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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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自分勝手な強さ

「本当に大丈夫なんでしょうか。宿に泊まってても」


 こちらを見つめて不安そうに質問をしてくるシルキー。急に襲われてしまった事で不安がっている。俺たちも側に居てあげたいが時間も時間だし帰ることにする。

 1週間後に方を付けるつもりとはいえ、その間の安全性の確保は難しい。学園に戻ったらエリスさんに相談して部屋を貸してもらえないか頼むつもりだ。最低でも夏休みが終わるまでの間は学園内で寝泊まりをするほうが安全性は高いだろう。


「帰ったら寮母さんにシルキーが来れないか頼んでみるよ。俺のとこの寮母さんからなら女子寮の寮母さんにも話が通しやすいと思うし」


 リーナは女子寮の寮母さんと話したことが殆どないらしい。当たり前のように避けられており、話しかけられても嫌な顔を去れるだけなのでちゃんとした用事がない場合は目を合わせることもしない。エリスさんは最低限のことをしてはくれていたので女子寮の寮母さんは仕事に忠実というわけではなさそうだ。


「き、今日は大丈夫なんでしょうか」


「来るのは1週間後って言ってたからな。一応明日は迎えに来るから俺達が来るまで宿から出ないで待っていてくれ」


 昼間でも人通りが少ない場所を通るのは危険かもしれない。ヘイルには断りをいれてからシルキーを迎えに来ることにする。


「分かりました」


「当然だが戸締まりはしっかりして宿から出るなよ?」


「私の部屋は宿の3階ですし、外から入ってくるということは出来ないと思いますけど。一応戸締まりはしておきます」


「シルキー、気を付けてね」


「はい」

 

 宿の中に入っていくシルキーをしっかりと見届けて、扉が閉まったのを確認してから俺達も帰路につく。先程のことがあったため、帰り道も気を抜くことは出来ない。いつ襲われるか分からないのだ。

 シェラタンは1週間後と言っていたが、クリエイトの他のメンバーが襲ってこないとは限らない。アーティファクトを連れているという情報を得られたためリーナには何時も以上に気をつけてもらう。


「クリエイトに会っちまったな」


「夏休み、何もなければよかったのにね」


「路地裏でエミリアを逃がした事が発端だ。俺達が自分から蒔いた種かもしれない」


「あの時は――」


 あの時の俺たちは互いのことを知らなさすぎた。リーナが俺の事を考えていることも、俺がリーナに対して劣等感に塗れていたことも分からなかったのだ。だからこそ自分たちのことで手一杯になりエミリアを見逃した。


「あの時の事はいい。それよりもこれから先のことだ」


 過去は過去。その時のことについては話し合って折り合いをつけた。考えなければならないのはこれから先のことだ。


「学園の中にクリエイトのスパイがいる可能性が濃厚だよな」


「バレット達の可能性は一旦除外していい?」


「ああ。そこに囚われると思考が固まっちまうからな。他の生徒の中にいると考えたほうがいいだろう。あいつが言っていたが情報は夏休み前のことだったからその生徒は夏休みには実家に帰っている可能性もある」


「誰か分からないから学園に残っている可能性もあるよね」


「……手詰まりじゃねーか」


 考えれば考えるほど分からなくなる。スパイの正体がすぐに分かるようでは諜報活動を行う者として失格だろう。シェラタンに言われるまで俺たちの事を見ていた人物が居たことにすら気が付かなかったのに正体がすぐに分かるはずがない。

 幸いなのはシェラタンが語っていたのは剣で斬ったものを燃やす力の事だけで、見えない剣の事は知らなかったようだ。俺達が誰にも言っていないのもあるが、調査自体は学園の中だけに限られているらしい。

 ソロンたちとはアーティファクトについて色々な話をしたが、その内容も知らないようだったのでソロン達がスパイの可能性は少なくなっていく。


「アーティファクトじゃないただの人間が調べているなら戦闘能力はないのかもしれない。つまり」


「気をつけるしかないってことか」


 元からクリエイトのメンバーが学園内に侵入しているのか、クリエイトから依頼を受けた学生なのか分からないが見られている以上、これまでよりも気をつけて動く必要がある。少なくとも学園内でリーナの能力を使うのは避けたほうがいいだろう。

 ヘイルだって狙われる可能性がある。明日の朝も修行があるため、クリエイトに出会ってしまった事も含めて説明をする必要がありそうだ。


「はぁ……」


 色々なことを考えて深いため息が漏れてしまう。様々なことが一夜にして起こってしまった。


「大変だったね」


 リーナの手が俺の手に触れる。その手を強く握り返してから立ち止まり、空を見上げた。

 月明かりが薄暗く道を照らしている。今まで起こった出来事を全て空から見ていた月は何の手助けもしてくれない。


「あー、戦いたくねー」


「そうだね」


 自分は武器だからと言っていたリーナは俺に同調してくれる。リーナ自身は戦いたくないとは思っても居ないだろうし、その感覚を持つこともないだろう。それでも俺の感情を察して同意してくれているのだ。


「俺さ」


「うん」


「戦いたくはないんだよ。今までの模擬戦とは違って寸止めをしてくれることもないし、勝敗が決するには誰かが傷つかないといけない。誰かを傷つけたくは無いし、俺も傷つきたくない」


 戦うことで自分が何かに慣れてしまうのが怖い。強い力を持つことで傲慢になってしまう事も、誰かを傷つけることに忌避感が無くなってしまう事も、戦うことが当たり前になってしまうことも、全てが怖いのだ。

 だからといって逃げられるものではない。アーティファクトの契約者となってしまった以上避けられない事もある。クリエイトと相対することはアーティファクトと共に生きようとするためには逃げることは出来ない。


「それは強くなるしかないよ」


「分かってるよ。リーナが過ごしやすく――」


「それは私のために強くなろうとするロージスの気持ち。そうじゃなくて」


 その言葉を聞いて俺は気づいた。俺の強くなる理由はリーナがこの世界で過ごしやすくなるためだと思っていた。それも間違いではないが、俺はリーナのために強くなると考えていた。その一方で自分のために強くなることを考えることはしてこなかった。


「ロージスは人を傷つけないように強くなる必要がある。自分が傷つかないように強くなる必要がある。強くなれば相手を傷つけずに制圧することも出来るし、相手の攻撃を受けないようにも出来る。自分の心を守るためにロージスは強くならないといけない」


 俺が強くなりたい理由は自分自身を守るため。自分勝手に聞こえるかもしれないが、強さとは誰かのためじゃなくて自分自身のため。

 ヘイルが言っていた強さとは何かという問いに今ならば答えられるような気がした。


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