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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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勝った人が強い?

 ヘイルが怖い。その一言に尽きる。絞り出すような声で「リーナも呼んでいいか?」とヘイルに聞くと不思議そうに「どうぞ」と答えてくれた。ヘイルにとっては何気ない質問かもしれないが俺だけで抱え込むには大きな問題だ。

 

 英雄は人類を沢山救ったから英雄となっている。魔族側から見れば身内を沢山殺した殺人鬼に見えるかもしれないが、それでも人からすれば英雄なのだ。

 ヘイルは俺が強くなりたい理由をちゃんと説明した上で修業に付き合ってくれていると思っていたが共通理解をえられては居なかったらしい。


「ロージス、どうしたの」


「リーナ。ちょっと、やばい」


「何が?」


「説明難しいんだけど、ヘイルが俺たちの強くなりたい理由を勘違いしてたみたいで」


「勘違い?」


 今しがたこの場に来たリーナには話が理解できていなかった。いちから説明しようにも俺とリーナは強くなりたい理由が共通認識としてあるがヘイルがどのように考えているのかが分からないため説明ができない。


「俺達は強くなりたい。でも俺は人を殺したくない」


「うん。それは分かってる」


「え?そうなんですか?」


 惚けたようなヘイルの声が耳に届く。


「それなら最初にそう言ってください」


「人を殺したいから強くなる訳ないだろ」


 世の中には歪んだ目的で力をつける人もいるだろうが、少なくとも俺は違う。自分が死なないように必死だったとは言え殺人鬼のひとりを殺してしまった。その後悔が今も心のなかで燻っている。不可抗力で殺してしまっただけでも悩みくる必要な俺が自ら人を殺すための術を学ぶわけがない。


「相手がロージスさんの事を殺そうとしてきたらどうするんですか?ロージスさんが殺したくないのは分かりましたが相手もそうとは限りませんよ」


「出来る限りのことはする。本当に危険でどうしょうもなくなったらその時に考えるよ。最悪逃げる」


「私の力を使えば逃げることくらいは簡単」


 逃げることができなければ戦闘になる。殺人鬼のときはリーナのことをきちんと扱うことができなかったから殺してしまった。そのようなことが二度と起こらないためにもリーナをちゃんと使えるようになりたい。そのために修行をしているのだ。


「強くなりたいのはあくまで自衛のためと考えてもよろしいのですか?」


「ああ」


「そうですか……」


 意気揚々と近付いてきた割には期待外れだったのか少しだけ気落ちしたような表情で俺の側から去っていった。嵐のように近付いてきたヘイルはゆっくりと歩いていく。


「なんだったんだあれ」


「ヘイルもアーティファクト。自分のことを道具として認識している。武器は人を殺すための道具だから、そういう思考になっていてもおかしくない」


「リーナも前まではそうだったよな」


「うん。それにヘイルは契約者も居ないからその考えが自分の中で凝り固まってるのかも」


 アーティファクト自身は自分のことを人を殺す道具だと思っているものが多い。現にアーティファクトが武器化するだけで普通の人なら簡単に殺せてしまう。勿論、武器化をしなくても。

 リーナの中にはまだ少しだけ自分が道具だという認識が残っているだろう。完全に消すことは出来ないと分かってはいるが、俺としては自分のことを武器だと言っているアーティファクトを見ると遣る瀬無い気持ちになってしまう。

 何処からどう見ても人にしか見えないのに特殊な力を持っているだけで自分を人と感じられなくなってしまっている。俺がアーティファクトを道具として見れないからこそ、道具だと自己評価を下しているアーティファクトが悲しく見える。


「ヘイルの剣術的に殺すなんて物騒な言葉が出てくる事に驚いたわ」


「それには同意する。遠目だと分からなかったけど近くに来たらヘイルが高揚しているように見えた。訳が分からない」


「俺達、ヘイルのこと何も知らないからな」


 共に過ごす時間が長くなっているとはいえ、過ごす時間は大概修行をしている。学園内でも雑談を行うことはなく、基本的に修行内容の確認程度しか行っていない。

 俺はヘイルのことを全く知らないのだ。詮索しようとは思わないが過去も知らない。アーティファクトとしてこの学園に入る前はどのように行きていたのか。世話になった人に紹介状を書いてもらったから入学したと言っていたがそれ以上のことは聞いても居ない。

 その一歩を踏み出すことが出来ない壁がヘイルにはあるのだ。俺達はヘイルのことを知り合い以上に感じているがヘイルからはどのように思われているのか考えたこともなかった。


「今は考えても無駄。一緒に過ごす中で知っていけば良い」


「リーナはヘイルのこと信頼しているんだな」


「信頼……。どうだろう。分からないけど何となくヘイルは大丈夫な気がする」


 リーナがヘイルのことに対して肯定的な所は常に一貫している。ブレることのない評価を俺は信じるしかない。何も分からない俺に対して、何となく分かっているリーナの方が理解しているだろう。


「考えても意味ないか」


「そう。ヘイルにはヘイルの考えがあるし私たちには私たちの考え方がある」


「俺たちが強くなろうとすることには変わりないし今までどおりやっていこう」


 ヘイルが俺に何を伝えたかったのか一切分からない。ヘイルは人を殺すということに執着しているようにも見えた。しかし、ヘイルの剣術は相手の力を利用して受け流す物で攻撃的には思えない。少しだけズレていることが気になってしまう。

 リーナとは別の意味で静かなる何かを感じてしまったのだ。感情の高ぶりなども見せることは少なく、凪のような立ち振舞をするヘイルが見せた強くなる理由についての話。去り際に見せた気落ちしたような表情も分からない。俺の求める強さがヘイルの期待に添えなかったたのだろうか。


「待たせたな。修行再開しようぜ」


「分かりました」


 離れた位置で構え直したヘイルに声を掛ける。先ほどまでの会話がなかったかのようにいつも通りの風体をしており、何かの勘違いだったのかと思ってしまうほどだ。

 ひとつだけ変わったとすれば俺からのヘイルに対しての心証。当たり前のように俺の修行に付き合ってくれていることの意味がさらにわからなくなってしまった。修行中も脳裏にはヘイルの表情が浮かんでしまっていた。

 底の見えない笑み。笑っているのに、何に笑っているのか。

 今は信用をして剣を合わせることしか出来ないのだ。


そろそろ始まります。ロージスくんの苦悩ターンが

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