止めました
シェラタンの攻撃は止むことはない。薄氷の剣の力が分からないので攻撃に転ずることが出来なかった。
『何合も打ち合ってるけど大丈夫なのかよ』
『臨機応変に行きましょう』
「そろそろ、ですかね」
猛攻を仕掛けていたシェラタンだったが、一言呟いてから後ろへと飛び退いた。
「武器が変われど使い手が同じならば大差ありませんね。様子を見るに契約をしたのは今。アーティファクトの能力も理解していない様子。それならば此方としても予定通り進行しても問題ありません」
シェラタンの言う通りリーナで攻撃を受け流していた時とやっていることは変わらない。シェラタンの猛攻を受け流し、反撃の機会を伺う。
リーナの時と違うのは能力が使えること。リーナの場合は炎を出す能力のため、この場で使えば大爆発が起こる可能性があった。ヘイルの能力は分からないが炎を出す能力ではないことはなんとなく分かった。
無闇矢鱈に使ってしまえば、後ろにいるリーナとシルキーにも被害が出てしまうかもしれない。ヘイルからの指示が出るまでは防戦一方になってしまう。
『ヘイル』
『なんですか?』
『お前の能力を使って一気に片をつけることって出来ないのか?』
『既に私は使っていますよ』
『は?なんも起こってないぞ。リーナの時みたいに切ったところから燃えるみたいな』
「ロージスくーん。そろそろ行きますよ」
余裕を取り戻したシェラタンの間延びした声が耳に届く。何合も打ち合った剣はシェラタンの言葉一つで重くなるのだ。いくら軽い剣だからといって重さが何百倍にも跳ね上がれば持って振るうことなど出来ない。
ヘイルは能力を発動していると言っていたが、詳細を教えてはくれなかった。協力して戦っているのだから情報共有はしっかりしてほしい。
「チッ」
「ロージスくんには危害を加えませんので。そこのアーティファクトを壊すところを一緒に見ていってください。それでは――落ちろ」
シェラタンの言葉と同時に俺の左手から感じる武器の重さが膨れ上がる
――ことは無かった。
『あん?重さ変わんねえけど』
『重くなったフリをしないと駄目ですよ』
『あ、ああ。分かった』
リーナの時は持てないほど重くなっていたハマルの能力も、ヘイルには全く効いていなかった。理由は全く分からないがこれがヘイルの能力なのかもしれない。相手の能力の無効化だとしたら便利すぎるがアーティファクトの能力は万能ではない。
「重くなった武器を振るうことは出来ないでしょう」
シェラタンはヘイルが重くなったことを確信している様子で話しかけてくる。実際には剣先を地面に向けて体を支えているように立っているだけなのだが、確信を持っているシェラタンには俺が演技をしているという可能性は微塵も考えていないようだ。
「先程とは違う剣の大きさ。受け流して耐えるのは難しいと思いますよ。人間を痛めつける趣味はありませんのでそこのよく分からないアーティファクトを此方に渡してください」
シェラタンは軽やかな足取りで歩いてくる。本当に武器が重くなっていたのなら処刑人が前から歩いてくるような絶望感を感じていただろう。しかし俺には今のシェラタンが滑稽にしか見えなかった。
シェラタンは自分の間合いまで俺に近づきハマルを振り下ろす。
『ハマルを避けると同時にシェラタンの腕を流すように剣を立ててください』
『わ、分かった』
攻撃をただ受け流すだけのつもりだった俺はヘイルから来た指示に従うしかなかった。急な指示だったが自分の頭で考えるので無く言われたことを忠実に熟すだけだったのが功を奏し、支持道理の動きをすることが出来た。
ヘイルが重くなっていると信じ切っているシェラタンは急に動き出した俺たちに対応することが出来ない。勢いよく振り下ろされた右腕は勢いを殺すこと無く、立てられたヘイルへと振り下ろされる。
ぼとり。
薄氷のような剣とはいえ、武器は武器。ヘイルも何かを斬るための武器なのだ。その切っ先に向かって勢いよく振り下ろされた腕がどのようになるかなど想像に難くない。
「ひぃぃぃぃぃああああ。私の、私の腕が」
ハマルの握られた腕だけが地面に落ちる。断面からは鮮血が飛び散っており俺は目を背けてしまった。
『はい、目を背けない。これが貴方の行くべき道なのです』
レイルからの言葉に視線をもとに戻すと、シェラタン先の無くなった腕を胸に抱えて尻餅をついていた。ハマルが手から離れてしまっている以上魔法を使う事もできない。
ハマルを持っていることが脅威だったシェラタンは一瞬で力なき木偶になってしまったのだ。
アーティファクトを破壊する活動をしている存在が、アーティファクトの力によって傲慢になっていた結果が今のシェラタンの姿だった。
「ハマルッ!おいっ!助けろっ!」
シェラタンがいくら呼んだところでハマルが武器化された状態から戻ることはなかった。いくら感情を殺されていようとも、自分の意思だけは無くなっていなかった様子でシェラタンからの怒声にも応じずただの武器のように言葉を発することはなかった。
「シェラタン」
「なんですか。なんでその武器は動けるんですか。ちゃんとハマルの魔法は利いていたはず」
俺の左手に握られていた武器は淡く光り、人型に戻った。
「教えてあげましょうか?」
「アーティファクトなんかに傾ける耳はありません」
「まあまあそう言わずに。貴方の忌み嫌うアーティファクトから情けを掛けられるのです。貴方にとってこれ以上ない屈辱でしょう?」
ヘイルはシェラタンと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。腰に添えられた剣に手をかけているためシェラタンが変な行動を起こせばすぐに斬るという脅しも忘れてはいない。
「まず貴方の敗因はアーティファクトの力を感心しすぎたことです。自分でも言っていたと思いますが使い手が変わらないのならアーティファクトなどただのガラクタなんですよ」
そこまでは言ってなかったと思うがヘイルによる精神攻撃は止まない。
「簡単に言ってしまえばアーティファクトの力を自分の力だと感心してしまったが故の油断が貴方に負けを与えたということです」
「何故ハマルの能力が効かなかったのですっ!あの力は武器をぶつければぶつけるほどに重くなるもの――」
「その能力を止めました」
シェラタンはその答えを聞いた途端口をぽかんと開けて言葉の続きを話すことはなかった。それを見ている俺もヘイルの言葉に理解が追いつかなかった。
相手の能力を止めるなど、アーティファクト相手にとっては特効とも言える能力だ。俺の予想が当たっていた事よりも、アーティファクト相手ならばヘイルの力で相手の能力を止めてしまえば無効化できる。
故に俺自身の実力に直結することを示していた。
「いや、そんなの、無理じゃないですか。おかしいですよ」
「私の能力は相手と打ち合った時、相手のアーティファクトに触れた時にその能力を止めるものみたいです。その瞬間だけ凍てつかせ、離れれば氷解するようなものでしょうか」
相手に触れることで重さを付与するハマルと、相手に触れることで能力を止めるヘイルの相性は最悪だった。
サクサクといきます
さくさくパンダ




