重い一撃
ガキンッと互いのアーティファクトがぶつかる甲高い音が聞こえる。
素早く近づいて振り下ろした俺の剣はシェラタンの持つメイスに防がれる。武器同士が触れ合っているがハマルの能力を使う素振りは見せない。
シェラタンの言葉に危機感を感じている俺もリーナを使って火を出すことが出来ない。
「なかなか重い一撃です」
「対策してきたっていう割には受け身だな」
何合か撃ち合ってみたもののシェラタンが自分から攻撃してくることはなく防戦一方だった。
あれだけ俺達のことを対策していると言っていた割には拍子抜けだったが、どう攻撃しても軽くあしらわれてしまうことでシェラタン自身の戦闘センスの高さも感じてしまう。
「最初は防戦一方のほうが効率がいいんですよ」
俺は何度も素早く剣を振る。リーナと決めた通り、腕や足を重点的に狙うもすべて防がれてしまう。
「(クソ。炎が使えれば簡単に攻撃ができるのに)」
「(焦っちゃ駄目。思う壺)」
攻撃を仕掛ける側がすべて防がれることと、受ける側が全て防ぐことでは精神的に受けるストレスが違う。一歩決めきれない俺は段々と焦っていく。
リーナに焦るなと言われても、俺の心はシェラタンを早く倒したいと急かしてくるのだ。戦闘になったものの視界の端にはクリスを抱えたシルキーの姿が映る。駆け寄って声をかけてあげたいのだ。
「(もう10回以上防がれてる)」
「(何かおかしい。一旦距離を取って)」
リーナの指示に従い、後ろへと飛びシェラタンと距離を取る。
「おや?いかがなさいました?」
「お前、なんで何もしてこないんだよ」
シェラタンは防ぐだけで攻撃は一度も与えてこなかった。シェラタンは俺を行動不能にしてからリーナを壊すと言っていたが行動不能にするような動きを見せてはいない。こちらのスタミナ切れを狙うにしては杜撰な計画だ。そんな物をシェラタンが立てるとは思えなかった。
「何もしないってしているじゃありませんか」
「何をだ」
「互いの武器を交じ合わせています」
「それが――」
俺がまだシェラタンと問答を続けている途中だった。
「落ちろ」
シェラタンの一言と同時に俺が持っているリーナの重さが何倍にも膨れ上がった。
「ぐっ……」
すぐに落とさなかっただけでも自分を褒めてやりたい。いつもはリーナを持っていても羽のように軽いのだ。それがいきなり木剣の何倍もの重さを持った。片手では持つことが出来ず、両手で支えるのがやっとだった。
「(ロージス?どうしたの?)」
「(リーナは何も感じないのか?)」
「(特に何も感じない)」
俺が感じている重さの変化をリーナは感じ取ってはいない。何をされたのか分からないが俺が攻撃をされたことに違いはなかった。
「(リーナが重くなってる)」
「(私が重い?それはちょっと失礼。私だって女の――)」
「(違う。シェラタンの一言と同時に俺の腕に掛かる負担が倍増した。おそらくリーナの重さを増やされたんだと思う)」
「(ハマルの能力は物を浮かせるものじゃなかったってこと?)」
「(分からない。でもこの重さだと剣は動かせても振ることはまともに出来ない)」
両手で剣を持つことがやっとのため、構えることは出来ても振り抜くことは不可能に近かった。体勢を崩してしまえば立て直すことも難しい。この重さだとシェラタンに奇襲をかけることも難しくなる。
ハマルの能力が物を浮かせるものだと思っていたのが間違いだった可能性もある。先入観に囚われてしまう俺の悪い癖がでてしまった。
「重いでしょう?既に10合は打ち合っていますからね」
「何をしたんだ」
「教える義理はありませんが」
あわよくば上機嫌になったシェラタンが話してくれないかと思っていたがそう上手くは行かないみたいだ。近付いて攻撃することも難しいため、互いににらみ合う膠着状態が続く。
「それじゃこちらから攻めますよ」
シェラタンはその言葉と共にこちらへとゆっくり近づいてくる。奇襲をかけるわけでもなく、ただ弱者にとどめを刺しに来る強者のように粛々と歩いてきた。
俺は体の前で剣を構えながらそれを待つことしかできない。シェラタンの一挙手一投足を見逃さないように集中する。
「攻めると言っても私はこれを使って殴ることしかできませんからね」
シェラタンはハマルを中に投げてはキャッチする。契約しているアーティファクトの扱いがぞんざいなことは分かっては居たが何度も見たいものではない。内なるハマルが何を思っているのか分からないが幸せではないだろう。
「このままではロージスくんを甚振るだけになってしまいますので私が何をしたのか教えてあげましょう」
シェラタンの言葉を鵜呑みにしてはいけないがシェラタンは今まで一度も嘘をついていない。こちらが勝手に解釈をするような言い回しをしているだけで嘘も本当のことも言っていないのだ。
リーナが重くなってしまった事がハマルの能力によることは分かっている。能力を使っている兆候が見られなかったのに発動されたことが疑問なのだ。
「助かるよ。ベラベラと喋ってくれてな」
「まずアーティファクトが重くなったのはハマルの能力です。簡単に言うと武器をぶつけ合うごとに対象の重さを変化できるのです。例えば先ほどは10合ほど打ち合いましたよね?相手にもよりますが10合打ち合った分相手の重さを変えられるのです」
「てっきり浮かせる能力かと思ってたよ。お前が飛んでたからな」
「それもハマルの魔法ですね。言ったでしょう?ものの重さを変えられると」
シェラタンは物の重さを変えられる魔法を使って中に浮かぶようにしていたのだ。俺たちの予想が間違ってはいなかったが当たっているとも言えなかった。
目の前に来るほどに近寄って自分の能力を説明してくる辺り、俺たちに負けるとは微塵も思っておらず余裕をが張り付いたような笑みでこちらを見ながら説明をしてくる。
「ロージスくん達と相性がいいというのは重さを変えられることにあるのです」
今の説明だけならば俺たちが剣で切って燃やしてしまえば意味をなさない。何合も剣を合わせる必要がある以上、一撃で決める俺達と相性がいいとは言えなかった。
「貴方達の相手を燃やす剣は恐らく、剣を振るわなければ出すことができない。つまり剣を振れないほど重くしてしまえばそれだけで何もできなくなるのです」
ちゃんとクリスは死んでます。
生き返りません。




