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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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石を泳ぐ魚

 自分の部屋へと去りゆくリーナの背中を目で追うことはせず、俺は真っ先に寮へと戻る。

 なんだかんだで俺の部屋にリーナが来るのは初めてなのだ。 

 決して浮ついたことをするつもりは無いが人が自分の部屋に来るというのに汚い状態では持て成す側としても不適切だろう。

 

 リーナはそういう所を気にするのだろうか。今までなら「リーナはそういう事に無頓着かも知れない」と自分の中で決めつけてしまっていたかも知れない。自分の中にいるリーナということを信じて、目の前にいるリーナのことを理解していなかった。

 

 とにかく今日の目標はリーナから自分のことを話してもらうことにする。

 

 俺が聞いたことだけを答える存在じゃなくて、自分の意志を俺に伝えてくれるようにしたい。


 そのためにもまずは話しやすい環境づくりをしようと早歩きで部屋に戻っているのだ。



「戻ってきたは良いものの、そもそも荷物なんて殆ど無かったな」


 家から歩いてきた為、重い荷物などは無い。自分の居服などは最低限のものを送ってもらっているし買い物へ出かけることもなかった。この部屋はただ寝るだけの部屋だったから娯楽のためのものも何もない。


「物が沢山あって散らかってるよりは何もない方がいいか」


 最低限部屋の掃除を終え、椅子に座ってリーナを待つ。


「そういえばリーナは来るって言ってたけど俺の部屋の場所知ってたっけ」


 寮に在中している寮母さんに聞けば分かることなのだがリーナに対してこの世界の人が素直に教えてくれるとも限らない。

 敢えて嘘を伝えたりして困らせる可能性もある。


「迎えに行ったほうがいいのかも知れないが」


 リーナが自分から俺に対して提案してきたことは数少ない。今日の「部屋で待ってて」という簡単なお願いでも、リーナが俺に対して提示してきた提案であることには間違いない。

 ギリギリまで部屋で待ってリーナを信じることにしたほうがいいだろう。



 やることもなく1時間ほど経った頃だろうか、暇すぎてベットで横になってウトウトしていた時に部屋の扉が叩かれる音がした。


「ロージスくんいますか?」


 聞いた事があるような声だったがこの部屋に訪ねてくる予定はリーナしか無く、誰がノックをしたのか見当もつかない。

 一応呼びかけには応える。


「はい」


「寮母のエリスです。リーナ・ローグさんという方が貴方を訪ねに来ていますがお知り合いですか?」


 リーナは部屋が分からないため寮母さんであるエリスさんに聞いたみたいだ。エリスさんはすぐにリーナに伝えることはせず俺の許可を取りに来たということだろう。

 俺は部屋の扉を開けてエリスさんに対して返答を述べる。

 会ったことがあるはずなのだが印象に残っていなかったエリスさん。その姿は寮母と言うにはあまりにも若く、俺と10歳も歳が離れていないようにも見える。


「リーナは、えっと、俺の大切な人なので大丈夫です。それにしてもえっと……」


「どうかしましたか?」


「いや、リーナが男子寮に来たらすぐに追い出される可能性も考えていたので」


「だから私が対応しているのです」


 エリスさんの言葉に疑問が浮かぶ。エリスさんが対応することがリーナを迎え入れることに結びつかない。


「どういうことですか?」


「この寮の中を移動するのなら私とともにいるのが最善ということですよ。寮母とともにいれば男子寮の人はあの子に手を出すことも暴言を吐くこともないでしょう」


 陰口を叩かれることはあると思いますが、と最後に小声でポツリ。


「リーナさんは今、寮母室に居てもらっています。ロージスくんがいいのなら連れてきますよ」


「是非ともお願いします。リーナを部屋で待つっていう約束をしているので」


 口元に手を持ってきて僅かに微笑む様は庶民の所作ではなく貴族の所作だった。服装や髪までも手入れが行き届いているエリスさんがなぜ寮母をやっているのかは敢えては聞かない。


「そうですか。それでは少しお待ち下さいね」


「どうして、リーナに優しくしてくれるんですか?」


「優しく?いえいえ。この寮に訪ねてきた生徒を指導するのも導くのも寮母の役目です。一生徒ということには変わりありませんよ」


 ソロンといい、エリスさんといい、グレンバードの家族といい世間の考え方と違って自分の中の信念を突き通している生き方をしている。

 俺も自分の中の信念を突き通していれば、周りの目を気にせずにリーナと一緒にいられるとそう信じている。


sideエリス


 学生たちが寮に戻るのは基本的には夕方の門限近くが多い。貴族とは言え学生。遊びに行ったり、勉強をしたりと忙しい生活を送っているため夕方までは寮は手隙になる。


 今日もいつも通り、片付けをしたり夕食の準備をしたりと動こうと寮母室で寛いでいた私の部屋にノックの音が響いた。


「はい?」


 この部屋をノックするということは寮母である私に用事があるということ。仕事モードに切り替えて扉を開けた。


 そこにいたのはこの世界では忌み嫌われる容姿をした女の子。白髪に赤い髪。一目で分かるほどのこの世界にとっての異端者。

 一応、私も風の噂では聞いていた。悪魔の子が入学してくるという話。私には関係ないことだと思っていたけど目の前にいる以上関係のない話とはいえない。


「どうかしましたか?」


「私はリーナ・ローグ。ロージスの部屋を知りたい」


「何の御用ですか?」


「えっと、話をする。ちゃんと話をしたい」


 まるで容量を得ませんが、このような人はここで話していても埒が明かない事はこれまでの寮母生活で知っています。

 私の部屋の前にこの容姿の子を立たせる訳にはいかないため、取り敢えず部屋に招き入れます。


「取り敢えずロージスくんに確認を取ってきます」


「分かった」


「目上の人には敬語を使いなさい。それとこの部屋のものには触らずに大人しく待っていること、いいですね?」


「分か、りました」


 これから忙しくなるという時間に無駄な時間を使わされる事に嫌気もさしたがいつもとは少しだけ違う日常に少しだけ楽しくなったのは内緒である。

 

 その後ロージスくんの部屋に行き、リーナさんがロージスくんへのお客さんということの言質を取りました。2人の関係性は分かりませんが互いに互いのことを考えていることだけは私にも分かります。

 面白い生徒が入ってきたと少しだけ心が高ぶりました。


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