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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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その武器に何を思う〜シルキー・ヒーレン(5)〜

「ク――」


「待って、シル、キー。大きな声を、出しちゃ駄目」


 クリスはそう言って魔獣に手をかざした。クリスの手からは淡い光が発せられる。シルキーにはそれが回復魔法ということが分かった。

 その回復魔法は魔獣の負っていた傷を癒した。シルキーは牙によって胴体を貫かれたまま魔獣の傷を治したのだ。


 痛みが消えたことにより、魔獣の荒々しさは鳴りを潜めた。牙に付着している異物感が気になったのか、思いっきり顔を揺らしてクリスから牙を抜く。その勢いのままクリスは地面に叩きつけられるように投げ捨てられた。

 満足したかのように魔獣はゆっくりと去っていく。シルキーとクリスにはもう用がなくなったかのように。


 道には土ぼこりに塗れたシルキーと、胴体に穴が空いたまま横たわっているクリスだけが取り残された。

 

「クリスちゃん、大丈夫っ?」


「シルキー、だいじょうぶ、なわけ、ないでしょ」


 クリスは脂汗を垂らしながら笑顔でシルキーに答える。


「クリスちゃん、回復魔法!自分にかけて!」


「じぶんには、回復魔法、かけ、られない、の」


 クリスは言っていた。回復魔法は自分自身には使うことが出来ないと。

 そしてシルキーも回復魔法など使えるわけもなく、普通の治療でクリスの傷が治るようには到底思えなかった。


「ど、どうしよう」


「ねえ、シルキー」


 息も絶え絶えな声でクリスはシルキーに話しかける。少しだけ腕を浮かせてきたクリスの手をシルキーはしっかりと掴んだ。


「何っ?私になにができるの?」


「契約、しよっか」


 シルキーが兼ねてより望んでいたクリスとの契約。アーティファクトと契約者が繋がり合うことでアーティファクトは武器になる。


「(私はこのままじゃ死ぬ。せめてシルキーと契約して武器になれば生き永らえることが出来るかもそれない。それに私と契約したらシルキーは王都で勉強することが出来る。私の命、シルキーの未来に託すよ)」


 クリスは自分が徐々に死にゆく事を実感していた。アーティファクトは人間のまま死ねば人間の死体となる。武器のまま壊されれば武器の残骸となる。死にかけている自分が武器化した時何が起こるか分からないが、死ななければどうとでもなる。


「契約?それをすればクリスちゃんは助かるの?」


「分からない。でも、試してみないと、何もはじまら、ないよ」


 悩み込んでいる時間はないと察したのか、シルキーは二つ返事で契約することを了承した。


「私が武器化したら、もう元には戻らない。次戻る時は、回復魔法を、使える人を見つ、けてからにしてね」


「分かったからっ。もう喋らないで早く契約っ」


 段々とクリスが握る手に力が籠らなくなっているのをシルキーは感じていた。声も徐々に小さくなっている。


「わたしが言う、あとに、同じ言葉を、つなげて」


「うん」


 少しだけクリスは息を吸った。

 シルキーはクリスの口元に注視して言葉を持つ。


 そしてクリスが発した言葉をシルキーも口にする。


「「生まれる時は選べぬ。死する時も選べぬ」」


「「それは幾年続く生命の連鎖。変わらぬ輪廻に準ずること」」


「「我、他者の道により絶えることを許さず」」


「「我、自身の道を歩みゆく」」


「「その道程。生者は忘却することなかれ」」


 シルキーはクリスと共に生きたいと願った。

 クリスはシルキーと共に生きたいと願った。


『死を刈り取るメメント・モリ


 その思いは共鳴し、シルキーの手には大鎌が握られていた。


「私がきっとクリスちゃんを助けるよ」


 必ず再会できることを夢見てシルキーは1人前へと進む。

 そこには2人分の思いが乗っている。





 それから先、シルキーはクリスの残した家にひとりで住むことにした。シルキーの残した書物を読み漁り、とにかく知識を吸収していったのだ。

 クリスの部屋に入っていいものかと悩んだが、なんとなくクリスの温もりが残っているような気がして部屋の中に足を踏み入れた。


 その部屋はお世辞にも綺麗とは言えなかったがシルキーは涙が溢れそうになってしまった。散らばった本はクリスがシルキーの勉強のために使っていた物だった。

 シルキーに教えるためにクリスも勉強をしていたことが落ちている紙からわかる。どのようにシルキーに文字を教えるべきかを考えていた残滓もあった。


 自分がどれほどクリスに愛されていたかを話せなくなってから知ったのだ。話せるうちに話したかった。

 「また明日」って言って別れても次の日に会えるとは限らない。1日1日を大切にしなければいけないことを知らなかった。


「クリスちゃんには色々と教えてもらってばかりだね」


 手に持つ大鎌に語りかけるも何も返ってこない。

 大鎌になったクリスは無骨で攻撃的な見た目をしていたが、何かを傷つけることは出来なかった。その代わりに何かを癒す力があったのだ。

 クリスは大切な家族だけど武器として使うことで自分の身を守ることをシルキーは考えていた。手始めに森にいるウサギを狩ろうとしたがいくらクリスで攻撃でもウサギは無傷だったのだ。逆に既に傷ついたウサギを狩ろうとして大鎌を奮ったところ、そのウサギの傷は回復して元気一杯に逃げていったのだ。


「(優しい力だなあ。クリスちゃん、そのままの力)」


 相手を傷つけず、癒やすことだけをするその大鎌の力にシルキーは自分の無すべきことを明確にしていったのだ。


「クリスちゃんと再開した時に、「クリスちゃんと一緒に色んな人を治したよ」って言えるように私も色んな人を治療したい」


 そんな思いを胸に抱いて、15の歳にサンドラ国立学園の地を踏んだ。

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