は今何をしているのだろうか。


否定する人が多いから傍観しているだけで、否定をしない人間も世の中にはいる

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