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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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開幕

 ヘイルは俺の手を勢いよく取る。必然的にリーナから手を離すことになった。


「は、反撃ってどうするんだよ」


 突然の行為に驚いた俺は声が裏返りながらもヘイルに質問をした。正直な話、今の俺たちには打つ手がなかった。剣術で戦おうにも武器が重くなってしまうし、炎を使えば皆を巻き込んでしまう可能性がある。


「それは追々。リーナさん、元に戻ってもいいですよ」


 ヘイルは剣になっているリーナへと話しかける。その言葉を素直に聞き、リーナは人型に戻った。

 ふたりが並び立つと白い髪に赤い目のリーナと赤い髪に青い瞳を持つヘイルが芸術作品のようなコントラストを醸し出している。


「ヘイル、反撃ってどういうこと?私たちは能力を使えない。それにハマルの能力で重さを変えられてしまえばロージスは剣を振るえない。シェラタンの詠唱を止めてくれたのは助かったけど決め手にかける。アーティファクトに対してアーティファクトで対抗しようにも光明が見えない」


「あら、心外ですね」


 肩をすくめて両手を肩の高さまで上げ、態とらしくすねるヘイル。


「アーティファクトはリーナさんだけではありませんよ」


「は?」


 ヘイルの言いたいことを直感で理解してしまった。

 この場にいるアーティファクトはシェラタンの持つハマル、俺の持つリーナ、壊されてしまったがシルキーの持つクリス。そして目の前で淡々と喋っているヘイルの4人だ。

 リーナを人型に戻してヘイルが行う反撃はひとつしかなかった。


「さて、ロージスさん。皆を助けるためにも契約――しましょうか?」


 その言葉に息を呑んだのは俺だけではなくリーナも同じだった。


「ちょっと待って。ロージスは私の契約者。アーティファクトはひとりに対して一振りしか契約できないはず。ロージスの席は私で埋まってるからヘイルには無理だよ」


「少しぐらい席を開けてくれてもいいじゃないですか」


「駄目。それに二重で契約しようとしたらロージスにどんな影響が出るか分からない。歴史上誰かが試したかもしれないけどその事が後世に伝わっていないってことは失敗して死んでる可能性もある。それなことをロージスにさせられない」


 アーティファクトはひとりにつきひとつ。それもどちらかが死なない限り一生の契約になる。これがこの世界の常識だし、俺が調べた限りでもそう記されていた。リーナは自分の感情でヘイルとの契約をやめさせようとしているように見えて実のところ俺のことを心配してくれている。


「初めて手が触れたあの瞬間からロージスさんとの繋がりが生まれてしまった気がしていて」


 特訓の最中に触れた手から感じた繋がり。リーナと初めて契約した時に感じた繋がりが、契約をしていないヘイルからも感じたのだ。その時は特に気にすることはなかったため、俺もすっかり忘れていた。


「契約もしていないのに繋がりが感じられるなんてことはあり得ないと私は思っています。試す価値はあるかと」


「それは、そうだけど。もし、失敗したらロージスが」


 この場に新たなる風を吹かせるためにはヘイルとの契約を試すことも一考の余地あり。しかし、リーナは俺の身に危険が及ぶ可能性を考慮して足踏みをしている。

 俺もリーナと既に契約している身であるため、新たにヘイルと契約をしてしまうことに恐怖はある。先ほどリーナが言ったように死んでしまう可能性もあれば、契約が上書きされリーナとの契約が白紙になってしまう可能性もある。


「貴方達は今、何のために戦っているのですか?」


「何のために?」


「目の前で友人の大切な者が壊されてしまったことに対して憤ってこの場に留まっているのでしょう?シルキーさんのアーティファクトが破壊され、そのような行為を行ったクリエイトが許せないからこの場で戦っているのでしょう?」


「そうだけど……」


「なら、何を迷う必要があるのですか?ロージスさんが目指す強さはは自分の中にあるでしょう。理想像に近づくためには兎に角強くならなくてはなりません。それに」


「それに?」


「目の前で女の子が泣いたんです。自分の保身より泣かせた相手に一泡吹かせるくらいの気持ちがないと格好がつきませんよ」


 ヘイルは俺の顔へと近づき、リーナに聞こえないような声量で語りかける。その声は耳から聞こえているはずなのに心を侵食していくような不思議な感覚に陥ってしまう。

 

 ヘイルの言いたいことは分かる。俺だってシルキーに起こったことを考えれば、シェラタンに対しての怒りは確かにある。俺は自分が傷つきたくないし、自分の近くにいる人にも傷ついてほしくない。

 既にシルキーの心には癒されることのないほどの傷が刻まれてしまった。これ以上、シルキーが傷付くところをみたくなかった。


「ヘイルは俺と契約してもいいんだな?」


「ロージス……」


 リーナは心配そうに俺のことを見ている。ヘイルのことを認めている節があったリーナでも俺の安全が脅かされている場合にはヘイルよりも俺を優先してくれるみたいで少し嬉しかった。


「ええ。ロージスさんが強くなる手助けが出来るのならば私としては不都合ありませんよ」


「どうしてそこまで――」


 ヘイルの真意を問おうとした時、俺の言葉はヘイルの手によって遮られた。


「今はその時ではありませんよ。お客さまがお待ちしておりますので」


 ヘイルの視線の先には俺たちの会話が終わるのを律儀に待ってくれているシェラタンがいた。


「お話しは終わりましたか?」


 木材でできた椅子のようなものに座って待っていたシェラタンは武器化したハマルを杖のようにして立ち上がった。こちらが作戦会議をしているのに余裕綽々といった表情でこちらを見ている。

 シェラタンの性格からすれば、作戦を立ててもそれが無為に帰した時に楽しくなるのかもしれない。兎に角性格が悪い男なのだ。


「ああ。随分と余裕だな」


「余裕というのは少し違います。争っている以上、私も傷付いてしまう可能性があります。それの可能性を極限まで減らすために準備したのです。余裕ではなく予定調和から外れていないと――まあ、そんな事はいいのです。ロージスくんはここからの打開策が生まれたみたいですし披露してもらいましょうか」


 シェラタンはハマルを掲げる。

 ハマルの能力は武器と武器が触れ合うことにより重さを増やしていくものだ。詠唱した時の能力は未知数だが発動させずに済むのならにそれに越したことはない。

 

 ヘイルと目を合わせる。


「リーナ。悪いけどシルキーの事見て貰っていいか?」


「分かった。ヘイル。ロージスのこと頼むね」


「契約する以上、私の方こそ頼みたいものです」


 リーナはその場から駆け足で座り込んでいるシルキーの元へと向かった。

 シェラタンは俺のそばからリーナが離れ、ヘイルがその場に残ったことに首を傾げていたが、何が面白いのか楽しそうに笑い出した。


「さて、ロージスくんは私に何を見せてくれるのでしょう」


 演劇じみたシェラタンの言葉に俺たちの反撃の幕は上がる。


終わりは残酷で

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