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出会い

 俺の名前はロージス・グレンバード。グレンバード領を治める家の三男だ。今年で15になり、王都の学園に通うことになっている。長男と次男が家のことをやっているため、俺は普段から遊び呆けていて学園に通うまではやることがない。

 

 当然家のものには貴族としての勉強や作法などを覚えろと言われているが、俺は三男であるためお飾り貴族といっても差し支えないだろう。家族から疎まれているわけではないが、こんな俺をどのように扱って良いのか困っているようだった。


 俺は俺でやりたいように生きているだけだ。望むことならば貴族という立場すらも捨てたい。


 だからいつものように街に出た。


「よぉ。ロージスじゃねーか」


「ロージス!元気か?」


「ロージスー!遊んでー!」

 

 街に出たら俺を貴族と知らない人たちから沢山の声をかけられる。長男次男の顔は知れ渡っているが貴族の責務を行っていない俺は、家名を名乗らない限り、この街ではただのロージスで居られるのだ。


 俺が街に出ている理由は暇だからと言うのが一番大きいがもう一つ理由がある。それは家でのこと。



「奴隷商人のアジトが見つかった」


 少しだけ空いたドアの隙間から親父と兄貴が話しているのが見えたため俺は聞き耳を立てる。奴隷商人。奴隷を使った商売はこの街だけではなくこの国全体で禁止されている。それにも関わらず裏では未だに奴隷売買が行われているという。


 では何故奴隷商が居なくならないかというと、貴族との癒着だ。高い金で奴隷を売り、そのお金の一部を貴族に流すことで守ってもらうらしい。この街ではそのようなことは親父が許さない。


 聞き耳を立てて話を聞くと、奴隷商のアジトは九番街の裏路地にあるらしい。

 その次の日には俺の行動は始まっていた。正義感や使命感ではない。ただ面白そうという理由だけでオレは動いている。



「九番街遠すぎるだろ」


 グレンバード家から一番遠い位置に九番街はある。一番遠いということは一番目につきにくいということであり、犯罪の温床になっていたこともあると聞く。父上がそのへんは解決したらしいが、それでもまだ犯罪は無くなっていない。


 普通に過ごしている人はこの辺りには立ち寄ることはない。単純に危険だからだ。物が盗まれるだけならばまだいい。命を取られる可能性もある。この場に近づくのは犯罪を犯す人か、住むところが無くなった浮浪者だけだろう。


「確か『九番街の仕立て屋の裏通りをまっすぐ進んだ所』にあるんだったか」


 歩いていると看板に仕立て屋と書かれた店がある。その横には薄暗い通りがあった。奥の方は見えないがかなり長くまで続いているのだろう。


 俺はためらいもなくその道を進んでいく。薄暗い道であるためか、人の気配は全くしないまま1つの建物に突き当たった。店の名前は『ラフロイグ』と書かれており、看板には酒のイラストが描かれていた。


「兄貴は酒屋に偽装してるって言ってたよな……」


 恐らくここのことで間違いないだろう。今日の夜にも親父たちはここに奇襲をかけるという。ここにいる者共は全員殺されるだろう。奴隷たちは解放されるがその後のことは家の領では管理できないため、結局物乞いになったり犯罪に手を染めたりする。そのようにならないためにも奴隷は禁止されているのだ。


 酒場の壁に耳を当ててみると人の声がした。中には複数人がいるみたいだ。


「今日新しい奴隷が来るんだってな」

「なんでも偉い別嬪らしいぞ」

「売る前に楽しめればいいがそんなことしたら商品にならないからな」

「どうせ綺麗なものほど売られた先ではまともな扱いはされんよ」


 話す内容からも、ここが奴隷に関する何かをしていることは明白だ。中に入って色々調べたいが入り口は1つしか無いため厳しい。

 俺が来た道とは別の道から足音が聞こえた。俺は急いで建物の陰に隠れると息を潜める。越えた豚のような身なりの言い男が1人の人間に首輪を付けて連れてきた。連れられた人は抵抗もせず男の後ろを付いているようだ。距離がまだ遠く、はっきりとは見えないが前を歩く男と比べても華奢に見える。


「ふふ、こんな上物が手に入るとは……一体幾らの値が付くんでしょうかねぇ」

「…………」

「お前に聞いているんですよ!そんな髪と目をした魔物のガキ!」


 男は持っている首輪を強く引っ張る。その反動で後ろを付いていた人は転んでしまった。


「傷を付けるわけにはいかないんですがねぇ。早く立て」


 無理やり首輪を引っ張り立ち上がらせる。かなり近くに来ているため男の姿ははっきりと見えるが、後ろの人の顔は男の巨体に隠されていて見ることが出来ない。

 男が拠点へと向かう。俺はバレないように音を立てずに隠れる。俺の隠れている場所の横を通り過ぎた時、俺はバレなかったことに安堵した。


 後ろを歩いていた人は俺に気付いたらしい。声を上げなかったことには感謝したい。ただ俺のほうが声を上げそうになったのだ。後ろに引かれていたのは俺と同い年の少女だった。華奢に見えたので女である可能性は考えていたが俺が驚いたのは別の理由だった。


 一目惚れというのだろうか。貴族であるが故、家に色んな貴族の人が来ているのを見たことがある。家に来た誰よりもその少女は美しかった。顔は整っており、髪は白く、目は赤い。薄暗い路地裏ですらその髪と目の輝きには光を感じた。奴隷というだけあって薄汚れていたが、それを感じさせないくらいに美しかったのだ。


 白い髪と目はそれぞれ単体でも忌み嫌われる。魔族に多いかららしい。俺は見たことがないが。それでも奴隷として扱われていいはずはない。


「あの子を今日の夜までに助けないと」


 奴隷商はアジトに入っていく。商品は大事にすると言っていたので直ぐになにかされるとは思えない。何かを起こすとすれば今日の夜のグレンバード家だ。下手すればこのアジトを燃やすかもしれない。他の奴隷は兄貴や親父がどうにかするだろう。ただあの子だけは俺が助けたい。かっこいい所を見せたいのだ。


 その日の夜、親父たちが攻め入る混乱を付いて俺は彼女を助け出す。


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