秘密組織
共存派という新しい組織が出てきたことによって考えなければいけないことが増えてしまった。自分一人で考えることは不可能に近く、誰かの手を借りることを選択する。今の俺が相談できる相手の筆頭はソロンなのだが、先ほどの書類の山を見るに大変忙しそうだった。
「それで私ですか」
教室に行き、俺とリーナは各々の席へと座る。目の前の席にはヘイルが既に座っており、声を掛けると赤い髪を揺らしながら氷のような目で俺のことを視界に収めた。
「他に聞ける奴いないからな。ヘイルは俺達よりも学園の生徒とコミュニケーションを取ってるだろ?」
「貴方達を比較対象にしたらほとんどの人がコミュニケーションを取れているでしょう。ロージスさん達は特殊な状況すぎます」
「だから共存派なんてグループは知らなかった。ヘイルは知ってたか?」
「いえ。私も初耳です。話を聞く限りケバルライさんもうっかり口を滑らせたと言うことでしょう。つまりは秘密裏に動いている組織と考える方が妥当だと思いますが」
ヘイルも共存派のことを知らなかった。共存派というのは大きな組織ではなく、隠れて動いている可能性が高い。共存派という名前を出さずに行動していた場合、誰が組織に与しているかも分からない。悩む俺に対して、話が切のいいところで纏ったと判断したヘイルは質問をしてきた。
「ケバルライさんって結局シェラタンさんのなんだったんでしょう」
共存派の話の中で出てきたケバルライのことをヘイルは覚えていたらしい。俺はシェラタンとケバルライの関係が未だに確実性のない情報だと前置きをして先ほど聞いたことを伝えた。ヘイルは表情一つ変化させずに淡々と話を聞いている。
「なかなか面白いことになっていますね」
「面白くはねーだろ」
「やはりアーティファクトと契約した者は騒動に巻き込まれやすいというのは迷信ではないのかもしれません」
「どういうことだ」
契約者が騒動に巻き込まれやすいという話は今まで一度も聞いたことがなかった。俺の知っている契約者が少ないこともあるが、噂や伝聞でも耳にしたことはない。
「アーティファクトはアーティファクトを感じ取ることができるでしょう?アーティファクトは意志を持つ武器。それは人とは根本的に違う物質です。それを感じ取れると言うことは争いが起こるのは自然な流れです」
「自然か?」
「ロージスさんは自分自身が一番分かっているんじゃないですか?リーナさんと出会ってからこれまでの人生では経験してこなかったような困難に突き当たることが多くなったと」
ヘイルの言葉でリーナと出会ってからのことが頭に流れ出した。確かにリーナと出会って、契約をしてから敵を殺してしまったし、自分の精神が壊れそうにもなった。困難に突き当たっては居るが、生きるということはそういう事だと割り切っていた。
その困難がリーナと共に生きていくためには大切なことであり、俺が受け入れなければならないと思っている。単純に俺が動くことが多くなったから色々なことに巻き込まれているだけだろう。
「普通の人。アーティファクトに関わらない人は命に削るような戦いなど何回もありませんよ。戦争が起これば話は変わりますが、今の時代に相手を殺すようなことは起こりません」
「何がいいんたいんだよ」
「アーティファクトと出会うと契約者は不幸になる。ロージスさんは精神を壊されないように気をつけてくださいと言うことです。私を殺すためにも」
俺は小さく舌打ちをしてヘイルとの会話を断ち切った。ヘイルは俺に微笑みかけてから腰を回して前を向いた。
ヘイルが強くなる理由は自分を殺してほしいからと言っていた。弱いまま死ぬのは譲れないことであり、自分が強くなり、それよりも強い人に殺されたい――それ以外にアーティファクトとして生きて楽しいことなど何もないと言っていた。ヘイルが俺の特訓に付き合ってくれていたのも、能力が高いリーナを使って自分自身を殺してもらうためだと本人から聞いていた。俺が自分の意志で人を殺すことはしたくない。だからこそ、ヘイルがこの世界を楽しめるようにするのも契約者となった俺の務めのように感じていた。その計画は何も立っていないが。
ヘイルと話しても新たな情報は出てこなかったが、共存派が表立って活動している組織ではないことが分かっただけで重畳だった。共存派の考えに完全な賛成を示しているわけではないが、考え自体は平和的な将来を目指す俺にとって同意するものだった。アーティファクトと人間の共存は王国の行っているアーティファクトの管理とは別のもので、道具として管理されながら生きていくのではなく、アーティファクトという括りを無くしたい事を信念としている。リーナが生きやすくなるのなら共存派の集会を見に行ってもいいと思っているのだ。
「(まずはケバルライの情報をソロンから聞かないことには話が始まらない。ケバルライの話を信じるかどうかはそこからだろう)」
ケバルライの行動に中止しながら何時ものように学園生活を過ごしていく。
俺がソロンから呼び出されたのはそこから3日後のことだった。




