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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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十人十色

 一本道の先にいるはずの人物。確かにそこから声がしたのだが気配は全く感じられない。

 俺達がしていた会話の内容に割り込んでくる人物には心当たりがなく、怪しさがあふれている。


 コツコツと靴が地面を鳴らす音がどんどんと近づいてきた。闇夜に似つかわしくない白いローブのような服装の男が徐ろに姿を現した。

 明らかに怪しい人物を前にして呆然としていた俺よりも早くリーナはシルキーの前に出た。その姿を見てすぐに俺もシルキーを引き寄せて背中の後ろに隠す。すぐさま動かなければならなかったのだが容姿や雰囲気に気圧されてしまっていた。


「なんなんだお前」


「別に怪しいものじゃありませんよ」


「何処からどう見ても怪しいだろうが。夜に細い路地の先で待ち構えているなんて」


「心外ですね」


 ケラケラと笑っているが容姿も相まって怪しさしか感じられない。手には何かが握られているが、距離が離れているため全貌がつかめない。路地とは言え住宅が密集している場所で戦闘が起こってしまっては一大事だ。この場を切り抜けることが先決だ。

 シルキーの住んでいる所はこの路地を抜けた先にある。この路地で待ち構えていたということはシルキーに対して用があるのだろう。


「シルキーになんの用だ」


「シルキー?誰ですかそれは」


「しらばっくれるなよ。それ以外にここにいる理由があんのか?」


 深く被られたローブによって不審者の顔は分からない。俺の質問にもまじめに答えるきはないようで、シルキーを庇っている手にも力が入る。


「本当に知らないんですが……。」


 白いローブの男は肩をすくめている。上げられた手によって、握られているものが鎖ということが辛うじて見えた。先には何かが繋がっている。奴隷というものは基本的にこの国では禁止されており、連れて歩くことなど以ての外だ。連れているのが何か分からない以上警戒を強めるしか無さそうだ。

 リーナも白いローブの男の一挙手一投足を見逃さないように真剣になっている。


「寧ろ僕がここにいる理由はあなた達ですよ」


「俺達?」


「はい。ロージス・グレンバードくんにリーナ・ローグ」


 名乗っても居ない俺たちの名前を知っている白いローブの男。学園内ならまだしも、ここは学園の外。俺たちの容姿は知っていても名前まで知っている人が多いとは思えない。

 ましてや見るからに怪しい人物。そんな奴に名前を知られて要件まであると言われてしまえばその先にある戦闘を想像してしまう。


「私たちに何の用事?」


「決して危害を加えに来たわけじゃありません。ロージスくんにも後ろで庇われている女の子にも怪我なんてさせませんよ」


 優しい声色で語りかけてくるが信用できそうにない。危害を加えないなら夜の路地で待ち構えている必要なんてないのだ。俺達の行動を知ったうえで先回りしていたとするなら厄介なことこの上ない。


「なんで私たちを狙うの?」


「それにしても奇遇でした。後ろの子が持っているのもアーティファクトですよね」


 アーティファクトは珍しいものではあるが世間に紛れて生活している者もいる。バレないように人になっていることが多い中、クリスは常に武器化しているため一発でアーティファクトと見抜かれてしまった。


「ちゃんと答え――」


「さっきからうるせぇよ!武器風情が!話しかけてくんじゃねえ!」


 柔らかな物腰が豹変し、リーナに怒号をぶつける。先程から妙な違和感を感じていたが、リーナの質問には全く答えずに自分の言いたいことを言っていた。

 そして白いローブの男の口ぶりからアーティファクトに対して明らかに敵対心を持っている。シルキーと出会ったことも奇遇と言っていたが俺たちにとっては悪い方向に向かっている。


 恐らくだが、この男はクリエイトの一員だろう。


「リーナ、俺が話す。多分あいつクリエイトだ」


「分かった。戦う準備はしておく」


「頼んだ。隙を見てシルキーを逃がそう」


 シルキーを庇いながら戦うのは行動範囲や判断が狭まるため早めに逃がしておきたい。最悪、学園に戻ってヘイルを頼って貰えれば今よりは安全になるだろう。

 目の前の男は俺やシルキーには危害を加えないと言っていたがリーナに対しては何も言わなかった。人である俺達とアーティファクトであるリーナを完全に区別して考えている。クリエイトとか関係なしにあいつとは馬が合わない。


「僕の所属している組織を知っているんですね」


「ああ。アーティファクトを壊して回っている悪い奴らってな」


「心外ですよ。悪事を働いているわけではありません」


 潔白を証明するかのように深く被られていたフードを取る。中から出てきたのは何処にでもいそうなただの青年。歳の頃は同じくらいか少しだけ年上に見える。


「アーティファクトを壊してるってことは人殺しと大差ないだろ」


「いえいえ。それらは所詮武器ですよ。武器が意思を持つということ自体人間に対する冒涜です。武器は使われてこそ意味がある。自分の意思を持って使われるなど武器としての意義が無くなっているではありませんか」


「そんな理由で壊してんのか?」


「クリエイトでは色々な思惑の人が居ます。僕はまだ穏健派ですよ。こうやってちゃんと話していますし」


 白いローブの男が話しているのはあくまで俺であってリーナではない。どの口がちゃんと話していると言っているのか。

 こいつの考えは武器が人間と同等な扱いは不快だから壊していると言っているように聞こえた。アーティファクトには心がある。それを武器だからという理由だけで抑えつけようとしているのだ。


「俺はそうは思わない。アーティファクトと契約することで一緒に生きていく覚悟を決めた」


「素晴らしい。それはそれで良いんですよ。ロージスくんにもロージスくんなりの考えがあるんですから」


 あっさりと俺の意見に肯定を示してくる。からかっている様にも見えず、本心から言っているようにも聞こえない。


「それと同時に僕にも僕なりの考えがあるんです。アーティファクトが人間様と同じように生きているのが気に入らない。武器は武器らしく使われていれば良いものの意思を持つなら殺す。それだけですよ」


 根本から交わることがないことを完壁に悟った。アーティファクトを人間と同じように考えて共に生きて行こうと考えている俺と、アーティファクトは所詮武器だから意志を持つものは殺そうとするこいつとでは考えが変わらない限り平行線だ。


「それでどうして俺たちを待ち構えていた?誰から名前を聞いた?」


「確かエミリアさん?でしたかね。あなた達に相棒を殺されたとか何とかで頼まれたんですよ。人は殺せないって伝えたらアーティファクトの方だけでも殺してくれと。色々調査したらロージスくんに行き着いた。それだけですよ」


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