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リーナ・ローグ

「なんだなんだ?あの女、アーティファクトだったのかよ」


「知ってるのか?」


「お前が知っても意味ねーよ。どうせ死ぬんだからなぁ!」


 男は俺に向かって剣を振り下ろす。直線的な軌道であったため、辛うじてだが床を転がって避ける。当たれば即死。そう思うと身体が重くなり足が動かなくなる。手には一振りの剣があるが剣など振ったことがない。


 そもそもこの剣はなんだ?状況を考えるとこの剣が彼女なのか?どうして人間が武器になるんだ。


「(そんな事考えている場合じゃない。闘って)」


「えっ。なに?どこ?」


「(剣から直接話しかけてる。そんな事はいい。適当でもいいから剣を振って。私が何とかする)」


 なんとかするってどうするっていうんだ。とりあえず言われたとおりに適当に剣を振る。速くもなく寧ろ遅い振り。それでもその剣からは炎が出た。


「なんだこれ!?」


「(うるさい。いちいち驚かないで)」


 剣から炎が出るなんて聞いていない。まるで魔法剣のようだ。あれは魔法で作った炎を剣にまとわせているけどこれは一体どうなっているんだろう。俺は魔法を使っていないし、こんな魔法は使えない。


「(考えるのは後。来る)」


「なんだよ。お前初めてかよ。初々しいねぇ。女の扱い方も知らねーなんてよ」


 男は俺に向かって剣を振り下ろす。縦横斜めと縦横無尽に。戦闘経験のない俺は避けるのも精一杯だ。避けながら剣を振るうなど出来るわけ無い。


「避けながら剣なんて振れないんだけど!」


「(そう。なら剣を地面に水平にしたまま避けて。避けるときの体の動きで炎を出す)」


 言われたとおりに剣を水平に構える。丁度そのタイミングで男は俺の肩を真上から切ろうと剣を振り下ろしてきた。その剣を体をひねり避け、遠心力のまま剣を横薙ぎに振る。分かりきって居たのか、男は後方に大きく飛び避けた。


「あっちーな」


 避けたはずの男の服は焦げており、攻撃は当たっていた。


「あれ?当たった?」


「(タイミングよく炎を出せば間合いが変わって当たる。あの手の輩は間合いギリギリを楽しむ節がある。そこを攻める)」


「それともあれ服焦げてるし熱いって言ってるけど」


「(炎だから熱いのは当たり前)」


「でも俺は熱くないけど」


「(契約者が熱かったら私を使えない)」


 服を焦がすほどの熱があるのに俺には陽だまりのような熱しか感じない。使う物が扱えなければそれは武器とは言えないだろう。まだ彼女が武器と言うのは完全には信じていないが。


「ごちゃごちゃ一人で何いってんだよお前」


「(この状態の私の声は貴方にしか聞こえていない。貴方も声に出さず心で語りかければ私と会話できる)」


「(先に言ってくれ!)」


「もういい。上も静かになってきたしここに来るのも時間の問題だ。お前を殺す」


 今までよりも速い動きで此方を攻撃してくる。先程までは避けられていたが避けきれずに少しずつ攻撃を貰っている。本来はこんな攻撃に反応すら出来ない筈だが、この剣のおかげか反応は出来ている。


「(貴方、弱いわね)」


「(うるせ)」


 自分が弱いことなんて自分が一番わかっている。今までサボって遊んでいたつけがここにきて一気に押し寄せてきている。今更になって後悔してももう遅いのだ。時間は待ってはくれないし、この殺人鬼も待ってはくれない。ここで不格好でも戦うしか無いのだ。


「(もう時間がない。私と一緒に心に浮かぶ言葉を言って)」


「(なに?どうすんだ?)」


「(一旦強い炎を出してあいつと距離を作る。そしたらやる)」


 殺人鬼の攻撃を避けながら会話をする余裕など無い。彼女の言葉に対して適当に返していたので全部は聞いていなかった。確か心に浮かぶ言葉を言えと言っていた。

 避けながら俺は剣を一振する。その剣は先ほどまでより強い炎を纏っており、殺人鬼の男も避けるしかなかったみたいだ。


「チッ。まだそんだけ動けんのかよ。早く死ね」


「((燃えよ剣。その炎は鋭い刃のごとく。燃え広がる火の如く。一切合切を灰に帰せ))」


 男は此方へと飛び込んで、俺の首を狙う。今の俺は無防備に見えるだろう。人間とは成功を確信した瞬間に一番隙ができる

。昔、まだ俺が今のようになる前の頃、親父が言っていたことを今思い出した。


 目の前の殺人鬼は俺の首を取れると確信している。だからこそ、自分の防御が疎かになっているのだ。


「(今。剣を振って)」


 彼女の合図とともに俺は剣を振る。剣の間合いからはほど遠い位置で俺は彼女を振るう。端から見たら空振りにしか見えない。殺人鬼からも剣の振り始めを見た時は空振りにしか思えなかっただろう。ただ、殺人鬼はこの剣の振り終わりまで見ることは無かった。


「なんだよ一体」


 殺人鬼の身体は真っ二つになっており、その体は燃えている。剣で斬ったであろう切り口から火が出ているのだ。


「(限界)」


 剣からその声が聞こえると俺の横には白い髪と赤い瞳をした少女が立っていた。俺の手からは剣がなくなっており、彼女が剣となって戦っていたことを突き付けられたような気分だった。


 燃えている殺人鬼を指さし問う。


「これどういうこと?」


「私の力。さっきの詠唱によって使える技。剣から見えない炎を出して相手を斬る。温度が高すぎる火は人には見えない。」


「俺が斬った。俺が殺したのか」


 始めて人を殺した。自分が殺されるかもしれなかったし、相手は奴隷を沢山殺した男で完全なる悪人。それでも人を殺してしまったのは事実だ。


 入り口の方から沢山の足音がする。


「おい、奥の方で何か燃えているぞ」

「上の奴らは全員捕まえたがまだ中に居たのか」

「そいつらも早く捕まえよ!」


 入り口の方を見ると兄貴がいた。


「兄貴!」


「お前っロージスか?なんでこんな所に……」


「それは後で話すよ。それよりもここに生きてる人は俺と横にいる彼女しか居ないよ」


 兄貴は彼女の方を見る。


「お前、悪魔の」


「兄貴。それは言わないでくれ。お願いだ」


 彼女のことを悪魔の子とは言わないでほしい。他の誰が言っても嫌だが、俺の家族が彼女をそのように扱う姿は見たくないのだ。


「すまん。分かった。それで彼女は?」


「ここで捕まってた子。俺が助けた。名前は」


「リーナ・ローグ」


 彼女の名前はリーナというらしい。一緒に戦った仲だが名前は始めて知った。


「とりあえずリーナさんも話を聞きたいので付いてきてください」


「分かった」


「後ろで燃えているのは?」


 兄貴は俺に聞いてくる。隠しきれるとも思っていないが、俺の口から伝えるのは辛い。貴族であるとは言え、人を斬る経験など殆ど無い。今回も捕まえるために傷を付ける程度で殺すことはしていないだろう。俺は、一人とは言え殺した。殺人鬼が何人殺そうと人殺しという点では俺と同じだった。

 その事実を家の者に伝えてしまうのが怖い。俺がやんちゃできていたのも家族の愛だろう。今日は散々後悔した日だった。これ以上後悔を増やしたくはない。でも、嘘をつくのも違う。やったことは事実だ。伝えなければならないのに口が開かない。


「私が殺した」


「貴方が?」


 俺が喋れずに黙っているとリーナが喋りだす。リーナが殺したというのは間違いではない。でもリーナだけがこいつを殺した訳じゃない。俺も一緒に殺したんだ。共犯者なんだ。そう言えればいいのに俺の口は動かない。守られてばかりで結局、リーナを守ることも出来ない。


「そう。私はアーティファクトだから」


 止めてくれ。君は人間なんだから。俺と同じように人を殺した後悔を感じてくれ。俺一人に背負わせないでくれ。


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