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アーティファクト

「結局アーティファクトってなんなんだ?」


「いや、お前それは習うだろ」


 兄貴に突っ込まれる。俺だって存在そのものを知らないわけではない。名前だけ薄っすらと知っているだけだが。今日は自分の勉強不足を実感することが多い。

 知識のなさが俺の行動の足を引っ張る。一歩踏み出せないのは俺が何も知らないせい。


「勉強サボってたからさ、今後はちゃんと勉強する。今回だけ教えてくれ。多分早く知っておいたほうがいいと思う」


「リーナさんに聞いたほうがいいんじゃない?」


「私は他のアーティファクトのことを知らない。私も知らないから教えてほしい」


「それじゃ説明しようか。夜も遅いし簡単にね」


 俺達が話し始めようとすると親父は席を立った。まだ書類仕事が残っているため、それを片付けてくるという。この後の話はこの世界の者にとっては常識に等しい話のため、親父が態々同席することもない。誰も引き留めることはせず、親父は部屋から出ていった。


「まずアーティファクトっていうのは武器のことなんだ。それもただの武器じゃなくて武器になれる人の事を言う。数は多くないけどそんなに珍しいものじゃないよ。国で管理されているし、一応人権も認められている」


「そうなのか?街でも見たことないぞ」


「アーティファクトの生まれは分かっていないんだ。ある日突然生まれたとアーティファクトは言うみたい。本人たちが分からないなら僕たちだって分からない。リーナさんはどう?」


 兄貴はリーナに問いかける。

 話を真面目に聞いていたのか、その返答は早かった。


「私もそう。気付いたら生まれていた」


「うん。そこからが問題なんだけど、アーティファクトは自分が武器であることを最初知らないらしいんだ」


「知らないってどういうことだ?」


「この世界に産み落とされ、何故かこの世界の常識も言葉も知っている。だから自分が武器ということを知らないって考えられている。だから街にも多分いるはずだよ。自分がアーティファクトって知らないで生きている子が」


 ある時急に生まれ、そのまま生きていく。リーナは偶然にも自分がアーティファクトを知ったのだ。それが良いことか悪いことかは置いておく。


「それじゃどうやって自分がアーティファクトって気づくんだよ」


「それは様々らしいよ?因みにリーナさんはどうやって自分がアーティファクトって気付いたの?」


「覚えてない。気付いた時には知っていた」


 リーナの年齢は俺とそんなに変わらないように見える。それなのに覚えていないということはそれだけ長い年月を生きているということなのだろうか。もしかしたら俺よりも物凄く年上の可能性がある。


「こういうパターンも結構あるみたい。実際分かっていないことが多すぎるんだ。ただ1つすべてに共通しているのはアーティファクトは武器であるが故に壊れたら死んでしまうってこと」


「死ぬ?」


「そう。武器として壊れたら、壊れたまま武器から戻らない。それは人のように生きたアーティファクトにとっての死なんだ。アーティファクトの説明は終わり。分かったかな?」


 つまり、アーティファクトは武器であり人である。横にいるリーナは人間離れした容姿をしているが体温もある。表情や声色の変化は少ないが、それでも間違いなく人に見える。

 それでも武器になれるアーティファクトなんだ。


「ありがとう兄貴」


「どういたしまして。それじゃ僕も一休みさせてもらうね」


 兄貴が部屋から出ていき、この場所に残ったたのは俺とリーナだけになった。声を掛ける言葉も無いため無言の時間が過ぎる。無言の時間が辛くなった俺は兎に角なんでもいいから話題を作るために話しかける。


「なぁ、リーナ。お前どうしてあいつに捕まったんだ?」


「歩いていたら捕まった」


「そうか……」

 

 結局やり取りは1往復で終わってしまった。リーナは喋ることが苦手なのだろうか。あんまり話しかけないほうがいいのだろうか。でも、リーナの声は聞きたい。


「そういえば、さっき部屋に来て慰めてくれてありがとな」


 寝ている俺の部屋に入ってきて話しかけて来たことを覚えている。俺の情けなさを助長するような言葉だったが、今思えばあの言葉はリーナが俺に対して、落ち着かせるように考えた末の言葉だったのかも知れない。


「そのおかげか、寝る前に感じていた恐怖が大分薄れてさ。色々と覚悟が決まったよ」


「そう」


「だから、ありがとな。リーナの言葉でなんか身体が温かくなって安心できたし、恐怖も少なくなった」


「燃やしたから」


「え?」


 今日俺達が燃やしたの殺人鬼だけ。思い出すのも憚られるが、他に燃やしたものはない。当然俺の部屋も燃えてはいないし、過去のことだろうか。

 リーナの言葉数が少なすぎて何もわからない。


「燃やしたって何を?」


「恐怖」


「恐怖?」


「貴方の感じていた恐怖の感情を私が燃やした。僅かに残っている恐怖の感情は燃えた後の灰。残滓だけ」


 多分、俺の中にあった恐怖を和らげようとしたということを伝えたいのだろう。声をかけることで不安を取り除いても、やはり少しは残る物を灰と表現しているのだ。口下手と表現の難しさが混在しており、理解するのが困難になってきた。


「えっと、とりあえずありがとな?俺は部屋に戻るわ」


「分かった」


「それじゃおやすみ」


「おやすみなさい」


 気まずくなった俺は席を立ち部屋から出た。リーナの返答はただの相槌だったため会話が続かない。部屋に入ってきた時はもっと饒舌だった筈だ。相手が話しかけてくると対応しきれない子なのかも知れない。リーナがもっとしっかり返答出来るように仲を深めないと。


 リーナにも言ったが今となっては恐怖はあまり感じなくなっている。人を殺してしまったことを家族にバレてしまう恐怖は話し合いによって解決した。人を殺してしまったという後悔は残っているが、そこにあった恐怖は今はない。リーナのお陰だ。怖がっている俺に声をかけてくれたから。


 リーナは口下手だ。

 それでも人を思いやる気持ちがある。

 いくら武器と言われても俺は彼女のことをただの人間だと思うし、 ただの武器として扱いたくはない。もっとリーナと仲良くなりたい。



15話くらいでリーナの考えがわかります。

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