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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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32/93

本人たちは知る由もない

Sideソロン 


 生徒会室で頭を抱えて天井を見上げる。

 今日の決闘、こちらの要望を突き通す為に画策したものだったがこちらの予想とは遥かに違う結果になってしまった。

 当初の予定ではロージス達の力を見ると同時に僕達のことを伝えることを考えていたのだが空振りに終わった。


「はぁ……。今後のことを考えると頭が重い」


 ロージスの感じていた感情には覚えがある。僕の場合あそこまで酷くはなかったが実力差の大きいペアというのは片方に対して劣等感を感じてしまうのは常なのだ。

 それも一生を掛けて。


 出会った時のバレットは今の性格が全く違った。

 笑顔を見せない無機物のようだったのだ。それに比べればリーナ・ローグなど可愛いものだ。

 幼かったバレットは全てのものに対して敵意を示していた。子供と言えど人に危害を加える存在は国の者に捕まってしまう。父親の仕事に付いていった時に僕はバレットを見つけた。罪人の収容所で召使いとして働いていたみたいだが決していい扱いはされていなかった。

 小さい体ながら大人に暴力を振るわれる姿。抗いがたい苦痛に対して諦めることはせず反抗をする姿。

 父親は僕にそういうものは見せたがらなかったみたいだが僕の心の中ではその光景が忘れられなかった。


 どんなに力が弱くても、諦めない信念がそこに有った。その後は親の目を盗み収容所に忍び込んだ。

 ただバレットに憧れて。


 最初の頃は話しかけても無視されることもあったし、酷い時には罵声も浴びた。それでも僕はめげずにバレットに関わり続けた。

 生まれてから人からいい扱いを受けていなかったバレットは人と関わることを知らなかったため、全てを突き放していた。

 だから僕はそんなバレットと仲良くなりたかったのだ。不屈の精神をもつ彼女に。


 次第にバレットの対応は軟化していったが、他の人に対しては依然として威嚇をする犬のような態度をとっていたが、収容所から解放される頃には誰彼構わず反抗をすることはなくなっていた。


 親にはバレットを家に住まわせて欲しいと一世一代の頼み事をした。当然ながら最初は叱責を受けたが親にはすべてバレていたらしい。

 今考えれば、父親が仕事の関係で行くところにその息子が入り浸っているのだ。連絡がいかないはずがない。それを黙認して僕に自由を与えてくれていた。


 結局バレットは家に住むことは出来なかった。しかし、住むところだけは親が提供してくれたお陰でバレットに会いに行くのに苦労はしなかった。

 成長するにつれてバレットは優しくなっていく。いい大人に触れることで心が豊かになったのだろう。それでも芯の部分は変わっておらず、僕の憧れのままだった。

 そして僕がバレットに抱えていた感情が憧れだけではなく恋慕だというのを知った。

 

 僕は戦うためじゃなく、バレットと一緒にいるために契約をした。


 この学園に入って生徒会長にまで上り詰めたのもバレットの為だったりする。昔のバレットのような人がもしいたら救いたいというバレットの願いを叶える為に力をえる必要があった。

 実力的なものではなく権力で。


「チッ。どうでもいいことを思い出してしまった。アイツのせいだ」


 ガチャリと生徒会室の扉が開く。


「ソロンただいま。ロージスくんは帰ったんだね」


 室内に入ってくると僕の対面にある椅子に座るバレット。


「ああ。話すだけ話して帰って行った。そっちは?」


「話せはしたけどあの子の今後はロージスくんにかかってるかも」


「よく分からんがそっちは任せた」


「ふふっ。任されました」


 バレットは頬杖を付きながらニコニコとした表情で此方を見ている。じっと見てくるため、気恥ずかしくなり目線を反らしてバレットに問う。


「なんだよ」


「助けられそう?」


「何を言っている」


「言ってたじゃん。あの子たちが問題になりそうだから決闘をするって」


「そうだ」


「ソロンはあの子たちが問題を起こすとは言ってなかったよね」


 成長して落ち着いたとしてもバレットは昔と変わらない。こちらの考えていることを分かっているように詰めてくる。バレットの元の性質なのか、小さい頃から共にいることで僕が分かりやすくなっているのか。


「ふん」


「あの子たちがあのまま学校生活過ごしていたら周りから何かをされて問題になるから自分の名前を使って守ろうとしてるんでしょ?」


「ふん。どうだろうな」


「そうじゃなかったら終わった後に話なんかしないよ。昔からソロンは優しい。弱い者に手を差し伸べることのできる優しさを持っている」


「高く見積もりすぎだ」


「そうかも知れないね。でも私の中ではそれだけで十分。そんな貴方が好きだから」


 僕は椅子から立ち上がり、窓辺に寄り外を見る。丁度夕日が見えており、もう少しで日が暮れて夜になるだろう。

 赤い光が窓辺に立つ僕の顔を照らす。


「夕日だ。照れているわけではない」


「まだ何も言ってないよ」


 バレットはまだ、僕を見て笑っていた。


「兎に角、あいつらがなんとかならないと今後に差し支える」


「そうだね」


「一応は直接危害を出されるまで僕たちは手を出さない。それでいいな?」


「不安だけど、いいよ」


 経過観察というわけではないがあの2人の関係がすぐに改善することは無いだろう。少しずつ話し合って徐々に関係性が良質な物へと変化すればそれでいい。

 今日の決闘ではリーナ・ローグの力は分からなかった。

 決闘を受けたという事実によってロージスが契約者というのは間違いないのだが、その時になるまで武器化が出来ないことを知らなかったのだろう。

 武器化が出来るようになった時には観客なしで力をみる必要があるな。


「入学生に他のアーティファクトは居たか?」


「一緒に確認したでしょ?」


「気になる奴という意味だ」


 生徒会長として入学してくる生徒はチェックしている。勿論アーティファクトの存在もだ。ロージス達は入学前から話題になっていたため調べるまでもなかったが、それ以外のアーティファクトは入学時に伝えるだけで校内では隠すこともある。


「1人誰とも契約していない子が居た」


「契約していないアーティファクトが学園に入ってくる事はあるだろう?書類にも書いてあるのが何人かいた」


「普通なら気にならないの。でも契約していないはずなのに不思議な違和感があった」


「どんなものだ?」


「分からない」


 バレットが見て分からないということは意味が分からないということだろう。それならこれ以上の話はする必要がない。


「そうか。ま、問題が起こったら対処すればいいだろう」


「そうだね」


 直近の問題であるロージスたちのことよりは悩みのタネに鳴ることはないだろうと信じて僕たちは帰宅することにした。

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