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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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問題児たち

 次の日の朝、目覚めるとこれまで感じていた心の重みは軽くなっており朝の光を鬱陶しく思うこともなかった。

 殺風景な部屋にも慣れ、ただ毎日同じようなことを続けていくのかと感じていた昨日までとは違う新たな気持ちで学園へ行く。

 変わったのは俺たちであって周りは何も変わっていない。陰口も叩かれるだろうし、変な目で見られることもあるだろう。それでも俺は一人じゃない。


 支度を済ませて寮から出る。学園までの道のりを歩いていると途中でリーナの姿を見つけた。


「リーナ、おはよう」


「おはよう」


 まともに挨拶をしたのも久し振りだ。顔を合わせていたのに、しっかりと顔を見ることが出来ていなかった自分に気付かされる。

 周囲を見ると、此方を見てくる目はあるが一瞬のことで何かを言われるようなことは無かった。


「なんか、周りの目がおかしくないか?」


「そう?私には分からないけど」


 見てくるのに此方が目を合わせようとすると逃げるように目を逸らし先に行ってしまう。昨日までなら誰かと結託してでも此方のことを貶めようとしていたのに。

 昨日の決闘が何かの変化をもたらしたのだろうか。昨日あった出来事はそれしか思い浮かばない。


「昨日の決闘?が影響してるのかも」


 リーナも俺と同じ事を考えていたみたいだ。


「でも俺たち負けたしなぁ」


「何も出来なかったよね」


「あの時は武器化も出来なかったからな」


「今は出来るよ」


「確かめてみるか」


 昨日は確かにできなかったが、決闘の最中に出来なかったのは確かなのだ。ちゃんと武器化を出来るかどうか確認する必要がある。生徒は疎らに登校しているが、道の端によってやれば迷惑になることもないだろう。


「ん」


 リーナから差し出された手を俺は握り返す。その温かさを感じると同時に俺の手には深紅の剣が握られていた。


「あれ?」


「(どうしたの?)」


「いや、リーナの剣って前まで燃えるような赤をしてたんだが……。何ていうか赤色が濃くなった気がする」


「(私からは見えないから分からないけど……)」


「勘違いかもしれないけどな」


 リーナの剣を確認する。柄の部分から先端まで、全体的に深い赤色をしている。一見すると切れる剣には見えないが、この剣の本質は燃やすことだと何となく分かる。使ったことが無くても使い方が頭に浮かんでくるのだ。


「(使い方が頭の中に浮かんでくる。リーナの力の使い方だと思う)」


「(そうみたい。具体的なものって言うよりもどういう事が出来るかが分かる感じ)」


「(リーナの剣は切るための剣じゃなくて燃やすための剣)」


「(多分そう。私は自分のことだから何となく知っていたけどロージスと共有できてよかった)」


「(これが繋がりっていうやつなのかもな)」


 頭に流れてくる使い方。これを試す機会は訪れないに越したことはないだろうけど、何となくわかってしまう。今後、リーナを使って闘うことがきっとある。

 リーナに出来ることの全てが分かるわけではない。頭に流れてきたのは戦い方と言うよりも使い方。どう使うかは俺次第なのだが、剣を軸にして炎を出すため防御には使えなさそうだ。


 リーナを元の姿に戻し、登校しようとすると前方から声をかけられる。


「ロージス。朝っぱらから何をしている」


 目の先にいたのはソロンとバレットだった。ソロンは腕を組み仁王立ちをしていて、そのすぐ後ろにはニコニコと軽く手を振ってくるバレットの姿が見えた。

 リーナはバレットが少し苦手なのか俺の後ろに少しだけ隠れている。これも今まで見たことのない姿だった。


「なにって登校しようとしているだけだけど」 


「先ほど学園に行く道で武器化している奴がいると言われてわざわざここまで来た俺を見てもそれを言えるか?」


「確かに武器化出来るか確認はしてたけど道の端に寄ってたし、攻撃なんて微塵も考えていなかったぞ」


「馬鹿が。道の端にでも武器を持ったやつが居てみろ。それだけで恐怖の対象だ。今以上に自身の立場を下げてどうする」


「ロージスくん。一応武器化は大事なところ以外ではしないでもらえると私たちも助かるかな」


「あ、はい。すみませんでした」


「なぜバレットには敬語なのだ」


「いや、何となく……。雰囲気で」


 態度を保ったまま大きくため息を吐くソロン。俺の後ろにいるリーナは制服の裾を何度も引っ張ってくる。恐らく早く学園に行ってほしいのだろう。変な威圧感を感じているのは気の所為ということにしておこう。

 疎らだった道の人通りは増え、通りかかる者は俺たちの方を一瞥してから目的地へと進んでいく。目立ってしまっているのは間違いないので早くこの場から去りたい。


「お騒がせしました。行こ、ロージス」


 俺の後ろから出てきたリーナは2人に軽くお辞儀をすると俺の手を引っ張って学園へと向かおうとする。急に引っ張られたため体勢を崩して転びそうになったが何とか耐えて次の足を踏み出す。


「じゃあね。ロージスくんにリーナちゃん」


 バレットから名前を呼ばれた時、俺の手を握る力が強くなった。リーナはバレットの事がやっぱり苦手みたいで昨日何を話したのか気になるところだ。

 リーナに聞いてみても「ロージスの事を聞かれたから話しただけ。ちょっと酷いこと言われたけど罵声とかじゃなかったからあの人は悪い人じゃないと思う」と言っていた。リーナの事を罵って貶すような人には見えないためリーナの言うことを信じることにした。


 ソロンたちから距離を取り進もうとする俺たちの背中に声がかかる。立ち止まり、振り返りたいのだがリーナの足は先に進むだけで立ち止まることを許してはくれなかった。


「昨日の今日で武器化出来たのは良いことだがそんなに試したいなら今日の放課後にでも訓練場に来い」


 遠くになっていく声は確かに俺の耳に届いた。

 武器化できたことを報告しようとしていたのは間違いないからそれが出来るのならいい機会だ。いきなり生徒会室に押しかけるのも変に思っていたし、向こう側から機会を作ってくれるのならば乗らない手は無かった。


「分かった!放課後すぐに行く!」


 後ろを振り向くことが出来ないため、手を上げて大きな声でソロンへと了承の言葉を伝える。

 今日あの2人と訓練を行うことになったとしても、昨日よりはマシな戦いが出来るだろう。その時に俺たちのことを判断してもらって今後のことも考えてもらいたい。

 一応俺たちはあの人たちの犬みたいなものになっているのだ。


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