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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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罪の記憶

 シルキーを宿に送り届けた後、シェラタンとハマルの魔法によってクリスが攫われた。その報告を学園でシルキーから聞かされた俺はすぐに救出へと向かったのだ。その時には既に遅く、クリスはシェラタンによって破壊されシルキーの精神にダメージを負わせてしまった。シェラタンを倒し、シルキーの介抱をしている中、ヘイルがシェラタンの首を跳ね飛ばした。序のように武器であるハマルも殺した。

 クリエイトの根城であった酒場の地下から抜け出した俺に待っていたのはシルキーとの別々の言葉だった。あの時のシルキーの表情と声は俺の脳裏に焼き付いて離れない。産まれて初めて「出会わなければ良かった」と言われてしまった。本当にその通りで、俺と出会わなければシルキーはクリスとともに学園生活を送れていたのだろう。

 俺は自分の感情を表に出さないように起こった事実だけをソロンに話した。リーナは俺の感情に気が付いていたようだが見ないふりをして話を続ける。


「なるほどな。ご苦労だった」

「別に。クリスが壊されたシルキーのほうがよっぽど大変だ。それ以降シルキーは学園に来ていないし、会ってもいない」

「……シルキー・ヒーレンは退学扱いとなった」


 ここから居なくなると聞いた時に脳裏に浮かんでいた事が現実となったが、俺は驚かなかった。何となくそんな気がしていたのだ。クリスがいなくなってしまった以上シルキーはこの学園にいる理由が思い当たらない。それほどまでに大切にしていた関係は過去から紡がれていたもので、それが無くなればシルキーの行く末は誰にも分からない。


「そっか」

「ロージス。お前はもっと落ち込んだり気にしたりするものだと思っていたぞ」

「気にしてないわけないだろ。ただ合わせる顔がねえ」


 この学園からシルキーが居なくなったことで俺はシルキーと顔を合わせることが無くなった。その事が悲しい反面、安心をしてしまっていた。出会えばシルキーは俺のことを無視するか罵声を浴びせてくるかもしれない。その恐怖に怯えながらシルキーと接することは耐えられない。


「ロージス、シルキー・ヒーレンの事をどこまで知ってる?」


 ソロンは持っていたペンを机に置き、腕を組みながらロージスの目を見つめて質問をしてきた。

 俺はシルキーの事を何も知らない。シルキーが語ろうとしなかった事を態々聞かなかった。俺がそうであるように人には語りたくない過去がある。これから先の未来でシルキーの事を知れればそれで良かったが、希望の未来は潰えている。


「何も知らねえ。戦うことが嫌いで人を治すことに心血を注いでいた優しい女の子だったってことくらいしか」

「……悪かった。変なことを聞いたな」

「これは俺の問題だ。ソロンが気にすることじゃない」

「話は変わるが他に報告することはないか?無ければここで終わるが」


 ソロンへの報告で意図的に避けていた内容がある。話の流れ伝えるには内容が濃く、その事を単体で伝えたほうがいいと判断したからだ。


「ヘイルとも契約をした。リーナ以外のアーティファクトとだ」


 シェラタンとの戦闘でヘイルと契約をしたことを伝える。アーティファクトは本来1人につき1人の人間としか契約をすることが出来ないとされている。契約者が死ぬか、武器が壊れるかしないとその契約は破棄されない。

 そのため前例にない俺の二重契約はソロンにも衝撃を与えた。俺の発言から一拍置いてソロンの動きが止まり、思考回路がショートしたようだった。それはソロンだけではなくバレットも同じで口を開けたまま動かない。


「ソロン?大丈夫か?」


 何度か声を掛けると少しずつ正気を取り戻したソロンは俺とリーナを交互に見比べる。


「待て、整理させてくれ。状況に思考が追いつかない」

「流石にそうだよな」

「まずリーナ・ローグとの契約は切れていないな?」

「ああ。あの事件の後も武器化出来ている」

「そしてヘイル・リズレットとの契約というのは武器化までしたということで間違いないか?」

「そっちも事件後に武器化することが出来た。二人同時に武器化することは出来てないけど」


 ソロンは分かりやすく両手で頭を抱える。1人で抱えきれない内容を誰かに相談したいが、国に報告することも憚られる内容だからだ。国に俺の存在を報告してしまえば俺は学園には居られず、国の研究機関に良いように使われてしまうだろう。ヘイルからその事を聞かされた時にはソロンに伝えない選択肢もあったが、ソロンには全てを伝えたほうがいいと判断した。


「私はどうすればいいんだ。前代未聞だぞそんな事」

「出来ればこの場限りの話にしてほしい。2人と契約できるなんて知られたら問題になる」

「国に報告する義務はないが、秘匿したことがバレたら大問題になるぞ」

「知らなかったことにしてくれ。その時は俺が自分でどうにかするさ」

「チッ。何かあったら相談しろ」


 なんだかんだ言いながらも面倒見のいいソロンはロージスの考えに同意し、報告をしないことに決めたらしい。気がつけばバレットは席から移動し、リーナのそばに寄って話をしていた。しきりに「リーナちゃんの気持ちは大丈夫?」と聞いていたが、それに対してのリーナの回答は聞かないようにしていた。

 ヘイルと契約した後の話し合いでもリーナはヘイルを受け入れていた。あのリーナが、だ。アーティファクトに対しては友好的と言うわけでもなく、ヘイルが相手だから認めている節がある。その理由は本人にも分からないらしいが、他の女性に湧くような感情がヘイルには湧かないらしい。


「時間作ってもらって悪かった」

「国に報告するための事だ。今、時間を作らなければ後で呼び出していたさ」

「俺もさ、まだ切り替えられてないんだ。何か心に穴があいたような不思議な感覚だ。自分の行動が全て悪い方向に進むってどうしょうもなく辛い」

「あまり自分を責めるなと言っても無駄だろう。今後の糧にしていけ」


 今後、あの事件のことを思い出すたびに俺は俺自身を責め続けるだろう。それを無くすことはシルキーへの侮辱になってしまう事も分かっていた。この辛さを抱え、二度と同じ過ちを繰り返さないように生きていくしかないのだ。


「ありがとな。それじゃ」

「ああ。ロージス。ちゃんと寝ろよ」


 俺はリーナを連れて生徒会室から出る。人の目が無くなった廊下で壁に背中を預けて大きく息を吐いた。

 立ち振舞は誤魔化せても、顔色や目の隈は誤魔化しきれなかったみたいだ。あの事件の日から眠りが浅く、シルキーの事を夢に見てしまう。幸せな夢ではなく、絶望に繋がる夢。それを追体験させられることで自分の罪が心に浸透していく感覚がある。この罪が薄れていく日がいつか来るのだろうか。

来ないよ。君を不幸にする話だから

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