リーナの心
出会ったところは奴隷商館の入り口だったと思う。その時はどうしてここに男の子がいるのかと思った。私は悪魔の子として忌み嫌われて生きてきたのだ。誰からも愛されず、なぜ自分がここにいるのか、どのようにして、生まれたのかも分からない。
ただ1つ分かることは私がアーティファクトということだけ。それを誰かに伝えることが悪いことだということも分かっていた。何かの拍子でバレるたびに色々な所を転々としていた。
木に凭れ掛かり寝ていた所を奴隷商に捕まった。悪魔の子を忌み嫌うものが多いため、それを痛めつけることが快感に繋がるものへと売るらしい。
その商館の地下では無数の死体があった。死体なんて見慣れている。私は見たこと無いはずなのに死体を見ても何も思わずいつものことだと、そう思った。
そこに捕まって自分が売られるのを待つ時間だけが過ぎていく。何をしても私は死なない。自殺しようとしたこともあったけど、身体が頑丈で死ねなかった。多分アーティファクトだから。悪魔の子と忌み嫌われるのも、誰からも否定されるのも私は嫌になり早く死にたいのにアーティファクトというだけで死ねない。私が経験していないはずの知識も何故かある。これもアーティファクトだから。
捕まっている私の耳に情けない声が聞こえた。たぶん男の子の声。ここに捕まっている人は全員死んでいる。おそらく新しく連れてこられた人だろうと思ったが、それは間違いだった。その男の子は私の囚われている牢の前に立ち。
「君を助けたかった」
そう言い放った。最初は何を言っているのか分からなかった。悪魔の子と呼ばれて迫害される私を助けようとする人なんているはずがない。そう思って彼に悪態を着く。
「一目惚れした」
確かにそういったのだ。忌々しい白髪も、赤い瞳も只々嫌いなだけでこれがなければと何度思ったことだろう。それでもこの男の子は私に対して一目惚れと言った。そう言って騙してくる人は今迄1人も居なかった。そんな事をしても何も得にならないからだ。彼の眼は嘘を言っているようには見えなかった。
そして私の心にも火がついた。
向こうから、牢の皆を殺した人がやってくる。このままでは彼も殺されてしまう。それだけは何としても避けなければならない。私が守らなければならない。彼は弱い。だから私が。
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私とロージスはアーティファクトとしての契約を結んだ。これで一生一緒。ロージスが死ねば契約は解消されるけどロージスは私が守るからロージスの寿命まで絶対に死なせない。最後に見るのは私が良いな。契約者の手によってなら私は死ねるのかな。ロージスが死ぬ時に私も殺してほしい。
契約したから分かる。ロージスは私の事が好き。私は私の事を好きと言ってくれているロージスのことが好き。
だから守った。
ロージスを殺そうとする人を殺してロージスを守った。
そうしたらロージスはおかしくなった。
人を殺してしまっただけのことに何を恐れているのだろう。殺したのは私。ロージスは私に振り回されていただけで直接殺して居ないのに。どうしてそんな顔をしているのか私には分からない。
きっと恐怖という感情がロージスを困らせている。ならその感情を燃やしてしまえば良い。今は大きくなっているその感情を少しだけ残して灰にする。全部は駄目。その恐怖もロージスだから。大きくなった恐怖の感情は私に対しての感情じゃない。
だから要らない。
だから燃やすの。
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そこから暫くグレンバード家に世話になった。ロージスやそのお兄さん、お父さんの言葉があったからかぎこちないながらも私の世話をしてくれる人がいた。人生で初めての経験だったが、これもすべてロージスのおかげ。ロージスがお兄さんやお父さんに言ってくれたから今の私はいる。
契約者になった私はロージスと共に学園に行くことになった。言われなくても付いていくつもりだったが都合が良かった。外に出るなら着るようにと言われてフード付きの服も渡されたが、ロージスに言われるまで私は着ない。
ロージスが綺麗と言ってくれる髪も目もロージスに見てもらいたいから。2人で短い旅をするのになぜ隠さなければならないのか。
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ロージスと言っていた村に着くと、私の姿を見て見張り番は私のことを罵った。そんな事は長い間で慣れている。私は全く気にしないのにロージスは悪口を言われている私を見て怒っていた。愛されていると言う感覚が分かる。
その見張りはこともあろうにロービスに対して悪口を吐いた。気に入らない。許せない。殺してやる。
そう思ったけど最初に人を殺した時に、ロージスは酷く落ち込んだ。多分人を殺すとロージスは落ち込むんだ。だから殺さない。でも許せない。
私がロージスを守るために前に立つと見張り番は私を両手で突き飛ばした。私に触った。ロージス以外には触れてほしくないのに。グレンバード家でお風呂の時でも手伝いを拒否したのに。
こいつは触った。
この場で燃やすのは良くない。ロージスがきっと気にする。人を殺すのも気にするため時間差で魔法を発動させることにする。私達が歩いている頃には深くなった夜に村明かりとして見張りの両腕は輝くだろう。
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王都までの道のりではロージスにフードを被るように言われた。私の髪とか目が好きなロージスが、それを見られないのは良いのか疑問に思ったがロージスの言う通りにする。
王都の入り口では一悶着あったが私がアーティファクトだと証明するとすぐに入れてもらえた。
王都の中で小さな声が聞こえてそれをロージスに伝えた。助けに行くというロージス。関係ない人を助ける理由が分からないがロージスが行くなら私も行く。一生一緒だから。
行った先にはアーティファクト使いと蹲って動かない少女。あれは死んでる。もう助からないからどうでもいい。それなのにロージスは助けると言っている。もう死んでいるのに。助けられないのに。そもそも助ける必要なんてないよ。
まだ少女が生きているという理想に囚われているロージスは少女を助けるためにアーティファクト使いの前に姿を現す。
ロージスを守るのが私の今のやりたいこと。だからロージスを後ろに隠す。だってロージスは弱いから。すぐに人は死んじゃうから。
相手が何かを言っている。アーティファクトの男はロージスを殺して、私との契約を断ち切ると言っている。
ロージスと王都に来た時に約束をした。『人には危害を加えない』と『命の危険がある時以外』だったっけ。
じゃあ大丈夫。あの男はロージスを殺すと言ったからロージスの命の危険。あいつはアーティファクトだから人じゃない。勿論私も人じゃない。だから殺しても大丈夫。人じゃないからロージスも落ち込まない。
武器化しようとする相手を燃やす。人の方を燃やさないように慎重に。ロージス、見て。私ちゃんと人は殺さなかったよ。貴方のために出来る。
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私はちゃんと約束を守ったのに破ったと言われた。多分まだ何か足りてないんだろう。ロージスの理想に。
ロージスとの約束は何だって守るからなんでも言ってほしい。貴方の言葉が何も無い私に火を灯したの。だから貴方には私を使う権利も縛る権利も殺す権利もある。
だから守るよ。他の何にも貴方が私に対しての権利を犯すことが出来ないように。




