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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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真意を問う

 その後、俺は見回りをしている衛兵に事のあらましを伝えた。王都ではあまりこのような事件の話を聞かない。王都から近い所にある領ではあるため、何かがあれば噂程度には流れてくる。

 その噂すらも聞いたことがない。俺の耳に入っていないだけかもしれないが、街の人たちはそういう噂には敏感だ。酒場でも街中でも一切王都で事件があることを聞いたことがないため勝手に安心できる場所だと思っていた。


 でも、それは表の話だった。一歩だけ王都の日の目の当たらない部分へ歩みだせば今日のような光景があるのだろう。あの二人組も今回が初犯には見えなかったし、日常的に弱者に対して暴力を振るっているのだろう。


 あの二人組が言っていたが、契約者のいないアーティファクトは高く売れるらしい。まだ、自分の力に気づいていないアーティファクトを売って金銭を稼ぐということはそれを買う人がいるということ。


 俺の思っていた王都の姿とは違う、闇を垣間見た気がした。




「すみません。部屋って空いてますか?」


「空いてるよ」


「二部屋お願いします」


「銀貨2枚ね。うちの宿屋は安い代わりに食事等は付けてないからそこは自分で何とかしてくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 手頃な宿屋を見つけて部屋を借りた。成人男性の一ヶ月の給料が金貨20枚程度。銀貨10枚で金貨1枚の価値になるため、この宿はかなりリーズナブルと言えるだろう。


「私は同じ部屋でもよかった」


「いや、駄目だろ」


 この歳の男女が同じ部屋で2人きりというのは外聞が悪い。これから学園に入るのに変な噂が立ってしまっては学園生活に支障が出るかも知れない。

 それに、今のリーナと2人きりで夜を明かすのはなんとなく怖い。それは今から話すことにも関わってくるが、何を考えているのか正直わからないのだ。


「とりあえず俺の部屋で話がある」


「分かった」


 まずは話して、リーナの真意を問わないといけない。なぜ、あの時人を殺したのか。殺さずに無力化することも出来たのではないか。最悪、武器化して戦ったら何とか出来たのではないか。思いつくだけでも聞きたいことがたくさんある。


 死んだ少女も、いなくなった男も俺は見た。

 それでも前ほど動揺はしなかった。

 自分が命に危機に瀕した後は自分の命が助かってよかったと、それだけしか思えなかった。




「まず聞きたいのは、あの男を殺したのはリーナか?」


 部屋の中には椅子が2つ置かれていたので俺達は向かい合わせに座った。リーナは室内ということでフード付きの服は脱いでいた。改めて見ても、俺には美人に見える。ただ、前ほど見た目だけで心惹かれるということは無くなっている自分にも気が付いた。

 いくら見た目が好みでも目の前で人を殺すのを見れば自分の思いが肯定されるのか分からなくなる。


「うん」


「どうして約束を破った?」


「約束?」


「人を攻撃しないように約束しただろ。それなのにリーナはあの男を殺した。その理由が知りたい」


 正当な理由があれば許せると思うから。許したいと俺が思っているから。言い訳でも何でもいいから人を殺したことに負い目を感じていてほしい。


 リーナは僅かな沈黙の後、ぽつりぽつりと言葉をこぼした。


「私、破ってない」


「え?」


「私約束破ってない」


「いや、だってあの男の人殺したんだろ?なら、攻撃してるし破ってるじゃねーか」


「あの男は武器。アーティファクト。人じゃない。それに人間の女は攻撃しなかった。命の危機があるときは攻撃してもいいって言った。ちゃんと約束は守った」


「……は?」


 リーナの言い分は至極単純だった。アーティファクトは武器だから人間じゃない、だから殺しても約束違反じゃないとそう言っている。

 俺がリーナを人間だと思っているのにリーナはやっぱりアーティファクトの事は武器としか思えない事が分かる。リーナに感じていた不安や違和感の正体がやっと分かった。


 俺は人間として、ルールや秩序を無意識的に意識をして生活している。人を殺すのも攻撃するのも良いことではないと。

 

 しかしリーナは武器であるため何かを攻撃することが本懐だ。だから、約束があるから人を攻撃しないだけで無かったら人を攻撃する。


 考え方が根本から違うのだ。


「それにロージスは前、人を殺した時に落ち込んでた。だから今回は人を殺さなかった」


 俺のためを思っていると、俺に対しての追撃をかける。そんな事をされても俺は嬉しくない。そういった人間の感情が分かっていないのだ。


「分かった。じゃあ約束を増やそう」


「いいけど。どんどん縛りが増えてく」


「ごめんな。人間として生きていく為に必要なことなんだ」


 俺の心がリーナに対する恐怖心や疑心に支配される前に。俺がちゃんと人として生きていけるためにリーナには制約を設けなければならない。


「人だけじゃない。生物を攻撃するときは必ず俺に一言聞いてくれ。アーティファクトとして止むを得ないこともあると思う。2人で相談して決めよう」


「分かった」


「命の危険があるときは相手を攻撃することよりも守ることを優先してほしい」


「守る?」


「今はよく分からないけど、相手を殺すとかいうのはなし」


「分かった。とにかく生物を殺さなければいいってこと?」


「そうだな。もし必要そうなことなら俺と相談しよう」


 リーナは了承する。そこにリーナ自身の意思はあるのだろうか。言われたからやる、誰かに使われる武器としての考え方が染み付いているのだろう。


 リーナを部屋に行かせ、俺は自分のベッドに横になる。


「リーナは俺のことどう思ってんのかな」


 好きとか嫌いとか思っていなくてもいい。ただ信頼はしていてほしいと思う出会ってから過ごした期間は短いが、契約している関係。ジャックとエミリアと戦った時には動揺してリーナが俺を見限るかと考えてしまった。

 冷静になって考えてみればリーナは自発的にそんな事はやらないと分かる。良くも悪くも主体性が少ないのだ。


 命の危険を感じたから相手を殺した事で、リーナにも生きる事に対する執念が少しはあることが分かった。それだけでも俺はリーナのことを知れた気がする。


「なんか、気まずいな……」


 俺が指示をしてそれを守るだけの関係が契約者としての正しい姿なのか俺にはわからない。

町が光ってましたとさ。明るいね。

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