2人で1つ
「武器化できなかった理由?その口振りだと実力じゃないのか?」
「実力だったら僕も出来ない。はっきり言って僕だけの戦闘能力だけで言ったらお前と同じくらいか、下かもしれん」
ソロンは胸を張って答える。自分が弱いと自信満々で言うその姿は情けなくもなく、俺とは正反対に見えた。
俺は自分が弱いことを恥だと思っているがソロンはそうは思っていない。それも自分だと認めているようにも見える。
「僕の魔法は火属性。そして爆発魔法を使う。ただ大きな爆発を使えるわけではない。ちいさな爆発、それも自分から十数センチの距離にしか使えん」
先ほどの戦いではソロンの魔法は見なかった。初めからバレットを武器化していて戦っていたからだ。バレットの撃ち出した弾丸は着弾とともに爆発していたため、ソロンの魔術系統は嘘をついていないと分かる。
俺の魔法の属性も火だからリーナの火の剣と相性が良く使えている。武器化をするのに相性の良し悪しが関係あるのなら武器化ができなかった理由にはならない。
「バレットを武器化し、銃の中で小さな爆発を起こしてその衝撃を使い魔力の玉を撃っている。弾が爆発するのはバレットと僕の魔力が融合しているからだと思ってくれればいい」
「融合?」
「覚えはないか?お前の属性とリーナ・ローグの武器化が混ざり合ったような感覚を」
確かに剣から炎がでた記憶がある。あれはリーナがやったことだと思っていたが、リーナが俺の魔力を利用してやったことだったのかも知れない。
リーナも火属性の魔法を使うため、聞いてみないことには判断できない。
「あるかもしれない。正直よくわかんね」
「ふん。まあいい。話は戻るがアーティファクトと一緒にいるのに必要なものが実力であった場合、僕はバレットとは一緒に居られるはずがない」
ソロンは腕を組み背もたれに寄りかかりながら話す。最初に会った頃よりはフランクに喋ってくれている気がする。
ソロンが言う通りの実力ならアーティファクトと呼ばれる存在と契約をするのは無理だろう。そもそも、俺だって実力がないからリーナとの契約が出来ていないはずなのだ。
でも現に出来ている。
「アーティファクトと共にいる為に必要なのは互いに想い合うことだ」
「互いに想い合うこと?」
「俺自身の話をする。俺はバレットを好いている」
ソロンは恥ずかしがる素振りを見せず、まっすぐと俺の目をみてそう宣言した。今の話の流れで恋バナが再開されるとは思っていなかったため、頭の中でソロンが言った言葉を考え直してしまった。
バレットを好いているということは、恋人?片思い?そのような関係ということだ。
「お、おう。そうか」
「因みにバレットも俺のことを好いてくれている。両想いだ」
両想いだった。その事を恥ずかしがりもせず俺に伝えるソロンの姿に俺は恥ずかしくもなる。
人に向かって好きと言えるのは堂々としているが恥ずかしさはないのだろうか。
「なんつーか、恥ずかしくねーの?」
「恥ずかしがる必要が何処にある。後ろめたいことなど何もない。寧ろこの想いがあるからこそ俺たちは武器化出来ていると言ってもいい」
「何で武器化の話が出るんだよ」
「理解力が乏しいな。俺とリーナは互いに想い合っている。1つの方向を向いていると言ってもいい。俺はバレットを裏切ることはないし、バレットが俺を裏切ることもないと信じている」
「それなら俺だってリーナを」
好きでいることが条件ならば俺はその条件を達成しているはずだ。リーナのことは好きだ。今ならそれを言える。
「リーナ・ローグはどう思っている?」
ソロンからの問いに対して俺の思考は止まった。動き出した思考で幾ら考えてもリーナの気持ちは分からなかった。俺は出会った時にリーナに好きと伝えた。リーナからは自分の感情を伝えてもらうことは一度もなく、リーナが何を考えているか分からないと思うことも少なくなかった。
俺の想いとリーナの想いが違う事を考えないようにしていたのかもしれない。
「それにお前は決闘の時、リーナ・ローグを信用していたか?疑っては居なかったか?同じ方向を向けていたか?」
あの時の俺は――。
「いや、出来てなかった。リーナのことを不気味に思っていたし、劣等感を抱えても居た。一緒に居ることに苦しみを覚えていた。そうか、ソロン先輩のいう通りなら俺が武器化出来なかったのって」
ソロンの方を向くと俺の目を見て頷く。ここで出す答えが正しいか正しくないかは関係ない。俺が自分自身で考えて今後に活かしていくことが大事なのだ。
間違っていたら間違っていると言ってくれる人がいる。それに甘えて、俺は成長したい。
「俺達のせいだったんだな。2人で戦っているのに互いの理解が足りなかった。だから武器化出来ずに一緒に戦えなかった。そういうことか?」
「恐らくそうだろう。僕も専門家ではないし詳しいことは分からない。ただアーティファクトと契約者は同じ方向や同じ目的など、互いを理解し信用し合うことで武器化ないし、強い力を得られると考えている。僕も初めの頃はバレットの力を使いこなせずに悩んだが、常にバレットと一緒にいることで彼女のことを沢山知り、次第に学園でもトップの実力になった。アーティファクトと契約者はは2人で1つの存在なんだよ」
2人で1つ。リーナの実力が優れていて、俺の実力が劣っているのではなくてその2つを理解することで新しい力となる。
俺達に必要なのは訓練や特訓ではなく、互いに話し合うことだったのだ。
家にいた時も、ここに来る時も、学園に来てからだってリーナとしっかり話したことはない。リーナが何を思ってそういう行動をしたのか確りと聞かずに決めつけてしまっていたかもしれない。俺がリーナの力に恐れて会話もせずに押さえつけていた。
口下手なリーナに対して、俺がコミュニケーションを取る努力をするべきだった。
「そっか。それじゃリーナを理解することから始めなきゃこの先生きていけないな」
「劣等感はまだあるか?」
「わからねぇ。多分これは一生消えないもんだ。でもリーナに対して思ってもそれを伝えるべきだってことは分かる。2人の問題は1人で悩むもんじゃない。2人で悩まなきゃいけない。だから、この後リーナとちゃんと話すよ。リーナが何をしたいのか。何を思っているのか。」
「そうか。それならもう出ていけ。話は終わりだ。リーナ・ローグはバレットに任せてあるから安心しろ」
ソロンは動物を追い払うような手つきで俺を生徒会室から追い出す。「ありがとうございました」と一言伝えると、何も言わずに生徒会室の扉を閉められてしまった。
リーナが今何処にいるか分からないが今の気持ちのまま話したほうがいい。リーナはバレット先輩と一緒にいるらしいからリーナの領で待つことにする。女子寮に男子生徒が待ち伏せするのは良くないと思うが背に腹は代えられない。
予め何を話すか決めておいたほうがいいだろう。俺も感情的になってしまうかもしれない。リーナの新たな一面をみてしまうかもしれない。色々な覚悟を持って俺は外へと歩みだす。




