顔合わせ
二日目ということもあり、授業の説明等があるだけで今日も本格的な授業はなかった。
座学と実技、実技に関しては魔法と剣術が選択できるらしく両方を選ぶことも出来る。1限は魔法、2限は剣術のように選択することも出来るし1.2限を両方とも剣術や魔法に当てることも出来るらしい。
俺はリーナという剣を使うためにも実力をつけなければいけないから剣術を重点的に学ぼうと思う。リーナは俺についてくるかも知れないが今後のことを考えても魔法の授業を受けてほしい。
教室にいる同級生と話すことは全くなかったのだが、遠巻きに噂をされるということもなくなっていた。やはり、昨日の決闘の影響が出ているのは間違いないのだが何が起こっているのか俺にはさっぱり分からない。敢えて此方を見ないようにして、関わるのを避けている様にも見える。
「ロージス行こう」
気が付けば放課後。特に何かをしたような記憶はないが呆けていたら時間が経っていた。俺の前に座っている赤い髪の女子生徒は珍しいことに俺に対して全くの無関心だった。それが一番助かるのだが、興味を全く持たれないというのも不思議であった。
今だってリーナが俺の席に近づいて来ているのに窓の外を眺めるだけで特に動こうともしていない。リーナにも興味がなさそうだ。
「あー。訓練場だっけ?」
「そう。バレットたちとの約束」
「約束なら守らねーとな」
「うん」
教室に長居する理由もないため、俺たちは訓練場へと向かった。
・
訓練場に着くと『本日使用禁止』と生徒会の名前で書かれた看板が立っていた。
「これ、俺たち入って良いのかな」
「分からないけど、私たちは生徒会の人に呼ばれたわけだから入って良いんだと思う」
「ま、なんかあったらソロンに小言を言われるだけだからな」
「怒られる時も一緒」
雑談をしながら訓練場に入る。昨日の戦闘の痕跡を感じないほどに綺麗に整備された室内には俺たち意外にも2人の生徒が既に待っていた。
「一応部外者が入れないようにはしておいたが」
「今日は模擬戦っていうよりもどんな武器なのかを見たいって感じだからね」
待っていたソロンとバレットに声をかけられる。教室からまっすぐに訓練場に来たのに、俺達よりも早くこの場にいるのは不思議だったが関係ないことなので聞くのをやめた。
「一つ言いたいんだけどさ」
「なんだ?」
「俺達、戦闘経験一回しか無いんだけど。それに武器化も昨日までは一回しかやったことなかったし」
「え?そうなの?」
始めて武器化した時の一回限りの戦闘経験しか無い。そもそも、普通に生きてきて戦闘が必要な場面というのは殆ど存在しないだろう。
冒険者やハンターなどの職業の人ならば街から離れた場所に出現する魔物などを狩って生活しているらしいが、街の中に住んでいる俺たちが戦闘をすることはない。
路地でアーティファクト使いと戦った時は戦闘と言うほどでもないし、昨日の決闘は戦いにもなってなかった。
「それでよく昨日の決闘を受けたものだな」
「正直言うとリーナが強いから何とかなると思ってたんだよ。武器化だって出来るって思ってた」
「でもできなかったんだね」
「そう。でも今は出来る。昨日いっぱい話した」
「そうだ。リーナちゃん、昨日はごめんね?きついこと言っちゃって」
両手を顔の前で合わせながら頭を下げるバレット。リーナも少し気にしていたみたいだがバレットも申し訳ないと思う気持ちがあったようだ。
「問題ない。寧ろロージスと話すきっかけになれたから良かった」
「その、あんまり怖がらないで居てくれると嬉しいかな?」
リーナは朝同様俺の後ろに半身を隠しながらバレットと会話をしていた。リーナは少しだけ苦手意識があると言うよりは何となく怖いと思っているのだろう。
「頑張る」
「頑張らないといけないほどかー」
「雑談はその辺にして本題に入るぞ」
一度手をたたき乾いた音を訓練場に響かせた後、ソロンは本題に入る。
「お前たちが武器化出来るらしいのは朝の件で聞いている。だが直接見たわけではないからこの場で武器化してもらいたい」
「それは構わないが、模擬戦とかは良いのか?」
「したいなら構わないが先にロージス達が戦えるのかを確認したほうがいいだろう」
「どういうことだ?」
「ソロンが言いたいのは武器化して戦うのは双方に危険があるってこと。私たちアーティファクトは強い力を持っているが故にアーティファクト同士で戦うと良くて怪我、最悪の場合死んじゃうからね」
「いや、昨日は戦っただろ?」
「昨日は予め色々と用意していたのだ。その用意が今日は無い。それに昨日も俺たちはお前たちを倒す気は無かったのだが余りにも不甲斐ないせいで攻撃をせざるを得なかったのだ」
なんというか馬鹿にされているのは分かる。しかし、言われていることも事実なので否定をすることも出来ない。
考えてもみればアーティファクトは武器であると同時に特殊な力も持っている。リーナが炎を出せる剣、バレットは魔力を生み出す銃。バレットの場合はそこにソロンの爆発魔術を組み合わせて攻撃をしているため、俺達もなにか出来るのかも知れない。
そんな力を持った者たちが全力で戦えば被害が大きくなる可能性がある。昨日も俺を直接狙うのではなく、地面を爆破させたりしていたことを思い出した。
「そりゃどうも」
「今日、ちゃんとした力を見せてくれるのなら問題はない」
バレットが少し動くとソロンの手には昨日と同様の形をした銃が握られていた。昨日は気づかなかったが装飾も美しい。銃身が長いため近距離戦には向かなそうだがどうしているのだろう。俺達も剣を使うことで遠距離戦は苦手だ。
「その銃は遠距離武器っぽいけど近距離戦はどうしてるんだ?」
「近距離戦は基本的に防戦だな。銃を使って相手の攻撃を生かしながら簡易的な撃鉄の行進を使う。狭い範囲だが、空間に銃を発生させることが出来るのが撃鉄の行進の力だ。近距離に来た相手の頭上でも、僕の背後でも好きなところに銃を出せる。複数本出すためには詠唱が必要だがな」
ただ魔力を射出するだけではなく戦闘方法もしっかりと考えていることが分かる。その点俺に出来るのはリーナを振り回すことしか無い。遠距離攻撃をしてくる相手に対して防御をする術もなく避けるしかないのだ。
ソロンとバレットのペアとは相性が悪い。
「お前らも武器化しろ」
「分かった」
リーナが俺の手に触れると深紅の剣が現れる。
ソロンが一瞬驚くような顔をするも、すぐにいつもの表情へと戻った。
「それがリーナ・ローグか」
「ああ」
「どんな事ができる?全てでなくても良い」
ソロンの質問に対してすぐに答えることはしない。悩んだ時は相談をするのは昨日の話し合いで決められた約束なのだ。剣を通じてリーナと会話をする。
「(リーナ。ソロン相手に何が出来るか伝えてもいいか?)」
「(真名だけは言わないでね)」
「(分かった)」
「真名は言えない」
「当たり前だ。言われても困る」
「出来ることは切ったものを燃やせる。と言うよりも燃やしながら切るって言ったほうが正しいみたいだ」
詠唱をする事で使用できる技のことは隠しておくことにする。全てを言う必要はないと言っていたので遠慮はしない。
きっとソロン達も此方に全てをさらけ出しているわけではないのだ。もしかしたら今後戦うことがあるかも知れない相手に対して全てを伝えてしまうのは情報面での負けが濃厚になってしまう。
「見てみないと分からないな。こっちに来い」
ソロンに連れて行かれた先に会ったのは訓練場にある木偶。その木偶には剣で作られた傷や、魔法でつけられた損傷などが見えたが壊れていないことから何かしらの細工がされているのか分かる。
「この木偶に対して攻撃をしてみろ。魔法で防御をされているが普通の生徒の攻撃に対しての防御力しかない。アーティファクトの力に対しては防ぎきれないかも知れないから壊してしまっても問題はないぞ」
「壊れるとは限らないけどな」
「(この防御魔法じゃ魔法じゃ絶対に防げないよ。やってみれば分かる)」
自信満々のリーナの言葉に少しだけ笑ってしまう。リーナは最初から自分の力には絶対的な自信があった。今ではその自信が俺の自信にもなっている。
それに仮に壊したとして問題にならないのなら気が楽だ。
ソロンが少し離れたのを確認して、俺は木偶に対して真紅の剣を振り下ろした。




