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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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英雄の栄光

「英雄ってなんだよ」


 いきなり英雄だなんだと言われても俺は知らないのだ。

 きっと何かを成し遂げた偉い人なんだろうが、幼い頃から勉強が嫌いで遊び歩いていた俺は歴史系統の話も良く知らないのだ。

 勿論国の歴史などは勉強で知っているが、それ以外の方法おとぎ話や英雄譚などは殆どわからない。


「お前……」


 呆れたようにため息を吐くソロン。

 知らないものは知らないのだから教えてくれてもいいだろう。


「ソロン。私も良く知らない。だから教えて」


 素直に教えを請うリーナに対して、もう一度溜息を吐いたソロンは訓練場の隅にある椅子へと移動していった。


「お前たちも付いてこい。説明してやる」


 そんなぶっきらぼうな優しさを見せるソロンの後を付いていき、4人とも椅子に座った所でソロンは語り始めた。


「まずは英雄の話からだ。子供に良く聞かせる英雄譚。アブソリュートの英雄譚を本当に知らないのか?」


「知らない」


 リーナの応えに反して、記憶の片隅に名前だけは聞き覚えのあるような気がする。ただ内容はこれっぽっちも分からないため、俺も首を振って否定の意思を示す。


「簡単に掻い摘んで説明するぞ。英雄アブソリュートは悪魔の王を討ち取った。ただそれだけの話。それだけの話なのだがその伝説が人間が悪魔を制し、この土地を統べるきっかけになった事からアブソリュート英雄とされているのだ」


 本当に子供に聞かせるおとぎ話のような内容だった。アブソリュートはグレンバードの領内にいる子供が英雄のごっこ遊びをしていた時に聞いた名前だったのかもしれない。


「悪魔の王?そんなものがいたの」


「ああ。白髪で赤い目をした悪魔の王がな」


 ソロンはじっとリーナの方を見つめる。リーナのの容姿は白髪にある赤い目をしており、英雄譚に出てくる悪魔の王の容姿にそっくりだった。


「悪魔の王は人をさらい、人を殺し、人を呪った。人間に対しての明確な敵だ。それを幼いころから教えられているからこそリーナ・ローグは迫害を受けている」


「それはリーナ関係ないじゃねーか」


「そんな事は言われなくても分かっている。しかしそういう物なのだ。誰が悪いとか誰が正しいとかそういう問題ではない。それが刷り込まれてしまっている。勝者は敗者を蔑ろにすることも出来る。この英雄譚は悪魔の王がいかに残虐非道で、それを討ち取った英雄がいかに高潔かを語っている」


 俺は何も知らなかった。知らなかったからこそ、リーナに対しての偏見が何もなかった。幼いころから悪魔の王の悪い面を刷り込まれて成長して来たこの世界の人間にとってリーナの存在は英雄譚に出てくる悪役そのもの。


「ソロンは……。リーナを迫害しないんだな」


「僕は自分の目で見たものを信じるって決めているんだよ。それに英雄譚に出てくるからって理由で女の子を虐めるような男が胸を張れないだろう」


「そんなことしたらまたビンタするけどね」


「痛いから勘弁してくれ」


 少し重くなった空気を和ませるようなバレットとソロンの掛け合いは優しさから産まれるものということはわざわざ確認するまでもなかった。

 ほんの少しだけでもリーナのことを迫害しない人がいてくれるだけで俺にとっては幸せに感じる。俺がリーナと共にいることで変な目で見られたりするのは仕方ないことだと割り切るつもりだ。それでも、リーナの人生が俺だけとの関わりになるのは寂しいと感じてしまう。

 

 色々な人に触れ、色々な感情を持って成長して欲しい。俺からの教えられることだけが全てではないとリーナにも知ってほしいのだ。


「話を戻してもいいか?」


 目の前でじゃれついているようにしか見えない先輩たちに俺たちもいることを示す。


「あ、ごめんね。ソロンが意地っ張りでさ」


「僕のせいにするな。大体な――」


「2人とも後にして。英雄の話、聞きたい」


 流石のリーナも2人の言い争いという体のイチャつきにはうんざりしたのか話の続きを要求した。単純に話の続きを聞きたいだけなのかもしれない。


「英雄を倣うってさっき言ってたけどさ、それってどういうことだよ」


 ソロンは英雄を倣ってみろと言っていたがそもそも英雄のことを良く知らない俺には何を倣えば良いのかすら分からなかった。

 悪魔の王を倒した英雄の戦い方なのか、精神性なのかも知らない。説明を途中で止められては困るのだ。

 学園の図書館に行けばある程度は調べることが出来るとは思うが正直面倒なので、ソロン達に教えてもらったほうが助かる。


「英雄アブソリュートは二本の剣を使ったとされる」


「二本?用途によって分けてたってことか?」


「違う。二刀流ということだ」


 二刀流。今の世界では珍しいとされる使い方だ。街にいた子供も木の棒を2本持っていた気がする。

 だが学園で教える剣術には二刀流はなく、一本の剣で戦う方法しか教えていない。


「二刀流?確か滅茶苦茶効率悪いとかで皆使わなくなったって聞いたけど」


 二本の剣で戦うと言うのは攻撃の手数が増えるのは確かだが、割かなければいけない注意の数も増える。それに、右と左で剣を使うということは間合いの管理も難しく素人剣術では一本を使うよりも寧ろ弱くなるのだ。


「実際効率も悪い。慣れない者が使えば実力以下の力しか出せないだろう」


「それじゃ駄目じゃねーか」


「話は最後まで聞け。ちゃんと調べれば分かることだが英雄が使っていた二刀流は二本の剣で攻撃をするものではない」


「どういうことだよ」


「どちらかの剣で相手の攻撃をいなし、どちらかの剣で敵を叩く。つまり、守の剣と攻の剣の組み合わせで戦っていたのだ」


 片側の剣で守り、片側の剣で攻撃をする二刀流。英雄にはそれが出来たかもしれない。一本の剣すらもまともに使うことの出来ない俺には二本など使えるわけがない。

 

「それを倣うって言われても、俺は一本すらまともに使えてねーぞ」


「どうせ1から学ぶのだ。変に幼いころから一本の剣術を学ぶより最初から二刀流を学ぶのも面白いとは思わないか?」



 口角を上げて此方を見ているが、他人事だと思って楽しんでいる節が見え見えである。確かに俺には剣術の基礎の基礎は多少なりとも教えられたが、しっかりとしたものはまだ教わっていない。

 同年代の学生は幼いころから剣術を学んでおり、1本での戦い方が染み付いているものも多いだろう。

 それに対して俺は真っ白な状態。新しく学ぶのならばリーナを活かせるような戦い方を覚えたい。


「ちょうど英雄も赤い剣と白い剣を持っていたと言われている。お前たちにちょうどイイではないか」


「リーナはどう思う?」


 困った時には先ず相談。俺の戦い方はリーナの使い方にも直結する。リーナが難色を示せば、リーナの使い方との相性が悪いということになるだろう。

 正直俺としてはどっちでもいいのだ。どうせ殆ど0から学ばなければならない。


「私は――いいと思う。二刀流。自分でも良くわからないけど、何となく戦い方が分かる気がする」

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