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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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空の箱

 エミリアという名前を聞いてもすぐには思いつかなかったが、その後に語られた「相棒を殺された」という言葉に当てはまる人物は1人しか浮かばなかった。

 俺達が王都に来た日、路地裏で少女を痛めつけていた2人組。リーナはアーティファクトの男を殺し、契約者の女をその場に残して立ち去った。あの女は自首することはせず、クリエイトという集団に話を持ちかけたのだ。

 

「アーティファクトを壊して人間社会を作ることを目的としている僕たちにとってアーティファクトの情報は有意義なものです。区別は付きますが居ると分かっていればそれだけ労力が掛からないですからね」


 アーティファクトは一見すると人との違いは分からない。アーティファクト同士なら分かるはずだが、アーティファクトを忌み嫌っているこいつらがアーティファクトを使うとは思えなかった。


「アーティファクトはアーティファクトじゃないと判断できない。どうやって判断してるんだよ」


「面白いことを言いますね。たしかにロージスさんの言うとおりです。ですからアーティファクトを使うんですよ」


 白いローブの男は手に持っていた鎖を強く引いた。暗闇の奥の方からひたひたと人の歩く音が聞こえる。

 靴が地面に触れる音ではなく、肌が直接触れる音。月明かりのしたで照らされたものは服とも言えないようなボロ布を身体に纏わせた小柄な少女だった。


「挨拶しろ」


 少女は何処を見ているのか分からないが白いローブの男の言うことを聞くように口を開いてパクパクと音を立てる。挨拶と言うには声になっておらず、何も聞こえてこない。


「そうでした。喋られるのが鬱陶しいので声帯を取り除いたのを忘れてました。コレの名前はハマル。ついでに僕の名前はシェラタン・メタルティム。どうぞよろしくお願いします」


 口を開いて声を出せていなかったのはハマルと呼ばれている少女の声帯を壊したからだとシェラタンは何事もないかのように語っていた。アーティファクトを壊すためにアーティファクトを使っているシェラタンにとって、ハマルはただの道具でしかないことの表れだった。


「その子――ハマルだってアーティファクトで意思があるだろ。なんでそんなこと出来るんだよ」


「安心してください。コレの心は完全に折ってあるので意思はありません。アーティファクトも生きたいと思う気持ちがあるらしく、それを少しずつ壊していったら意思を持たないただの武器になりました」


 アーティファクトには意思があり、人と同じように生に執着している。俺が今まで出会ってきたアーティファクトは良いやつも悪いやつも居たが、精一杯生きているように見えた。その意思すらも奪ってただの武器のように使うシェラタンを見て白いローブでは隠しきれないほどのおぞましいものを感じる。

 明らかに常軌を逸している奴からシルキーを逃さなければならない。幸いにもシェラタンからは戦闘の気配を感じることはないため、シルキーを逃がすことくらいは出来そうだ。


「取り敢えずシルキーを逃さないと」


 小声でリーナに伝えると、小さく首肯した。

 後ろにいるシルキーはシェラタンの言葉を聞いて顔が青ざめている。治療することが生きがいな彼女にとってアーティファクトを傷つけてぞんざいに扱うシェラタンとは相性が悪い。危険性を抜きにしても、これ以上シェラタンの言葉をシルキーに聞かせるわけにはいかない。


「おっと、ロージスくん。後ろの女の子を逃がそうとするのはお勧めしませんよ」


 俺達の行動を先読みするようにシェラタンは言い当てる。


「なんでだよ」


「僕はここにひとりで来ているわけではありません。ロージスくんたちが来た方向には別の仲間が居ます。僕ほど穏健な者ではありませんので、アーティファクトを抱えて走ってくる少女をみたら何をしでかすか……」


 シェラタンが穏健派というのならそうじゃないやつはどれだけ非道な存在か想像もできない。本当だとするのならシルキーをひとりで逃がすのは逆に危険性を高める行為となってしまう。


「そもそも戦いに来たわけじゃなくてお話をしに来ただけですよ。僕は戦闘能力が高くなくて、いわば交渉役でしょうか」


 シェラタンが此方を攻撃する素振りを微塵も見せない。それが俺の不安を一層と煽る。ソ連から聞いている情報だけでもクリエイトという集団はアーティファクトを破壊できる強さを持っている。交渉役を名乗っていてもアーティファクトと行動している以上油断はできない。


「リーナ、あいつの言うことは本当か?」


「本当。来た道にアーティファクトの気配がする」


「シルキー、もう少し待っていてくれ」


 シルキーは無言で頷く。私を置いて逃げてください、なんて馬鹿なことを言う人じゃなくて本当に良かった。治療をすることを生きがいとするシルキーが人の心を傷つけるようなことはしない。


「シェラタン」


「なんですか?ロージスくん」


「お前の交渉って何だ?聞くだけ聞いてやる」


 戦うにしろ逃げるにしろシェラタンからの要望を聞かないことには始まらない。クリエイトという組織に所属しているやつが碌でもない提案をしてくることは分かっている。

 必要があるなら戦闘を行うだけで、俺だって戦いたくない。自分が傷つくのも嫌だが人を傷つけるのも嫌なのだ。俺が強くなる理由も人を傷つけるためじゃない。


「おお!聞いてもらえますか!」


「一応な」


「大丈夫です。ロージスさんと後ろの女の子に損はさせませんよ」


 相変わらずリーナとクリスのことを勘定には入れていないみたいだ。ここに存在しているのに視界の隅にも入れない言動に腹が立ちっぱなしだ。


「早く言え」


「そう怒らないでください。夜に押しかけたのは迷惑だって分かっているんです。眠いとイライラしてしまいますよね。分かりますよ」


 神経を逆撫でするような物言い。敢えてやっているのか分からないがシェラタンの言動は俺を苛つかせる。


「ロージス、冷静に」


「分かってる」


 ヘイルとの特訓で感情で動くことは技術を鈍らせることを学んだ。特に流しの技術は観察して適切な対処を取ることを主としているため常に冷静でなければならない。


「それで提案なんですが」


 ここが分岐点。シェラタンの提案を受けるか受けないか。それによってここから何事もなく帰れるか決まる。


「リーナ・ローグと女の子の持っている大鎌をこちらに渡してさえくれれば何もしません。勿論タダでとはいいませんよ。貴方方の所有物ですし良い値で買い取ります。どうですか?」


 握りしめた拳に力が入る。

 冷静に努めようとしていても、アーティファクトを物扱いし、更には金で解決しようとする神経が許せなかった。

 

 隣にいるリーナの手を取る。俺の手がリーナの手に触れると、リーナは力強く俺の手を握り返してきた。

 ここから無事に逃げ出すにはシェラタンをどうにかしなければならないのだ。

 

 戦闘はきっと避けられない。


ちゃんと息の根止めとけよ

戦国時代から学んどけ

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