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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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思考を止めるな

 敵を前にして冷静にならなくてはならない。それはヘイルとの修行で教わったこと。相手はクリエイトという俺たちからしたら紛うことなき敵対関係にある相手。

 シェラタンの言葉は胸に響くこと無く、吹き抜ける風のように俺の耳を通り抜けていく。

 

 ソロンたちが俺たちを裏切っているかのような言動をしているが、シェラタンは一言もソロンたちの名前を出していない。それにソロンとバレットは2人で行動していることが殆どのため、「見ていた人」と単数を表す言葉を使うことが不自然に感じられた。


「(ロージス。あの場に誰かいた気配は感じられなかったけど、私が感じられるのはアーティファクトの気配だけ。普通の人間の気配は分からない。多分私たちの後に入ってきたんじゃなくて先に訓練場で待機していた生徒がいたのかも)」


 俺もリーナもソロン達を疑うようなことはしたくない。全面的に信頼しているわけではないが疑いたくないことと信頼していないことは同一ではない。ほんの僅かだがソロンたちが俺たちを売った可能性も頭に入れておく必要はある。それを頭では分かっていても気持ちが追いついていかない。

 知らず知らずのうちにソロンたちのことを大切に思っていたようだ。出会いこそ悪かったとは言え、俺たちのことを考えて行動してくれたソロン達を勝手に仲間だと思っている。


 脳裏にこびりついて離れてはくれない僅かな可能性。疑っているわけではないのだが100%信じられるという確信もなかった。


「(分かってる。俺達だけで考えることじゃないし、直接ソロン達に聞けばいい。戦闘にならないようにあいつを上手く帰すことが先決だ)」


 不意打ちを警戒してリーナを武器かは戻すことはしない。


「その人にいろいろ聞きましてね。ロージスくんとアーティファクトの能力とかは知っていますよ。クリエイトというそこそこ大きな組織が君たちの情報を知ったうえで私をあてがった理由を考えてみてください」


「お前が来た理由?」


「私は人間には優しいので答えてあげましょう。簡単な話です。私とコレが君たちと相性抜群ということです」


 ジャラリという音を立てて首輪を引っ張る。ハマルは予想していなかったのか体勢を崩して転んでしまった。シェラタンはハマルを一切見ず何事も起こっていないかのように話を続けた。


「君達の切り裂いたものを燃やす剣と戦うことになっても私にとっては何の問題もないと上が判断したのです。しかし私は戦うことを良しとはしていません。ゴミを使っているとは言え、人間同士で争うなど不毛すぎるではないですか」


 身振り手振りを交え、大きな動きをしながらシェラタンは説明する。言葉の端々から不快感がこみ上げてくる。収まることはなく、シェラタンが言葉を発するたびに大きくなっていく。


「やってみなきゃわかんねぇだろ」


「やってみたら終わりなんですよ。分かった時にはもう遅い。戦闘というのは待ってはくれないんです。やってみなければ分からないというのは実戦で使う言葉ではありません。分からないのに戦闘を始めるというのは準備がなっていません。相手のことを調べ、自分が優位に立てる時こそ戦闘を仕掛ける好機なのです」


「お前が俺たちに優位だっていうなら力ずくでリーナを取りにくればいい」


「何度も言っているじゃないですか。私は争いが嫌いなのです。今日の話し合いが決裂してしまったので、そうですね。1週間後にまた顔を合わせましょう」


 二度と顔を合わせたくはないが1週間という猶予は相談をするには長過ぎるほどの時間だ。シェラタンはこちらを完全に舐めているため猶予を与えても問題ないと考えているらしい。

 1週間もあればシェラタンに対しての対策も何かしら浮かぶかもしれないし、ヘイルに相談すれば別の視点から意見を出してくれる可能性がある。


 ソロン達が学園にいれば相談をしたかもしれない。どうしてもソロンが俺達のことを売ったかもしれないという可能性が脳裏にチラついて探り探りの会話になってしまうかもしれないが、それでも話を聞きに行くだろう。

 本人たちは自分たちの家に帰っており、今すぐ直接話すことはできない。2人に合うのは夏休みが終わった後。つまり、シェラタンの言う1週間後には間に合わない。学園内にスパイのようなものがいる以上、教員にもクリエイトの手のものがいる可能性があるため頼ることもできない。

 自分たちでどうにか切り抜けるしかないのだ。


「二度と合いたくないけどな」


「それならばアーティファクトだけであってもいいんですよ」


「ふざけんな。そんなことするわけ無いだろ」


「次は交渉が上手くいくことを願っていますよ。争いは嫌いですが信念のために力を振るうのは仕方のないことなので、次会う時を楽しみにしています。それでは」


 シェラタンはその場から急について屋根の向こうへと消え去っていった。シェラタンが魔法を使った気配はしなかったので恐らくハマルの魔法だろう。アーティファクトの使う魔法は武器化した時の性質に近しいため、ハマルが武器化した時の能力の1つに物を浮かせる事があるのかもしれない。俺達に対して優位を取れる能力というのが分からないがなる様になるだろう。


 去りゆくシェラタンを見送ってからリーナの武器化を解いた。


「何となくだけどシェラタンは嘘つき」


「俺もそう思うよ。ソロン達のこともそうだ」


「まだ分からないけどバレット達が私達を売るというのは考えにくい。あの学園に在籍しているアーティファクトはそこそこいるのに私達からターゲットにするのは不自然」


「その話は幾ら続けても答えが出ないぞ。本人たちが帰ってきてから探ってみよう」


「あ、あの」


 背後から何時もよりも覇気のないシルキーの声が聞こえた。


「取り敢えず何とかなったってことでしょうか」


 一時的に脅威は去ったと考えていいだろう。少なくとも1週間は俺たちに手を出してこないと言っていたし、シルキーも安心していいだろう。

 腰が抜けているのか地面に座り込んだままクリスを強く抱えている。怖い思いをしたとしてもクリスのことを手放さない姿を見て、シルキーにとってのクリスがどれほど大事なのか分かる。シルキーのためにもシェラタンの行動を許すわけにはいかない。

 たとえ武器だとしても感情がある以上、人間と同じように扱っている俺たちにとってはただの物扱いするシェラタンは明確な敵なのだ。あいつにいいように使われているハマルのことも助けてあげたい。


「ロージス。ハマルも助けよう」


 その思いは俺だけのものではなく、武器化していないのにリーナにも伝わっていた。


「シェラタンを捕まえて国に差し出す。やっていることから考えると死罪になる可能性も高い。そうなればハマルは解放される。それが俺たちの目標でいいよな?」


 アーティファクトをシェラタンに差し出さず、シェラタンを捕らえて国に差し出すことでハマルを助ける。それが俺たちの共通認識になった。1週間の間にヘイルにも相談して成功の確実性を高めていこう。

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