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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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話ができない

 地下へと続く階段を只管に進んでいく。響くのは俺達が石を踏む音が反響するものだけ。警戒心からか誰も言葉を発することはない。

 僅かな明かりは壁に備え付けられている小さな火のみ。使われていない場所なら火を灯す必要もないため、この先にシェラタンがいることは確実だろう。

 階段は急ではなく、緩やかに下っており、店から遠く離れた地下へと向かわされていることが分かる。隠れ場所がバレないように考えられているのだ。


 暫しの間歩き続けて薄暗闇に目が慣れた頃、目の前に大きな明かりが見えた。遠くからでも分かる明かりの灯された空間。恐らくここが俺達が目的にしていた場所。


「多分あそこにシェラタンがいるはずだ」


「うん」


「昨日はシェラタン以外のクリエイトもいたから何処かから狙っているかもしれない。警戒はしておいてくれ」


「分かりました」


 大きな空間にたどり着くと暗闇に慣れた目が眩しさで開けることを拒んでいる。徐々に辺りが見えるようになれば、そこにはガラクタの山が置かれていた。木材だったり鉄屑だったりが散乱しており、人がいるようにも思えない。クリエイトの隠れ家なので散らばっている物がアーティファクトかと身構えたが武器のようなものは落ちておらず杞憂に終わった。

 

「お、来ましたか。思ったよりも早かったですね」


 積み上げられたガラクタの影から声がする。昨日も聞いた不快極まりない声の正体は姿を見なくても分かる。


「シェラタン」


「名前を覚えて貰って光栄ですね」


「そんな事はいい。俺達は来たんだクリスを返してもらう」


 シェラタンの事を信じているわけではないが手紙に従う以上、俺達が来ればクリスを解放するはずなのだ。少なくとも俺達がここに来た時にはまだクリスが無事である可能性が高く、取り戻すなら今しかない。

 シルキーは決意のこもったまなざしをしているが、心は恐怖を隠すことが出来ずに体に表れている。音が鳴りそうなほど足を震わせているが自分の足でしっかりと立ち、声の聞こえた方向を睨みつけていた。


「早くクリスちゃんを返してください」


「……クリスというのは大鎌の名前ですか?」


「そうです。ここまでロージスくんたちを連れてきたら返してくれるって」


「まあ、そんなに焦らないでください。大鎌は必ずお返ししますよ。少しお話をしましょう」


 シェラタンはガラクタの影から姿を現した。その近くにはハマルの姿も見える。

 俺たちの警戒を見て、姿を表して以降はこちらへと近づいてくることはなかった。一定間隔を保たれた距離。地下にあるこの場所には何の音も響いていない。


「ヘイル」


 俺は小声でヘイルに耳打ちする。


「なんでしょう」


「話したと思うがあいつは異常だ。俺から聞くのと対峙して話すのでは感じるものが違うと思う」


「話が通じないことは聞いてますが」


「通じないなんてもんじゃない。俺とシルキー以外は話すことも出来ない」


 シェラタンはアーティファクトからの声に耳を傾けない。近くにいるハマルは声帯を潰されており、話すことも出来ないのだ。助け出したあとはクリスの能力で治療をしてあげたい。そのためにも安全に第一の目標になっているクリスの奪還を成功させなければならない。


「話をするってなんだよ」


「そんなに殺気ってないでください。もう対峙してしまった以上、私からは何もしませんよ」


 クリスを誘拐して、それを餌に誘出だされて殺気立たないわけがない。此方は既に被害を受けているし、アーティファクトを破壊する組織は俺達にとって紛うこと無く敵なのだ。

 何がきっかけとなりリーナとヘイル、そしてクリスに攻撃を仕掛けるか分からない状況で呑気にできるわけがなかった。少しでもシェラタンのペースを乱して隙を作らなければいけない。


「1週間後って言っていたのに1日で仕掛けてきたやつの言うことを信じられるわけがないだろ」


「私がロージスさんと顔を合わせるのは1週間後にするつもりでしたよ。そこの少女がロージスさんを連れてきたから顔を合わせただけです」


「だって手紙に……」


 見せてもらった手紙には俺たちを連れてこいと書かれていた。それを見たアーティファクトの契約者がどのような反応を示すかなど考えなくても分かるはずなのだ。


「書きましたよ。でもロージスさんを連れてきたのはあなたの意思。私は自分からロージスさんに会いに行ったのではなくロージスさんが自ら私に会いに来たのです。言ったことを違えてはいません」


 シェラタンは屁理屈を並べて自分を正当化している。王国の制度ではアーティファクトを傷つけること自体が罪になるのだがクリエイトはそれを分かっていながら自分が正しいと信じている異常者の確信犯だ。

 今だって自分が悪いのではなく連れてきたシルキーに責任転嫁をしている。自分は文字を書いて手紙を置いただけで行動をしたシルキーが悪いのだと。


「屁理屈じゃないですか」


「私の言うことを屁理屈だと断ずるなら、そちらの言い分も私からしたら屁理屈ですよ。困りましたね。話が平行線になってしまいました」


 手元にクリスが戻ってこないと安心ができない。シェラタンが快く返してくれるとは思わないが話を聞くことで返ってくる可能性に賭けたいのだ。シェラタンは必ずクリスを返すと言っていた。嘘を付いている可能性は高いがそれと同時にクリスにはまだ何もしていないという裏が取れた。


「リーナ、ヘイル。どこにクリスがあるか分かるか?」


 アーティファクトは他のアーティファクトの気配を感じ取ることができる。その能力を使って大まかな位置が分かれば此方の攻め手にもなる。


「ごめん。私には分からない」


「私にも分かりませんね。クリエイトという組織のことは分からないので仮説になりますがアーティファクトの能力を阻害する何かがあるのではないですか?」


 クリエイトが独自の技術を持っている可能性は考えたことがなかった。アーティファクトを破壊するという事にだけ目を向けていた自分の視野の狭さを思い知る。

 ヘイルの言う通り、アーティファクトを破壊するための何かを持っていてもおかしくはない。それこそ自分のアーティファクトの気配を消すことが出来れば普通の人として不意打ちをすることもできる。


 現状クリスの気配を感じ取ることができないため、シェラタンの話に乗るしか無かった。


「シェラタン、お前の話したいことってなんだよ」


「ロージスさんと言うよりもそこの少女に聞きたいんですよ。そちらのお嬢さん、お名前は?」


 丁寧に聞いてくるシェラタンに対し、少し移動して俺の背中でシェラタンの視線を遮りながらシルキーは答える。


「シルキーです」


「そうですか。ではシルキーさん。貴方とアーティファクトのお話を聞かせてはもらえませんか?」

この後物語が大きく動きます。

物語がというよりもロージスくんの精神性です。


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