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今を生きる

 話は逸れてしまったがヘイルのアーティファクトに対する感情のことを知ることができてよかった。アーティファクト自体がこの国の人にどう思われているかは分からないが、少なくとも目の前にいる生徒はアーティファクトのことを好意的に思っていてくれているみたいだ。


「それで本題なんだが」


「話を逸らしてしまったみたいですみません。私が言うのも可笑しいのですが授業中ですので手短にお願いします」


「分かった。知ってるかも知れないが俺が契約しているのがリーナ・ローグなんだ。だから俺と組むことでお前も――」


「リーナ・ローグ?すみません、まだ学園の人の名前を覚えていなくて……」


 アレだけ話題になっていたにも関わらず全く知らないことに驚いた。学園が始まる前から噂をされ、教室に入る頃には俺たちの方を見てくる生徒が居るくらいだったのに無関心な人がいることは考えてもみなかった。

 決して自分たちが有名になったなど思っては居ないが悪目立ちしていることは自覚している。悪評も知らないのは誰とも関わっていなかったからなのだろう。


「えっと、クラスにいる白髪で赤い目をした女の子なんだけど……」


「ああ。あの方ですか」


 ヘイルだってクラスの中を移動することはもちろんあるし、何よりも後ろの席に居る俺のところへとリーナがよく来るのだ。いくら外を見ていることが多いとは言え、視界には入るだろう。


「ヘイルは知らないみたいだけどさ、リーナと契約してるのはこの学園の人殆どが知ってるんだよ。だからさ――」


「そのリーナ・ローグさんがどうかしたんですか?」


 この国に留まらず、アブソリュートの話を知っている人からすればリーナは忌むべき対象だ。この話は絵本にもなるくらい小さい頃から学んで刷り込まれていく。その結果、リーナは周りから忌避感のの籠もった目で見られるのだ。

 そういう目で見ない人達がいるのも知っている。でもそういう人達は自分というものを優先してリーナの対応をするだけで話自体を知らないわけじゃない。


「いや、リーナって悪魔の子って周りから言われててさ」


「悪魔の子?あんな可愛い子が?可笑しいですね」


「……英雄アブソリュートって知ってる?」


「知ってますよ」


「そこに出てくる悪魔とリーナの容姿が似てるからってだけで言ってくるだよ」


「くだらないですね。それなら赤い剣と白い剣を持っている人は全員アブソリュートになれるんですか?あくまで伝説は伝説。今を生きているリーナさんとは別のものでしょうに」


 何故だか猛烈に感動している。リーナのことを忖度無しで慮ってくれる言動をしてくれる人に出会えたことが嬉しいのだ。バレットやソロンはリーナの状況を知って世話を焼いてくれている。それに対してヘイルはリーナという存在を殆ど知らないのに考えてくれるのだ。

 それにアブソリュートの伝説を知っているのに、それに惑わされず自分の信念をまっすぐと貫いている。そのかっこよさにも憧れを覚えてしまう。

 今すぐにでもリーナにこの事を伝えたい。もしかしたらリーナと友人になってくれるかも知れない。リーナに、人間というものを教えてあげられるかも知れない。


「どうかしましたか?」


 ヘイルの言葉に固まってしまった俺を動かしたのは、またしてもヘイルの言葉だった。


「いや、なんでもない。ありがとうな」


「よく分かりませんがどういたしまして。流石に授業中ですしそろそろ始めましょうか」


「そうだな」


 気持ちを切り替えて剣を握る。それに合わせてヘイルも剣を構えた。ヘイルの構えは王国剣術として最も多いもので直剣を両手で持ち、脇を締め、一対一を想定とした構え。

 それに対して俺の構えは昔習っていた王国剣術のものを一旦やめて、直剣を片手で持つ構えをしてみた。左手に剣を持つことを想定とした構えだが、片手で剣を振る感覚には慣れておきたい。


「不思議な構え方ですね」


「俺はアーティファクトを使うこと前提で戦わないといけないからな。戦い方にはアーティファクトとの相性もあるだろ?」


「それは、そうですね」


「ヘイルの構えは王国剣術の構えだな」


「はい。ですがそれはあくまで構えだけです」


「どういうことだ?」


「打ち込んで来てみれば分かることです」


 見て分かるくらいにヘイルの構えは洗練されている。俺みたいな一朝一夕のものではなく長年の経験を感じるのだ。授業ということを抜きにしても、ヘイルに挑んでみたいとそう思わせる程の実力差があるだろう。

 俺は剣を強く握る。頭でこの木剣がリーナだとイメージをする。手から感じる重さは勿論違うが戦い方を体に覚え込ませる。


「分かった。よろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いします」


 ヘイルのその言葉を聞き、1回だけ深呼吸をする。実戦ではこんな余裕など無いが今は訓練であり自分に何が出来るかを知れる機会でもある。今の俺が出せる全力をヘイルにぶつける。


「いくぞ」


 その掛け声とともに俺は右足で地面を蹴る。重心を低くするために剣先は地面に向ける。

 リーナを使う場合は相手を斬ると言うよりも相手に当てさえすれば燃える剣で斬ることができる。上から振り下ろすよりも下からすくい上げるように剣を振ったほうが効率的だと考えた。予定ではもう片方の手には剣を持つつもりなので今回は身体のバランスを取るために左手を使う。

 

 ヘイルと俺の距離が縮まる。

 俺がヘイルの元へと移動する間、ヘイルは構えたまま少しも動かなかった。ヘイルの剣は相手に先手を与えてから攻撃するカウンターの剣なのかも知れない。

 

 王国剣術にも様々な物があるらしいが防御をすることをメインとしたものは余り聞いたことがない。防御をする剣士は盾を持つことが多く、剣一本で防御をすることは戦闘では不便になると言われているからだ。


 ヘイルが何をしてくるか分からないがこれは訓練。

 剣の間合いまで近づいた俺はヘイルの腰目掛けて剣を振り上げた。

 その直前、俺はヘイルの目をしっかりと見た。その目線は俺を見ているのに、俺とは目が合わなかった。ヘイルが見ていたのは俺の動き全体。それに気づいたところでどうしようもない。それにどういう意味があるのかも分からないのだ。


 俺はただ攻撃をするだけ。守ることなど知らないのだ。

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