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覚悟

 気が付いたら寝てしまっていた。朝ではなく、まだ日も昇っていない。部屋から出て廊下をみても使用人は誰一人としておらず、灯りが多少ついているのみだった。

 それは牢屋の道を思い出す。


「何をビビってるんだ俺は」


 何故か部屋にまた戻り、扉を閉めてその扉に背を預けるようにして足から崩れ落ちた。

 寝たことによって思考が冷静になる。

 今もリーナのことは不気味、家族からどう思われているのかも考えるだけで震える。


「それでもリーナに惚れちゃったんだよな……」


 見た目だけしか知らない時に一目惚れしてしまった。性格はよく知らないが結構きつい性格をしていることも分かる。かと思えば変な言葉をかけてきた。正直何から何まで分からない。その存在さえも。


「最初を思い出せ。俺はリーナを助けるためにあの場所に入ったんだ。そしてリーナに格好をつけてリーナを守ろうとした。今の俺はリーナに守られているし、格好悪い所しか見せていない」


「人を殺した。それは事実だ。でも俺が殺した訳でもリーナが殺した訳でもない。2人で殺した。この事実から目を背けてはいけない。ちゃんと伝えないと。兄貴にも、親父にも」


「俺の弱さが招いたことだ。まだ怖いけど俺がなんとか覚悟を決めないと」


 覚悟というほど大層なものではない。ただ、自分の足で立ち上がるだけなのだ。今年からは学園にも通う。いざとなれば逃げてしまえばいい。逃げることはそれを選ぶ選択肢の1つだ。何かを自分で決めさえすればいい。


 部屋を出る。いつも通る家の廊下だ。そこには、牢屋もなければ死体もない。


「俺は、弱いな」


 廊下を進み先ほどまで話し合っていた客間へ行く。この時間に誰もいるはずがないが、自分の覚悟のためこの場所に来たかったのだ。先ほどは恐怖によって何も出来なかった場所にもう一度来ることで自分との折り合いをつけようとした。

 扉を開ける前に一度深呼吸をして心を落ち着かせる。そして俺は扉を開いた。



「ロージス!?本当に来た……」


「言ったでしょ。ロージスが来るって」

 

 部屋の中は電気がついており、ラフな格好をした兄貴と親父、そしてリーナが座っていた。


「みんな、何で?こんな時間に……」


「いや、リーナさんがロージスが大切な話をするから集まってほしいって」


「私もそれで呼ばれたのだ。昨日の書類作成をしていたから息抜きにちょうどよかった」


「ロージス。早く座って」


 未だに状況が掴めていないが、この3人を前にしても僕の覚悟は揺らいでは居なかった。


「それで話って何だ?」


 親父が話しかける。いつもと変わらない態度。いや、何時もよりも少しだけ俺に寄り添ってくれているように感じる。

 兄貴の方を見ても、俺が話し出すのをゆっくり待っているように見えた。

 もしかしたら先ほどの話し合いも俺が感じていたほどには怖い雰囲気ではなかったのかもしれない。


「実は、犯人を殺したのは俺なんだ。俺がリーナを使って殺した。勿論、無抵抗な相手を殺した訳じゃない。正当防衛だった。俺が殺されそうになったから、生き残るにはそれしか無くて」


 言い訳がましい伝え方になってしまったが、本当に殺すつもりなどなかった。戦っている最中にはそんな事を考える余裕もなかった。

 俺の告白に対して親父も兄貴も「そうか」と言うだけだった。


「それだけ?」


「なんとなく知っていた。リーナさんがアーティファクトと聞いた時は驚いたがアーティファクトは1人では何も出来ん。契約者が居て初めて武器となれるのだ」


「そしてあの場所にいたのはリーナさんとロージスだけ。そういう事なんだよ。さっきはそのことを聞きたかったんだけどロージスが大分窶れてたからね」


「殺した奴のことは気にするなとは言わない。ただ人を殺してしまった恐怖を忘れるな。それを忘れなければ同じ過ちは繰り返さん」


 家族の温かさに泣いてしまいそうになる。リーナさんに手を握られた時のような温かさを心で感じた。俺が殺した事は知られていた。それに関して家族が俺に何かをすることはなかった。動揺し、全てに疑心暗鬼になっていただけだった。


 それでも人を殺してしまった感覚だけは忘れられないし、忘れようとも思わない。同じような恐怖を味わうことが二度とないように。


「リーナさん。よくロージスが来るって分かったね。予め話したりしてたの?」


 話してなどいない。リーナが最後に部屋に来た時だって俺は声を押し殺して布団を被っていた。それにここに来るのも突発的に決めたことであってそれを予め分かることなどできるはずもない。

 リーナの方を向く。リーナは動く素振りも見せずに此方を見つめていた。いつから見ていたのか分からないが、やはり綺麗な顔をしている。

 目が合うと作り笑いのように微笑んだ。


「分かる。だって契約者だから」


「それにしてもロージス。先程までとは顔つきが違う。なにか思うところでもあったか?」


 親父は俺のことをよく見ていたらしい。


「1回寝て起きたら頭がスッキリして、自分で整理することが出来た。色々とあったけど怖さは無くなった。だから立ち上がれた」


「そうか」


 親父はその一言だけを告げ、また黙った。


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