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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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心此処に非ず

「私を、どうするのです?殺すのですか?」


 自らの負けを悟ったのかシェラタンは尻餅をついたまま恐れを抱いた瞳で俺たちを見てくる。


「俺はお前と違って人を殺さない。拘束をして国に引き渡す」


「私も人は殺していませんよ」


「チッ。お前と話してても埒が明かねえ」


 ヘイルに手伝ってもはいながらシェラタンを縄で括り、身動きが取れない状態にする。ハマルの力がなければシェラタンは何もできない。

 魔法の心得があるかもしれないが、拘束された状態からの攻撃ならばヘイルが対処するだろう。腕が切断されている以上、痛みで魔法を使うことも難しいかもしれないが。

 シェラタンの腕からは血が滴っており放置すれば失血死してしまうかもしれず、この場ではリーナを呼んで傷口を燃やして止血をするという選択肢も取れない。


「どうせ犯罪者なのです。魔法の試しをしてもいいでしょうか?」


 俺の悩みを察したのかヘイルから提案をされた。犯罪者だからと言って傷つけることは承認しかねるがシェラタンの止血という名目だと聞かされれば他にとれる選択肢はなかった。

 シルキーがいつもの調子なら頼めるのだが、未だにふたつになったクリスを胸に抱えて心あらずのまま座り込んでいる。


「氷魔法で傷口を塞ぐだけですよ。使ったことはありませんが今なら何となく使い方が分かりますので」


「傷口を防ぐだけな」


 俺の承認を得てからヘイルは氷魔法を行使し、シェラタンの傷口を塞いだ。アーティファクトに魅了されるのが嫌だったのかシェラタンは終始不快な顔を崩さなかった。


「月並みな言葉ですが」


 拘束されて座ったままのシェラタンが喋りだす。


「私を捕らえたところで他のメンバーが貴方達を破壊しにやってくるでしょう。クリエイトはメンバーの層が厚いとは言えませんがそれぞれアーティファクトを破壊することに執着しています」


「どれくらいのメンバーがいるんだよ」


「言うわけがないじゃないですか。敵だった私を殺さないくらい甘いロージスくんには、ね」


 敵だから殺すなどという物騒な思考は持ち合わせていないし、今後も持ちたくない。自分の身を守るために不可抗力で人を殺してしまった時ですら辛い思いをしたのだ。自分の意志で人を殺すことなど、相手が悪であっても俺にはできない。


「エミリアさんのこともそうです。貴方が甘さから見逃してしまったから今回の件に繋がった!貴方がちゃんとしていれば大鎌のアーティファクトが私に破壊されることはなかった!ロージスくん、貴方が全て悪いのです」


 シェラタンの言う事は滅茶苦茶で責任転嫁も甚だしかった。今回の件で悪いのは全てシェラタンだ。俺の行動の甘さが事態を深刻化させてしまったという自覚はあるが、シェラタンがアーティファクトを破壊した事実は変わらない。

 アーティファクトを保護する法が存在しているこの国ではシェラタンやクリエイトが犯している行為こそが絶対的に悪なのである。


「そう言えば、先ほど呟いていたケバルライとは何方でしょう?クリエイトのメンバーですか?」


 ヘイルは話を切り替えるようにシェラタンに問う。俺には聞こえていなかったがヘイルはシェラタンの呟きの中で気になる言葉があったのだろう。


「もう今更ですしいいでしょう。どうせ捕まるのなら道連れにしてしまいましょうか。――ケバルライは学園にいるロージスくんたちの情報を私に渡した子ですよ」


 ヘイルは顎に手を当てて頷いているが俺からしたらそんな生徒は知らない。学園にいる生徒を覚えているわけではないがケバルライという名前には一切覚えが無かった。俺たちのことを嗅ぎ回っているような生徒の気配は感じていなかったし、姿を見ることもなかった。

 一時はソロンやバレットに疑いの目を向ける事もあったが真犯人はあっさりとシェラタンの口から語られる事となった。


「あの子はあの子で可哀想ですね。この国にとっては私たちは悪の組織。そこに加担していたというだけで犯罪者になってしまうのですから。別に私が捕まっても痛くも痒くもありません。――ロージスくんはまたしても自分の選択で他人を不幸に陥れるのですね。あぁ嘆かわしい」


 シェラタンを国に突き出せば見ず知らずの生徒が不幸になると目の前の男は言った。だが、シェラタンに協力している以上ケバルライという生徒は学園に忍び込んだクリエイトからのスパイと考えるのが妥当だろう。

 俺はヒーローではない。全人類を助けられるなんて微塵も思っていない。リーナが過ごしやすい世界になればいいと、それだけを思って動いている。全く知らない、俺たちに危害を加えようとしている誰かが不幸になったとしても知ったことではない。


「もういいよ。ヘイル」


「なんですか?」


「ハマルのことも一応動かないように見張っておいてくれ。シェラタンは黙らせておいてくれればそれでいい」


「分かりました」


「俺はシルキーのところに行ってくる」


 シェラタンの事はヘイルに任せることにした。今更ハマルが危害を加えてくるとは考えられないが見張るように頼む。シェラタンの言葉は不快になるだけなので声も聞きたくなかった。


 俺は入り口付近で座り込むシルキーへと歩み寄っていく。リーナがシルキーに話しかけているがシルキーからの応答は全くなかった。


「シルキーは……」


「駄目。話しかけても返ってこない」


「そっか」


 シルキーの身の上話は一切知らないが、シルキーがどれだけクリスを大切に思っていたかを俺は知っている。常に肌見放さず持っていたアーティファクトが1日も経たないうちに破壊され死んでしまった。

 それも助けられると希望を持たされた上で踏みにじられるような結果で。


「クリスは治ったりしないのか?」


「私の知る限りでは不可能。死んでしまったアーティファクトが生き返ることはない。武器のまま壊されたら武器のまま死ぬ。人の形には成れない」


 リーナの声がシルキーの耳に届いてしまったのか、シルキーの瞳に溜まっていた涙は頬を伝い、破壊されたクリスへと落ちていった。 

 壊されたアーティファクトが生き返ることはない。クリスはシェラタンによって殺され、二度とシルキーと言葉を交わすことはない。


「シルキーをこのままにしておくわけにはいかない。地上に戻って衛兵を呼んでくる。シェラタンを引き渡さないといけないしな」


「ロージスひとりで行くの?シルキーをこの場に置いてヘイルに見てもらった方が良いと思うけど」


 俺とリーナの2人で衛兵を呼びに行き、ヘイルにこの場の監視を頼むというリーナの提案。それにはヘイルの意見を聞かなければならない。


「おい、ヘイル――」


 話を聞こうとシェラタンのことを監視しているヘイルに話しかけようと振り返る。

 俺から見えるのはヘイルの背中。その影になってシェラタンの姿は見えない。シルキーに話しかけるため身を屈めていたことで、普段よりも視線は低くなっていた。


「なんですか?ロージスさん」


 ヘイルの片手には剣が握られており、仁王立ちしている足の間からは苦しむような顔をしたらシェラタンの頭部と砕かれたヘイルの残骸が転がっていた。

ばいばいシェラタン悪いやつだったよ

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