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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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今再び

「私とクリスちゃんのお話、ですか?」


 シェラタンの口から出た言葉は信じられないものだった。アーティファクトを毛嫌いしていたはずのシェラタンがシルキーたちの話を聞きたいとは思えない。

 だが時間稼ぎをしているようにも見えない。何が目的でその提案をしてきたのか全く分からず恐怖が勝る。それはシルキーも同じだったのか、シェラタンの言葉をそのまま言い返した後、何かを語ることが出来なくなっていた。


「そうです。きっとあなた方の間には契約足り得る物があったのだと思います。アーティファクトと契約者は互いに思いが繋がり合わないと契約できません」


「それを知ってどうするんだよ」


「私の所属する組織――ご存じの通りクリエイトというのですがアーティファクトを破壊することに重きを置きすぎて感情というものには目を向けません。人にはそれぞれの人生がありストーリーがある。そこにアーティファクトという異物でも関わっているのなら人の一部なのです。その人が感情を動かされる出来事にアーティファクトが関わっているのならその話を聞きたい、それだけですよ」


 ただの興味本位で聞いているだけだった。シェラタンは人間というものを大切にしており、対照的にアーティファクトというものを酷く汚らわしいものとして見ている。

 今もアーティファクトの話を聞きたいと言うよりもアーティファクトが関わってどうなったかというシルキーの話を聞きたいように思える。


「ロージスさん」


 今度はヘイルから俺に耳打ちがあった。


「なんだ?」


「あのシェラタンという男の近くにいるのがアーティファクトのハマルという子で間違いないですか?」


「ああ。それがどうかしたか?」


「いえ、どうしてシェラタンと契約できたのかなと思いまして」


 ヘイルの指摘は至極真っ当なものだった。アーティファクトを壊す組織にいるアーティファクトは自分が破壊される可能性もあるが契約者に付き従っている。ヘイルにはそれが疑問なのだ。

 シェラタンがハマルに非道なことを行い生きたいと思わせたことで無理やり自分の生きたいという思いと繫ぎ合わせて契約したと説明するのは簡単だがこの場ですぐに理解してもらえるとも思えなかった。


「すまん。それは後で必ず話す。今はシルキーが心配だ」


「そうですよね。すみません」


 ヘイルは食い下がること無く潔く引いていった。ヘイルもクリスを助け出すのに協力してくれる程度にはシルキーに対して思うことがあるのだ。


「シルキーさん、話してくれないのですか?私は約束通りクリスさんを返すのに?そちらは私のお願い事を聞いてくれないのですか?」


 勝手に盗っておいて返すことを交渉材料にしようとする辺り、精魂が腐っているとしか思えない。自分が譲歩しているような語り口も反吐が出る。この場では正しいのは俺たちのはずなのに、場の空気を支配しているのはシェラタンだった。


「は、話します。話しますからクリスちゃんには何もしないでください」


「大丈夫ですよ。何かをすることはありません」


 怖がって震えていたはずのシルキーは俺の背中から出てくる。1歩、また1歩と前に出てシェラタンと対峙した。距離はまだまだ離れているというのに足の震えは止まっておらず、自分の行動によってクリスがどうなるか決まってしまうという恐怖と必死に戦っていた。

 シルキーも気付いているのだ。人間である自分にシェラタンは危害を加えてこない。危害を加えるとすれば契約をしているアーティファクトだと。


「え、と、私とクリスちゃんは同じところで育ったんです」


 俺達も初めて聞くシルキーとクリスの話。

 俺たちを信用して、シルキーが自分から話してくれるのが理想だった。脅されて、話す他無くなってしまう状況で聞きたくはなかった。


「色々あって私は村で浮いていて、クリスちゃんが私の面倒を見てくれました。クリスちゃんもムラのはずれにひとりで住んでいたので」


 シルキーの面倒を見ていたということは昔のクリスは人間体を取ることが出来ていたということ。今のクリスは武器化したままで人間に戻ることはない。過去に何かあったのだ。


「ある日、私が怪我をしてしまった時にクリスちゃんが傷を癒してくれて、その時にクリスちゃんがアーティファクトということを知りました」


「クリスというアーティファクトは自分を隠して生活していたんですね。人畜無害そうな顔をしながら人を騙して」


 捉え方ひとつでこうも印象が変わるものか。子供であるシルキーに言わなかったということを騙していると決めつけるのは、シェラタンがアーティファクトに対して恨みに近い感情を持っているからだろう。必死に話すシルキーを嘲るような物言いに俺の拳にも力が入る。


「騙してなんていません。クリスちゃんは自分の力をあまり使うことはしませんでした。私が怪我をしたから使ってくれただけです」


 シルキーも我慢ならなかったのかシェラタンの言葉に食ってかかった。「それはすみませんでした」と薄笑いを浮かべながら返してくるシェラタンは反省しているようには見えない。


「そこから仲良くなって、私たちは契約したんです。村で浮いていた私と村のはずれに住んでいたクリスちゃんは互いにひとりでした。私の将来を案じてアーティファクトの契約者になれば学園にも特例で通えるので」


 シルキーが学園内の寮に居なかったのは大鎌を他の生徒が怖がるという理由なのは納得していた。そして宿ぐらしを出来ているのは両親からの仕送りか何かだと思っていた。学園に特例で入ったからこそ受けられる援助のひとつなのかもしれない。

 話を聞く限りではシルキーの両親は出てこなかった。既にいなかったのか何らかの理由で話せないのか分からないが両親からの支援はないのだろう。

 クリスは村でひとりぼっちのシルキーの事を案じて学園に通うことができるように契約をしてくれた。どうして武器化から戻ることが出来ないのかは未だに分からないが、それがアーティファクトとしての性質の可能性もある。


「なんと、アーティファクトが人の身を案じることがあるのですか」


 態とらしく驚いて反応を示すシェラタンは道化のよう。


「はい。私はクリスちゃんに助けられました。だから今度は私が助ける番なんです」


 足は未だに震えている。だがシルキーの声は芯が通っており、音のないこの空間に響き渡った。

 すると、シェラタンが急に目元を押さえて嗚咽を上げて泣き始めてしまった。


「私は今まで、アーティファクトが人間に危害を加えると言われてこの活動をしてきました。アーティファクトが人間のためを思って行動するなんて聞いたことも考えもしたこともありませんでした」


 涙を流しながらシェラタンは語る。


「私は自分の行動がすべて間違っているとは思いません。ですが、貴方達のような本当に心を通わせたアーティファクトと契約者がいる事を早く知っていれば共生の道を選べてかもしれません」


 シルキーの話しはシェラタンにとっては衝撃的だったようだ。今までアーティファクトの力に溺れた契約者しか見てこなかったのかもしれない。悪い面だけを見ていたのならばアーティファクトを危険なものと決めつけるのもおかしいことでなかった。


「あなたの大切なアーティファクトを攫ってしまって申し訳ありませんでした」


「いえ、返していただければ」


「当たり前です。あなたたちは私が今まで見てきた契約者とは違う人間として尊いものです。――私を警戒している人がいるので投げ渡す形でもよろしいですか?」


 警戒している人とは俺たちのことを指しているのだろう。シェラタンからは戦闘の意思が見られないが今も用心をし続けている。

 シェラタンはガラクタの影から大鎌を両手で取り出した。「いきますよ。受け取ってください」とシルキーに声をかけた。

 1日も経っていないのだが常にクリスと一緒にいたシルキーにとっては離れていた時間はとても長く感じたのだろう。強張った顔は緩み、笑顔を見せていた。


 そしてシェラタンは大鎌を投げ渡す。


 落下地点に駆け寄ったシルキーはしっかりと両手でクリスを受け取った。


 俺たちはシェラタンがクリスをすんなりと返したことに驚いたが、シルキーの反応を見るに偽物などではなく本物のシルキーのようだ。ここから先、どのように動いてシェラタンから逃げ出そう。先にシルキーを逃がしたほうがいいかもしれないが伏兵の可能性がある以上、ひとりで行動させるのも危険だ。


 シルキーは久々に会ったクリスをしっかりと握っている。後ろからはシルキーの背中しか見えないが、肩口からは特徴的な大鎌が見えていた。


 カランッという乾いた音がこの空間に響き渡る。石でできた部屋に何かが落ちる音。

 それはシルキーの足音から鳴っていた。


 今もシルキーはクリスを握りしめている。大鎌の先端が俺からも見えている。それなのに――


 何故か地面にはクリスの持ち手が転がっていた。


ばいばい

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