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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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その武器に何を思う〜シルキー・ヒーレン(2)〜

 笑ったままのクリスはゆっくりとシルキーに近寄ってくる。

 笑顔の大人が近寄ってくるなど子供であるシルキーにとっては恐怖でしか無かった。ぎゅっと目を瞑り恐怖が過ぎ去っていくのを待つだけだったのだが、その目は驚きとともに開かれるのだった。

 クリスが行ったのは自分の手をシルキーの頭の上に乗せてくしゃくしゃと撫で回すことだった。シルキーにはその行動の意味が分からなかった。同じようなことは村にいる大人が家畜にやっているのをみたことがあったがシルキーは家畜ではない。


「なにしてるの?私は家畜じゃないよ」


「ああ。ごめんごめん。可愛くってね」


 シルキーは自分の容姿など見たこともないためただ戸惑うばかりだった。


「怪我を治してくれたのはありがと。それであなたは魔女様なの?」


 行動に誤魔化されることなくシルキーはクリスに問う。


「その前に自己紹介をしようか。お互いに名前を呼べないと困るでしょ?」


 シルキーは戸惑っていた。これほどの時間、人が自分に注視してくれることに慣れていなかったのだ。昔のことは昔のことで、今生きている自分は誰からも浮いていることを自覚していた。そんな自分との会話を続けようとしてくれるクリスに対して戸惑いと同時に興味も浮かんでいた。


「私の名前はシルキー・ヒーレン。森の手前にある村に住んでるの」


「シルキーね。私の名前はクリス・イクリール。気軽にクリスちゃんって呼んでね」


 村人から魔女と呼ばれていたが目の前の女性は魔女と言う名前ではなくシルキーと同じように名前があった。シルキーはどうして村人からクリスが魔女と呼ばれているのかが気になってしまう。子供は好奇心旺盛で興味のあることを知りたくて溜まらない生き物なのだ。


「どうしてクリスちゃんは村の人から魔女って呼ばれてるの?」


「本当にクリスちゃんって呼んでくれるんだ……。魔女か。そうだね、人っていうのは自分が理解できない事をする人のことを別の存在として扱いたがるんだよ。村の人は魔法を使えない。だから魔法を使える私のことを気味悪がって魔女って呼んでいる。それだけのことだよ」


 クリスが何を言っているのか難しくてシルキーには理解できなかった。物に関しての知識は村の子供の中でも一番詳しかったが、人と会話をすることがなかったシルキーは会話の中から情報を理解する能力に欠けていたのだ。

 内容が分からなかったシルキーもクリスの言っている言葉で興味がそそられる一言があった。意味など分からなかったが何故か引っかかったのだ。


「クリスちゃん。魔法って何?」


「そうか、シルキーは魔法も知らないんだね」


 シルキーは馬鹿にされたと思い、頬を膨らませて不機嫌を表に出す。


「ごめんね。馬鹿にしたわけじゃなくて村の外だと小さい子供でも知ってるから知らないんだってただ思っただけ。教えてあげるから機嫌直して」


 再び頭を撫でられる。シルキーは拒否をすることはしなかった。頭を撫でられるとふわっと体の力が抜けて気持ちが良かった。


「魔法って言うのを説明するのは難しいんだけど、さっきシルキーの怪我を治した力みたいなものかな」


「不思議な力?」


「そうそう。私は人のことを治せる力があるの。アーティファクトっていうのもあってね」


 またひとつシルキーにとって聞いた事がない言葉をクリスが言った。


「アーティファクトって何?」


 クリスはハッとした表情を見せる。そしてシルキーと同じ目線になるように屈み込んだ。


「私がアーティファクトっていうことは誰にも言っちゃいけないよ。親にも友達にも言っちゃ駄目。約束できる?」


「うん。私親も友達もいないから約束できる」


「そっか」


 シルキーがそう伝えるとクリスは悲しそうな顔をした。シルキーには何故そんな顔をするのか理解できなかった。シルキー自身が辛いと思ったことはあってもクリスにとっては関係のないことでそんな顔をする理由なんて無いはずだ。


「それじゃ私と友達になろう。シルキーは友達との約束として私のことを他の人に話さないっていうのはどうかな」


「友達?友達って何?」


 今日は知らない言葉をたくさん聞く日だとシルキーは思った。人と話さないだけで知識というのは狭まっていくことも感じていた。話せる大人はクリスのみなのでもっと一杯話したい、そんな風にシルキーは考えていたのだ。


「友達っていうのは、そうだなあ。嬉しい時には一緒に喜んでくれて、悲しい時には一緒にいてくれる、そんな人のことを言うんだよ」


「んー、よく分からない」


「そのうちシルキーにも分かるさ。もし機会に恵まれたらここを飛び出して世界を見に行きなよ。友達が沢山できるかも知れないよ」


「考えとく」


「今はそれでいい。私もこんな風に人と話すのは数年ぶりで舞い上がっちゃってるんだ」


「それでアーティファクトって何?」


 シルキーは訳の分からないことをつらつらと喋り続けるクリスに対して聞きたいことを直球に聞く。それに対してクリスは怒るでもなく、カラカラと笑いながら椅子を持ってきてシルキーの前に座った。


「アーティファクトっていうのは感情を持った武器のこと。武器っていうのは戦うための道具だね」


「それは知ってる。でも武器って物だよね?喋ってるの見たことがないよ」


「普通はそうなんだけど私のように武器になれる人?みたいなものが世の中には存在しているんだ」


 クリスの話を聞いてもシルキーには信じられなかった。目の前で座って話している人は何処からどう見ても人間で戦いのための道具には見えなかったからだ。


「見せて」


「ん?」


「クリスちゃんが武器になってるところを見せて」


 信じられなかったシルキーは当たり前のようにクリスが武器になっている姿をみたいと伝える。クリスは申し訳なさそうに頬を掻きながら答えた。


「難しい話かもしれないけど契約っていうのが必要なの。それをしないと武器にはなれない」


「それじゃ契約しよ。私と」


「そういう簡単なものじゃないんだ。もっと互いに仲良しにならないと契約っていうのは出来ないんだよ」


「仲良しになれば出来るの?」


 シルキーの興味は魔女などではなく、アーティファクトであるクリスの方へと向いていた。自分の知らない世界の話をしてくれるクリスに対して興味津々になり、更に色々知り無いと思っている。

 クリスと仲良しになるということは沢山一緒にいられるということ。シルキーが知らないことを沢山教えてくれる人がいることにシルキーの心は踊りだしそうなくらい高鳴っていた。


「あ、いや、それは言葉の綾で」


「私、クリスちゃんと仲良しになりたい。だから毎日ここに来るね」


 シルキーのその言葉にクリスが頭を抱えてしまったのは言うまでもなかった。

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