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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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思い出が色褪せる

 リーナを武器化していつでも戦闘に入ることができるよう準備をしておく。相手はクリエイトという犯罪組織。殺すことはしたくないが動けなくする程度はしてしまっても構わないだろう。最悪シルキーに治してもらえばどうとでもなる。

 今、俺達がやらなければいけないことに優先順位をつけるとシルキーを無事に宿に送り届けることが先決だ。あいつの口ぶりからして狙いは俺たちで、シルキーは巻き込まれただけだろう。一般市民を襲わないというルールがあるのか分からないが宿に入りさえすれば他の客がいる手前、大きな行動は起こせないはずだ。


「戦うつもりは無いんですけど」


「じゃあ大人しく帰ってくれるのか?」


「まともな話し合いができそうにありませんし、今日の所は御暇しましょうかね」


 戦闘まで秒読みと考えていが、シェラタンは本当に戦闘をするつもりがなかったらしく撤退の意思を示していた。終始余裕のある表情をしているため、最悪戦闘になっても切り抜けられる手段があるのだろう。


「二度と来ないでくれると嬉しいんだけど」


「(私あいつ嫌い)」


「そうはいきませんよ。その手に持っているガラクタを全部壊さないと怖くて夜も寝られません」


 シェラタンにとって――いや、クリエイトにとってアーティファクトは壊すべきもの。この世界にいるアーティファクト全てを守れるなんて思っていないが、俺の手の届く範囲ではアーティファクトを壊されたくない。リーナは勿論だがクリスも傷ついて欲しくない。人型を見たことは無いが、毎日のように俺の傷を治してくれているのはシルキーとクリスなのだ。


 シェラタンは俺達がいる方向とは逆を向き、ゆっくりと歩いていった。鎖に繋がれたハマルを引っ張るようにしながら。声を上げることができないハマルはそれに従うしか無い。


「そう言えば」


 シェラタンは歩みを止めこちらを向かずに声をかけてくる。


「なんだよ。まだ用事か?」


「いえ、大したことはないんですよ。ロージスくんの持っている剣。対象を切るとそこから燃やせるらしいですね」


「な、」


 なんでシェラタンがそれを知っているんだ。俺がリーナの力を見せたのは殺人鬼を殺してしまったときと訓練場で木偶を切った時だけだ。エミリアと路地裏で一悶着起こした時にはリーナを武器化することは無く、リーナの魔法で相方を倒した。

 シェラタンがリーナの力を知っているわけがないのだ。


「なんで、お前がそれを知ってるんだよ」


 知るはずのない情報を知っている、そのことが何よりも怖い。シェラタンと相対して戦闘になるかもしれないと思った時にも恐怖が無かったわけではない。

 それよりも、俺たちのことを観察していた可能性がありそれに気が付かなかったことの方が怖い。自分では理解できない恐怖が大きくなっていく。


「なんでって諜報活動の賜物でしょうか?教えてもらったんですよ」


「は?何いってんだよお前。教えてもらうってそもそも見てるやつなんて居なかった」


「居ましたよ。見ていた人。その人から聞いたんですよ「リーナ・ローグの力は切った対象を燃やす力だ」と」


 あの訓練場には俺とリーナ、それにソロンとバレットしかいなかったはずだ。他の生徒が立ち入ることがないようにソロンが使用許可を出さなかったと言っていた。


「誰だと思います?」


 誰と聞かれても一切覚えがない。

 俺の困惑は手に持っているリーナにも伝わったらしく、俺の脳内に直接語りかけてくる声が聞こえた。


「(ロージス)」


「(なんだよ。誰か見ていた奴に心当たりとかあるのか?)」


 クリエイトはアーティファクトを破壊する組織ではあるがアーティファクトを使役している。その気配をリーナが察知していたかもしれない僅かな可能性にかけてみた。


「(それは全然。よく覚えてないから確実なことは言えないけどあの場には、私とバレット以外のアーティファクトの気配は無かったと思う)」


「(それじゃどうかしたのか?)」


「(嫌な予感がする)」


 シェラタンの言葉に惑わされているのは俺も分かっている。それでも嫌な予想が頭の中に浮かんでしまっていた。あの場にいたのは俺たちとソロン達のみ。他に誰も居なかったと言うことが何よりの事実。そしてシェラタンが俺たちの力を知っているということは。


「質問には答えてくださいよ」


「答えるまでもない。お前の口から出任せを聞いてるだけだからな」


「ロージスくん。何でもかんでも決めつけてしまうのはよくありませんよ。私のことを悪者に思っているかもしれませんが市井の者の事を考えてアーティファクトを壊しているのです。契約者である君からしたら悪者でしょう。しかし、アーティファクトという存在に恐怖するものからしたら私たちの活動は救世主なのです」


「だから、なんだよ」


 今まで顔を見せず、背中越しに語りかけてきていたシェラタンは急に首だけを俺たちの方へと向けた。その口は半月のように歪んでおり、何が楽しいのか薄気味悪い笑みを浮かべていた。


「私のことを殺したら、そういう人達から悪者扱いされてしまいますよ?」


 ヘイルと話した英雄の話を思い出す。英雄は国を救ったから英雄だが、沢山の魔族を殺している。人間からしたら英雄だが魔族からしたら悪逆非道の存在。

 俺がクリエイトの誰かを倒すことで英雄と同じような目に遭ってしまう可能性はゼロではない。自分の中の信念はアーティファクトを壊そうとしているシェラタンたちを許せないと言っているが、それと同時に誰かに石を投げられることに対する恐怖も生まれてしまった。


 リーナが生きやすい世の中にはアーティファクトが怖い人達も居て、その人達を優先するならばアーティファクトは存在しないほうがいい。共生するのはきっと不可能だ。


「まあ、いいでしょう。話を戻しましょうか」


「(ロージス、あいつの話を聞いてはダメ。碌でもないやつの顔をしてる。奴隷商人や犯罪者と同じ顔)」


 リーナは自分が受けていた迫害や忌避の目に対しては興味を持つことはないが、人を見ている。リーナに言われなくても見るからにシェラタンはまともな人間じゃない。いくらアーティファクトを憎んでいるからといって、声帯をつぶして首輪をつけて歩かせるなど正気の沙汰じゃない。


「誰が私に君たちの情報を伝えたのか知りたいんですよね」


 誰が俺たちの情報をシェラタンに伝えたのかを知ることができる。あの学園にクリエイトと繋がっていることを知ることが出来れば注意を向けることが出来る。

 それと同時にその正体を知りたくない自分もいる。それは今までの思い出が水泡に帰すような気がして。聞いてしまえば戻れないと警鐘が鳴らされている。


 そんな俺を無視してシェラタンは語りだす。


「あの場にはロージスくん達に以外に見ていた人がいたでしょう?」


 あの場には俺たち以外には2人しか居なかったはずだ。


 ソロンとバレットしか。

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