表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/93

前途多難

 翌日。

 授業を終わらせた俺たちは寮に帰らず、学園内にある図書室へ向かっていた。昨日聞いた英雄の話を詳しく調べるためだ。

 ソロン達に話のさわりだけは聞いたが詳しいことは自分達で調べたほうがいいと判断し行動に移している。

 廊下を歩けば他の生徒の目が気になるが割り切るしかない。直接手を出されたり何かを言われることが無いだけマシだろう。


「図書室にあるのかな」


「流石にあるだろ。この国の建国にも関わる話らしいし」


「ふーん」


 リーナは俺の少し後ろから付いてきていたのだが、気が付けば横を歩いていた。距離が少し近い気もするが今更気にする様な人の目も無いため何も言わない。


「そういえばロージスって二刀流の件どうするの?」


「あー。どうすっかなー」


 昨日は割と乗り気だったのだが一晩考える内にそれをするのが正しいのか分からなくなっていた。あくまでもソロンの意見であり、経験則から出た言葉ではない。リーナをうまく使うことが出来るのなら試す価値は大いにあるのだが、主流ではない二刀流を教えてもらう方法もない。


「俺はやってみるのもいいかも思うんだけど習う手段がない。誰もやってない二刀流を教えてくれる人なんていないだろ?」


 図書室に近づくにつれ人は散見される程度にまで少なくなっていた。まだテスト期間でも無いタイミングで図書室に来る人は少ないのだろう。

 そのまま歩いて図書館に入ろうとすると横にはリーナが居なかった。後ろを振り返ると、リーナは立ち止まって何かを考えているようだった。


「リーナ?」


 声を掛けるも返答はない。

 近づいて肩を軽く叩くことでリーナは俺に呼ばれていることに気が付いたみたいだ。


「どうしたんだよ、急に立ち止まって」


「考え事してた」


「ま、いいけどさ。早く中入ろうぜ」


「二刀流のこと、どうにか出来るかもしれない」


「は?」


 なんの手がかりも無い中、リーナの言葉は少しばかりの衝撃だった。二刀流のことをどうにかできることに驚いたわけではなく、リーナがそれを知っていることに驚いたのだ。

 リーナが武器化した形態は真紅の直剣。それにリーナが自分自身で戦う時は魔法を使う。武器化したのもまだ数回で戦った経験も少ない。

 そんなリーナが二刀流のことを知っていることが不思議でならない。


「どういうことだよ」


「本当になんとなくなんだけど動き方が分かる」


 昨日も「何となく戦い方が分かる気がする」と言っていたがこれから勉強する程度に考えていた。だが、何かを調べて学ぶ前からリーナは何かが分かっているらしい。

 問い詰めるつもりはないが、気になってしまうのでリーナには説明をしてもらうことにした。


「例えば?」


「私の力は大振りになることが多い。でも、私の力は少しの力でも結構強い。態々両手で振らなくても力が出せる。もう片方の剣で敵の攻撃をいなしながら私で攻撃することができると思う」


 それはまさに昨日聞いた英雄の戦い方。

 昨日聞いた戦い方を頭に思い浮かべて出来ると思っているのか、それともリーナ自身に刻まれている戦い方なのか。


「どうしてそう思うんだ?」


「アーティファクトとしての私がそう感じている。私の出力の高いのは僅かな手数でも確実に相手に致命傷を与えられるためだって」


「それが片手で使うってことか?確かに剣になったリーナは軽いから片手でも使えるが」


「む。剣になってなくても私は重くない」


 俺の言葉が気に障ったのか、無表情で此方に詰め寄ってきた。そういう意味で言ったわけではないのだが一応謝っておいた。

 

「結局、実践してみないと分からないな」


「今度ソロン達に言って練習させてもらう」


「確定事項かよ。ま、あの人たちは断ることはしなさそうだし頼むだけ頼んでみるか」


 図書室の入り口で駄弁っているだけではここに来た意味もない。それに僅かとはいえ、図書室には生徒もいる。入り口に生徒が居ては変に目立ってしまうため俺たちは図書室に入った。

 図書室に入ると学園にある本の貯蔵量に驚く。高くまで積み上げられた本棚にはぎっしりと本が詰まっており、目的の本を探すのにも一苦労しそうだ。

 図書室に入ってきた俺たちを図書室にいる生徒は一瞬見たが、すぐに目線は本へと向かい俺たちには興味なさげに自分の世界へと没頭していた。


「リーナ、ちょっと待っててくれ。本が何処にあるか聞いてくる」


「私も行くけど」


「リーナが悪いわけじゃないんだが、2人で行くと相手がちゃんと喋ってくれない可能性がある」


「そっか」


「すぐ戻ってくるから」


「分かった。待ってる」


 悪魔の子として目立っているリーナをカウンターに座っている生徒と会わせてしまえば、良からぬ噂が広がってしまうかもしれない。

 正直な話、俺もこんなことをリーナにはいいたくなかった。それでも現実は非情で、一部の人以外からのリーナへの風当たりは強い。リーナが必要以上に人からの悪意を受けないためにも仕方ないことだと思ってしまう。


「すみません」


 カウンターに座っていたのは快活そうには見えない大人しい女子生徒だった。遠くからリーナの視線を感じる。女子生徒と話すなと前に言われたことを思い出してしまったが、これは必要なこと。何か言われたらちゃんと説明すればいいだろう。


「あ、はい」


 カウンターで本を読んでいた女子生徒は、声をかけられたことに反応して顔を上げる。俺のことを視認した瞬間、一瞬だけ表情が固まり辺りを見回す。明らかにリーナの方を向いてから思い切り目を逸らしたが自分の職務を思い出したのか話の続きを進めてくれた。

 先日の決闘で学園内では顔が知られてしまい、リーナと共に居る人して認識されているらしい。

 ただこの女子生徒は自分のやるべきことを優先するタイプだったらしく、会話ができるだけでもありがたい。


「すみませんでした。何か御用ですか?」


「本を探してるんですけど」


「どのようなものでしょうか」


「昔話っていうか。英雄アブソリュートの伝記とか詳しいことが載っている本があれば」


 女子生徒は机の下から図書室の地図のようなものを取り出して指をさす。


「この国の歴史や伝記にあたると思いますので280という数字の所にあると思います。また何かあったら聞いてください」


 簡潔な説明をすると読んでいた本の続きを読むように顔を下げてしまった。これには苦笑いを浮かべるしか無く、一言だけお礼を言ってリーナの元へと戻ることにした。

 仁王立ちで腕を組んで待っているリーナを見ると戻りたくないと思ってしまうがそうもいかない。


「お待たせ」


「女子生徒と話しすぎ」


「業務連絡みたいなもんだ。それより場所が分かったから行くぞ」


 リーナの話を打ち切ってさっさと目的地に向かう。280と書かれた場所は今いる所から離れてはおらずすぐに到着するだろう。


「待って、話は終わってない」


「終わらせたくて進んでるんだよ。大丈夫だって。俺にはリーナだけなんだから」


 「……。それならいいけど」


 誰かと話すだけでこの反応をされるのならば先が思いやられる。


日本十進分類法

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ