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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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正義と悪

「何をやっているんですかロージスさん。死にますよ?」


 俺の横を通り抜け、シェラタンへと一撃を加えたのはシルキーと共に後ろへと下がっていたはずのヘイルだった。素早くシェラタンの元へと近づくと抜刀した剣で躊躇無く切りつける。

 シェラタンも詠唱を破棄し、防御へ回るしか無かった。俺の目が間違っていなければヘイルは確実にシェラタンを殺すほどの損害を与えるつもりだったのだろう。


「(ヘイルはシェラタンを殺すつもりか?)」


「(分からない。でもヘイルのおかげでシェラタンの詠唱を止められたのも事実)」


「(ああ。だが状況は何も変わっていねえ)」


 ヘイルにシェラタンを任せる事も考えたがアーティファクトを使うシェラタン相手に決め手となる物をヘイルが持ち合わせているとは考えられなかった。

 強大な力を持つアーティファクトにはアーティファクトで対抗する他ないのだ。


 アーティファクトを破壊する組織の一員であるシェラタンにとってはヘイルも破壊対象になりうる。こちら側は既に被害者が出ているため新たな被害者を出すわけには行かなかった。


「ヘイルッ!」


「どうかしましたか?」


 すぐにシェラタンの元を離れてこちらへと戻ってくるヘイル。ヘイルに任せたはずのシルキーのことが気になり、先ほどまで2人がいたはずの入り口付近を見ると、壁にヘイルがひとりで寄りかかっていた。


「シルキーは……」


「気絶をさせておきました。後ほど話すことになるとは言え、今この場では意識がある方が考えてしまうことも多いでしょうし」


「そうか」


「それよりも何をしているんです?後ろから見ていて随分愉快なことをしていましたが」


 ヘイルにもシェラタンの使うアーティファクトの能力は聞こえていたはずだが、柔和な笑みを浮かべながら揶揄してくる。


「別に遊んでた訳じゃねえよ」


「それは分かっていますよ。教えたことを実戦でも使えていたようですし」


 ヘイルから教わった相手の技を受け流す技術は実戦でも使うことが出来た。あくまで基本的なことだけだが、習っておいて助かった。

 この場で炎を出す選択肢が取れない以上、相手の攻撃を凌ぎながら思考を巡らせる必要がある。攻撃一辺倒の能力しかないリーナでは守る能力は使えないため、俺の技量でどうにかするしか無かったが特訓の甲斐もありなんとか食らいつくことが出来ていた。


「シェラタンの能力が厄介でリーナを持ち上げて戦えないんだよ」


 ヘイルにも聞こえていたはずのことを伝える。


「だから何ですか?」


 ヘイルはそれに対してあっけらかんとした答えを出した。


「だから何って、あいつを攻撃できないってことだよ」


「さっきは蹴りを入れていたじゃないですか」


「それは隙があったから」


「ロージスさんはリーナさんを使わないと何も出来ないのなら対等な関係とは言えませんよ」


 俺はリーナと対等な関係を望んでいる。それでも心の中ではリーナのアーティファクトとしての強大な力を俺が使わせてもらっているという心は拭い切ることは出来ない。

 リーナを使うということが俺が対等であれる唯一の方法だ。だからこそリーナを使わないという選択肢をとることはできなかった。


「今回のようにリーナさんが使えない状態になった時――」


「(ヘイル失礼。私が使えない女みたいな言い方)」


「(今は聞こえてないぞ)」


「どうするか色々考えないといけませんよ」


 ヘイルがシェラタンの方を見るのに合わせて俺もシェラタンの方を見る。こちらの話が終わるのを律儀に待っていたようだ。


「お話は終わりましたか?」


「態々待ってたのかよ」


「それはそうですよ。会話を中断して自分の要求を通そうとするなんて人としておかしいじゃないですか」


 すぐに攻めてこなかったのは僥倖と言えるが、現状は何も変わっていない。リーナを使わずに攻撃をしようにも、俺は武器を持っていないしヘイルに任せるのも危険だ。

 

「シェラタン、と言いましたか」


「はい?」


 俺の前に立っていたヘイルがシェラタンに話しかける。


「ロージスさんたちを狙った理由は何ですか?」


「アーティファクトごときの質問に答える筋合いはないのですがロージスくんのためにも答えてあげましょう」


 ヘイルが聞いたのは俺たちが狙われた理由だった。昨日シェラタンから聞いた話ではエミリアからの依頼を受けて俺達を狙っていた筈。

 ただ今のシェラタンの口ぶりからすると別の理由もありそうだ。


「元々はこんなに急いでロージスくんたちに接触するつもりは無かったんですよ。上の命令で仕方なく」


「上の命令?」


「私たちも組織でして、上の命令にはなるべく従わなければならないのです。そういう人たちばかりではないのですが、だからといって私がその人たちに迎合する理由もない。私は組織の一員として命令を全うしています」


「なんで、俺に命令が出たんだよ」


「ロージスくん、と言うよりはそこのリーナ・ローグというアーティファクトに対してですね」


「リーナに対して?」


 エミリアのアーティファクトだったバレットを殺したのリーナだった。それに対して危険視をして始末を早めた可能性もある。


「私も詳しくは知りませんが「片割れを壊せば不完全なままになる」らしいですよ」


「片割れ?何のことだ」


「私も知りませんのでご期待に添えず申し訳ありません」


 シェラタンの言葉を信じる訳では無いが、クリエイトの上層部がリーナのことを知っていることに違和感が生まれる。街のチンピラでしかなかったエミリアの情報が組織の上層部まで上がるとも考えにくい。

 下っ端の方で処理をすることが関の山だろう。上層部からの命令でリーナを始末するということは、クリエイトからリーナが危険に見られているということ。


「(リーナ、何かしたのか?)」


「(本当に覚えがない。私は生まれてから誰とも契約していないし、ロージスに会うまでは会話すらも禄にしていない。だからクリエイトに狙われる理由がない)」


 リーナの過去は本人から聞いた情報でしか知らない。それでもリーナが誰かを傷付けた話は聞いたことがなく、そもそも人と関わってすらいなかった。

 クリエイトの上層部がリーナ・ローグというアーティファクトを重要視している理由が分からない。


「分からないということが分かりましたね」


 両手をパンと打ち鳴らすヘイル。その瞬間、シェラタンと俺たちの間に漂っていた変な空気が霧散したように思えた。


「どちらにせよシェラタンさんとロージスさんは敵。私はロージスさん側なのでシェラタンさんは敵ということになります。こちら側は被害者が生まれており、それを行ったのは加害者であるシェラタンさんです」


 ヘイルは一息で自分の立場を表明した。

 その言葉に違和感を感じながらも俺はヘイルの言葉を聞く。


「つまりシェラタンさんは悪。私を正義とするのなら悪になります。それは正さねばなりません」


 ヘイルはその言葉をシェラタンに吐き捨てたあと俺たちの方を見る。


「ロージスさんもそろそろいいでしょう?反撃をしないと門限に間に合いませんよ」

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