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経過

 その日から幾度もの朝を迎え、学園での授業を受け、放課後には修行をし、保健室へと向かって治療をしてもらう生活が繰り返された。

 案の定初日の保健室のことをリーナに伝えたところ、次の日からは一緒についてくることになった。やはりヘイルだけが特別みたいだ。

 そのヘイルも毎日のように俺の修行に付き合ってくれている。ヘイルにとっては得なことなどないはずだが律儀に放課後には寮の裏の森へと集まっている。一度だけ何故修行を手伝ってくれるのかを聞いたことがあったがはぐらかされてしまった。夢のために俺に強くなってほしいみたいなことを言っていたがその夢の話は教えてはくれなかった。


 毎日のように保健室へと行く俺とリーナはシルキーとも仲良くなった。シルキーは学内でも大鎌を持って歩いているため他の生徒から変な目で見られているらしく、リーナのことを見て驚きはしたものの遠ざけることはしなかった。癒す力を使うにあたって人を選別することはしたくないらしい。

 シルキーは寮に住んでいるわけではなく、王都にある家を借りているらしい。大鎌を持って寮内に居るのは不安らしく、お金は掛かるが宿を取っている。


 そしてそんな毎日を過ごしていると気が付けば学園は夏季休校、つまりは夏休みに突入しようとしていた。


「俺とリーナは特に実家に帰るつもりはないがお前はどうすんだ?」


 丁度今日の修行が終わったところで汗だくな俺とは対照的に涼し気な顔をしているヘイルに問う。俺は実家に帰るつもりはない。単純に王都から近いこともあって何かあればすぐに帰れるし夏休みだからといって帰る必要はないからだ。

 この学園には俺の兄貴であるグレンバード家次男ダレンズ.グレンバードも在籍しており、兄貴はどうせ家に帰るだろうから俺が帰る必要はないだろう。この学園でもう3ヶ月も経つのだが一切接触をしてこない。十中八九俺とリーナの関係が関わっているとは思うが特に気にはしていない。


「私は特に戻るつもりはありません」


「そうなのか?」


「私はアーティファクトですので実家というものは特にありません。偶然お世話になった方がこの学園へと推薦してくれた為この場に居ることは出来ていますが……」


「ま、戻んねぇって言うなら夏休み中も練習付き合ってもらえるか?」


「授業がない以上今までよりも多く出来そうですね」


「休息は大事。シルキーもそう言ってた」


「それは分かっていますよ」


 何だかんだ俺たちは3人で居ることが増えていった。学園内でも3人で行動することでヘイルは人避けとして俺たちを使っているらしい。学園内にいる人達も敢えて俺達には関わろうとしないだけで何かをしてくることは少なくなった。

 ヘイルがアーティファクトと言うことは未だに知られていない。もしかしたら一部には知られているのかも知れないが噂になっては居ないようだ。

 

 修行後の保健室へと3人で向かうこともあった。リーナがヘイルも連れて行くと強情になることが偶にあり、ヘイルもそれを断ることもしない。

 最初に治療法を見た時は2人とも臨戦態勢に入ってしまって宥めるのが大変だった。予め説明しておけばよかったもののいつもの流れで治療を初めてしまった結果、シルキーが大慌てする事態になった。

 その時にシルキーも初めて気が付いたらしいがアーティファクトの怪我や疲労は人間体でも治療が出来ないらしい。あくまで人間を治療することしか出来ないと知り少しだけ残念そうな顔をしていたことが記憶に残っている。


「じゃあ3人とも学園に残るってことでいいんだよな」


「私はロージスと一緒にいる」


「私はロージスさんとリーナさんと一緒にいるというわけではありませんが帰る場所もありませんので学園に残りますよ」


「一応ソロンに伝えておいたほうが良いと思うからあとで伝えてくるわ」


 そう言えば決闘の後、ソロンから呼び出しをされる事は一切無かった。犬になれと言われた物だから雑用などで扱き使われると思っていたのだが杞憂に終わった。3ヶ月の間殆ど顔を合わせることもなかった。

 夏休み中に学園に残る者は書類を提出しなければならないらしいのでそれを直接ソロンへと出しに行くつもりだ。


「ソロンさんは生徒会長でしたよね」

 

「会ったことないのか?」


「基本的に2人以外とは話さないので」


「ソロンもアーティファクトの契約者だからヘイルにも接触してるもんだと思ってたわ。ヘイルのこと知ってたみたいだし」


「私のことを?」


 バレットがヘイルのことを心配していたと言っていた筈。バレットやソロンの面倒見の良さから契約をしていないアーティファクトと言うことを知っていたから心配していただけなのかも知れない。


「契約してないアーティファクトってことは学生の資料で知ったことで心配してたんじゃねーの?ま、ソロンもバレットも悪いやつじゃないから大丈夫だと思うけどな」


「適当ですね」


「直接聞いたわけじゃないし最近会ってないからな」


「ロージス。バレットに会いに行くなら私も行くけど」


「そうだな。今日の修行は終わりだしここで解散するか」


「分かりました」


 持ってきているのは木剣のみ。片付けをするほどのことは無い。その場でヘイルとは解散して俺たちは生徒会室へと向かう。

 夏休みが近くなり、気温も高くなっているため外を出歩いている生徒は多くない。涼しい場所へと流れていくため放課後になれば学園内には生徒が少なくなる。王都の中には涼しむことの出来る場所が沢山あるためそこが学生の溜まり場になっているらしい。


「そう言えばリーナってシルキーの持ってる大鎌のことなんか知ってるか?」


 一応日課の流れとして修行の後は保健室へ向かいシルキーと話をすることになっているので生徒会室へと向かう前に保健室へと足を運ぶ。

 保健室では俺の治療をすることが最優先のため、治療をした後は特に雑談をすることもなくそのまま帰ることが多い。申し訳なくなりシルキーと雑談しようとしたが、治療をすることが出来れば満足なようで雑談に花が咲くことはなかった。


「大鎌っていつも持ってる武器のこと?」


「そうそう。確かクリスって名前みたいだけど人間になってるのを見たことないんだよな。校内でも武器化したままらしいし。アーティファクト同士の感覚で何かわかんねーかなって」


「アーティファクトであることは分かる。でもそれ以上は分からない」


「そうなのか?」


「ロージスが人を見てその人の声とか性格とかを見た目で分からないのと一緒。あくまでアーティファクトであるということしかわからない」


「気にはなるけど多分シルキーにとって大事なことだろうし聞けねーよな」


 常に武器化していることには絶対に何か意味があるのだがアーティファクトと契約しているものに取って互いの存在は重要だ。他人にとやかく話すことでもないだろう。


「ロージスを治してもらってる。それだけで充分」


「それもそうだな。余計なこと聞いて関係がおかしくなるなら黙ってたほうが良いこともあるだろ」


 今の距離感が丁度いいはずなのだ。治療される側とする側。それだけの関係性で。


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