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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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13/93

一瞬

 俺に声をかけられた二人組は俺の方へと振り向く。


「あ?なんだてめぇ?」


 アーティファクトの男がこちらに対して問いかける。この場で自分の素性を話すわけには行かない。リーナはフードを被っているが俺は素顔のまま。学園に入る生徒だとバレてしまっては後々問題になるかもしれない。


「えっと、そこに寝てる子の知り合いで助けに来た」


「は?こいつはこの辺に住み着いてる孤児のガキだ。お前みたいな身なりのいい知り合いがいるかよ」


 少女の着ている服はボロボロの布切れを縫い合わせたような服とも呼べぬような代物。それに対して俺の来ている服は貴族として失意のいい布で作られたもの。相反しているそれは俺の嘘をいとも容易く見破る。


「なんでもいい。その子から離れて」


 リーナが俺の前に立つ。俺の素顔が相手に見えないように立ち回ってくれているのだろう。何も言っていないのに気が利く。でもこの構図は俺がリーナに守られているみたいで少し情けなく感じる。


「はぁ?……ってあんたもアーティファクトじゃない」


 二人組の女の方がこちらに向かって歩き出す。後ろで見ている男も、女の言葉をニヤニヤしながら聞いていた。そして値踏みをするような目でリーナの方を見ている。そんな目から俺はリーナを守ろうと前に出ようとしたがリーナの手に阻まれた。


「アーティファクトは頑丈。後ろにいて」


「いや、でも」


「ロージスは死ぬ」


 その言葉にショックはない。事実、アーティファクトとの戦いになったら俺は契約者としても未熟なためリーナに任せっきりになってしまう。相手からしたら弱点は俺であり、俺が狙われるのは当然のことだ。

 それでも守ってあげたい相手に守られ、さらには弱者として見られているのはとても惨めだ。


 相手のアーティファクト使いは主観で言うなら悪い奴らだ。それでも彼女等は互いを対等に扱っている。その点では俺よりも優れていると言える。


「あんたさ、そこのガキと契約してんの?」


「うん」


「ならさ、そんな弱いやつとの契約なんて切ってもっと優秀な人と契約しなよ。私たちが紹介してあげるからさ」


 女の提案にリーナはこちらに目を向ける。まさかとは思うが、契約を切ったりなんてことはしないと思いたい。長い期間同じ家で過ごした仲。


 いや、ただ同じ家で過ごしただけだ。その間、アーティファクトの契約者としては何もしていないし俺とリーナの関係性は契約者という名前に縛られているものでしかない。

 

 信頼関係なんて何もないのだ。


「分かった分かった。それじゃ優しい俺達がそのガキを殺してやるからさ。それから考えればいいじゃん」


「ナイスアイデア」


 死ぬ?俺が?リーナに裏切られてここで死ぬのか?すべての始まりは俺の好奇心から始まっている。何もかもがだ。

 今回だって俺が助けるといい出したからこうなっている。俺が自発的に動くとどうしてこんなに命の危機に瀕することになる。


「ジャック!」


 女は呼ぶ。


「エミリア!」


 男はそれに応える。 

 エミリアと呼ばれた女は此方を見ながら後ろにいるジョックと呼ばれた男に手を伸ばしている。此方から目線を外さずに契約者を武器化させるつもりなのはすぐに分かった。


「ガキィ!死ねや!」


 ジャックは俺を見ながら高々に宣言するとエミリアの手を握った。その瞬間、大きく眩しい光が辺りを包み込む。今まで暗闇だった為、急な発光に目を瞑るのが一瞬遅れてしまった。

 それは恐らく相手の狙い。暗い中で慣れた目に急な発光で目眩ましをして動揺している間に攻撃をするつもりだ。


 しかしいつまで経っても俺への攻撃は疎か、戦闘音すらも聞こえてこない。


 辛うじて目の前が見える程度には視力が回復し、目の前を見るとジャックの姿はどこにも無い。


「ねぇジャック!彼奴等の目眩ましなんて何とでもなる!早く武器化して!」


 エミリアは必死にジャックの名前を呼んでいる。俺からすればそこにジャックの姿はない。エミリアは先程の発光を俺達の仕業だと思っているがやったのは俺じゃない。


「ジャックいつまで手握ってんの!早く武器化!」


 そこにジャックは居ない。


「やっと目が見えてきた。何してんのよジャ……」


 ここからでは遠くて何がなんだかわからない。まだ目が完全に見える状態にはなっていないが、エミリアが後ろを振り返り動かなくなったことだけは分かる。そして何かを見てしまったのだ。


「えっ……。きゃああああああああああ!なにっ!?なんで!?ジャック!?どこ!?」


 エミリアが何かに驚き手に持っていたものを此方へと投げ捨ててきた。数回跳ねるように飛んできたそれは俺の足元へと落ちてきた。近くにあるものなら今の俺でも見える。


「これは……うっ。なんだこれ、腕……か?」


 目の前にあるのは先程まで血が通っていたであろうほどの血色のいい腕だった。血は全く出ておらず、嗅いだことのない嫌な臭がする。


「居なくなったよ」


 リーナがエミリアに語りかけると錯乱した後放心していたが理性を取り戻す。今の状況はほんの十数秒前までとは違い、立場が完全に虐待していた。


「え?」


「ジャックってアーティファクト。もう居ないよ。貴方はもう1人。まだやる?」


 立っているリーナの顔は後ろにいる俺からは見えない。恐らくエミリアもフードをかぶったリーナのことは見えていない筈だ。それにも関わらず、目の前のものに恐怖以外の感情が感じられない生物の顔をしていた。


「え、あ、いや、えへへ。しません。助けてください」


 強者に対してヘラヘラと媚びへつらいながら自分が生きることを懇願する惨めな女。ただ、その女は俺と同じようにも見えた。強者の前では何も出来ず、ただ動けなくなっている俺と同じ。


 助けてくれと誰かが言ってもコイツらは絶対に助けない。殴られていた少女だって助けを求めたがコイツらは全く聞かなかった。そんな奴らの命乞いを聞く価値なんて無いが、俺はコイツラと同じ立場には落ちたくない。


「なぁ」


「は、はい!……な、なんでしょうか」


 俺はリーナの後ろからエミリアの前まで歩いていく。今度はリーナが俺を止めることはなかった。何もしていない俺に対しても恐怖で顔が引きつっている。俺が強者な訳では無いが、相手が明らかに下の立場なのをこの目で見ると……。湧き上がるこの感情はなんだろうか。


「もう、二度とこんな事やらないな?」


「は、はい?」


「もう二度と、誰かを虐げたり暴力で解決しようとしないな?って聞いてるんだよ!」


「は、はい!ジャックっていう武器もないしもうやりません!」


 こいつは力を持ったら駄目な人間だったみたいだ。今だって自分が悪いから今後やらないのではなく、武器がなくなったから出来くなったからやらないとそう言っている。


 俺がエミリアと話しているとリーナが殴られていた少女のそばへ向かっていくのが見えた。そしてしゃがみ込み、少女の顔を確認する。


「どうだ?」


「死んでる。アーティファクトでも人間の体のまま死ねばそのままの姿で死ぬ。息もしていないし体温もない。もう助からないよ」


「そうか」


 俺達が助けに来ても、助けに来なくてもこの子は死んでいた。もしかしたら俺達が来たのを感づいてしまったとしたら死ぬ前に僅かな希望の光を見せてしまったかもしれない。

 また俺は何も出来なかった。


「おい、エミリア」


「え、あの、まだ何か?えへへ」


「衛兵呼んでくる。そこを動くな」


 こいつは王都で人殺しを犯した。それなら裁くのは俺じゃない。王都の問題は王都でどうにかしてもらう他無い。


 それよりも俺はリーナに聞かなければならないことがある。どうして俺との約束を破ったのか。

 路地の外に出てから話し合う必要がありそうだ。



汚ねえ花火

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