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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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死に導いた人たち

「なんですか!なんなんですか!昨日まで何事もないいつも通りの日だったのに!」


 叫ぶシルキーは止まらない。


「クリスちゃんが壊されて。ロージスくんたちはシェラタンを殺して。被害を被ったのはクリスちゃんだけ」


「シルキー落ち着いて」


 リーナがシルキーを落ち着かせようと肩に触れようとする。その手を勢い良く手で払い除けた。普段のシルキーでは絶対にしないような人を傷つける行動に俺だけでなくリーナも驚いていた。


「触らないで!なんで私だけ……こんな思いを……」


「貴方が弱いからですね」


 シルキーの呟きに対して空気の読めない発言をするヘイル。これまで世話になったシルキーに対しての対応として礼を失しすぎている。

 シルキーの言う事は分かってしまうのだ。シルキーのアーティファクトであるクリスだけが殺されて、俺たちは殆ど無傷で言葉をやり過ごした。その遣る瀬無さが行き着く先を探している。


「そんな事!そんな事……分かっていますよ」


「シルキーは回復の専門だろ?弱くても別に」


「その結果がこれですよ。私だってロージスくんたちに対して怒りを抱くのがお門違いだって言う事は分かっています。悪いのはシェラタンです。ですが抱えきれないこの怒りは死んでしまったシェラタンにぶつける事が出来ない今、どうしろっていうんですか」


 シルキーは怒鳴り散らかす。辺りに人は居ない。ここはほぼ密室で外へ行くのにも少し時間がかかる地下だ。声だけが反響し、シルキーの怒声は部屋を満たした。「怒りの矛先に生かしておくべきでしたか」と呟くヘイルの口を塞いで黙らせる。今のシルキーとヘイルに会話をさせてはいけないと直感で理解した。


「……悪かった。クリスを助けるって言って何も出来なくて」


 元はと言えば俺たちが居たからシルキーは狙われてクリスは殺された。今になって思えばシェラタンの性格的にあの場でシルキーをひとりにするべきでは無かったと思う。

 もう取り返せないクリスの命に対して俺が出来るのは不甲斐なさへの謝罪だけだった。


「謝ってもどうにもなりませんよ。私も、ロージスくんももう駄目です」


 遠い目をしたシルキーはゆっくりと立ち上がり、部屋の外に繋がる階段をひとりで登り始めた。シェラタン以外のクリエイトがいる可能性もあり、ひとりで外に行くのは危険だと引き留めようとしたが「もう私にアーティファクトはありませんよ」と断られ、どんどんと進んでいく。

 その後ろを追うように俺たちも外を目指して登っていくが道中では会話は全くない。外に出て衛兵にこの場所を教えてシェラタンをどうにかしてもらわなければならないが、バーのマスターが先に処理をしてしまう可能性もあった。

 考えることが多すぎて頭がパンクしてしまいそうになるが、まずは目の前のシルキーへの対応をちゃんとしなければならない。俺達のせいで巻き込んでしまった恩人の心を少しでも軽くしてあげたい。


「なあシルキー」


 階段を登り終え、バーの入り口に着く。そこにはマスターの姿は既になく酒やテーブルも片付けられて蛻の殻だった。本当にここはひとつの拠点でしかなくいつでも廃棄できる場所だったのだろう。


「……」


 外に出てきたことで立ち止まったシルキーに声を掛ける。このまま帰してしまったら何か取り返しのつかないことになりそうな気がした。

 俺の呼びかけにシルキーは返答をしない。しかし、その場から立ち去ろうともしないので話を聞いてくれる気にはなっているみたいだ。


「俺はさ、シルキーとクリスが修行で傷付いた俺を治療してくれたからここまで強くなれたんだ。本当だったらもっと時間が掛かっていたかもしれない。でもふたりのお陰でさ」


「……」


「クリスが壊されたのは俺達のせいだってことは分かってる。シェラタンが悪いのは間違いない。でも俺たちと関わったことでシルキーとクリスが巻き込まれた。それに関して俺が言えることは謝罪しかない」


「……別にいいですよ、なんでも。その謝罪を受け取っても何も変わらないので」


「そう、だよな。俺はシルキーとクリスの関係も知らない。きっと大切な存在だったって事は分かる」


 俺はシルキーを傷付けないように必死になって思考を巡らせて言葉を紡ぐ。今のシルキーには何を言っても届かないかもしれないがクリスが居なくなった今、どうにかしてシルキーを立ち直らせたいのだ。


「そのさ、少し経ったら――気持ちの整理がついたらさ、また学園に来て一緒に」


 俺は頑張って言葉を吐き出している。

 今まで俺の顔を合わせなかったシルキーが此方へ振り向き、少しずつ近付いてきた。シルキーは何の感情も抱えていないかのような無表情だった。それなのに視線だけは俺の目から離さない。その威圧感に俺も目を背けることが出来なかった。


「ロージスさん」


 シルキーに名前を呼ばれた瞬間、パァンという音とともに俺の頬に鈍い痛みが走る。視線の先にはシルキーの手があり、そこで初めて頬を叩かれた事が分かった。ヘイルとリーナは何も言わない。


「気持ちの整理がついたらなんておかしなことを言いますね。……付くわけがないでしょ!ふざけないで!」


 そういうつもりで言ったわけじゃないと否定しようとしたが、火に油を注ぐ結果が見えていたため何も言わずに黙ることしか出来なかった。気持ちの整理がついたらなんて俺がシルキーの立場で言われたら同じように怒っていただろう。

 被害のなかった俺には余裕があり、シルキーを慰めようという立場になっているという驕りがあったとその時に気付かされた。


「ロージスさんの言う通り、貴方と出会ったからクリスちゃんは死んだ。そう思うことでしか今は気持ちを抑えられません。この考えが間違っていることくらい私でも分かりますがひとつだけ言わせて下さい」


 シルキーの言葉に頷くことしか出来ない。どんな叱責も今は受け止めるしか無いと分かっているから。


「――貴方に出会わなければよかった。助けなければよかった。それだけが私の後悔です」


 その言葉は心の奥底に重く響いた。人を救うことを自分の存在意義とまで言っていたシルキーに助けなければよかったと言わせてしまった事がどれほど大事なのか。

 それほどの負の感情を引き出してしまうほどの事が起こった事実。なんだかんだ時が過ぎればまた以前と同じようにとはいかずとも笑って話せる日が来ると理想を思い描いていたのかもしれない。

 シルキーの言葉は俺の理想を粉々に打ち砕くほど鮮烈に脳を破壊した。


「私は学園には戻りません。地元に帰るなり、遠いところへ行くなりします。もう貴方と会うことはないでしょう」


 シルキーはひとりでバーの出口に向かっていく。


「さようなら。私の家族を死に導いた人たち」


 こちらを無理向かずにシルキーはそのまま姿を消した。

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